第4話  ルカ・レスレクシオンの魔剣

 2年前、俺達はここでかの有名な天才魔法使いである魔法機械技師ルカ・レスレクシオンに出会った。


 彼女は年齢は明かさなかったがシャルロット曰く、どう低く見積もっても60歳を超えるらしいが、見た目の若々しさから30前半に見える。


 ルカは再び眼鏡をかけると、自分の机とは別の大きなテーブルの上に俺たちの魔剣を置いた。


「どれどれ、ふむ、随分と魔物を切り倒したようじゃのう。カイル少年よ、ノダチの使い勝手はどうじゃろか。

 代わりの武器というかアレの代用品にしては非力だが、重く、よく斬れるという方向性はあってるはずじゃが」


「非力だなんてとんでもありません、切れ味は鋭いし、俺向きの武器だとおもいます」


 俺の今の武器は、ルカ・レスレクシオンが学生時代に作ったそうだ。

 九番の魔剣、鋼鉄の大刀『ノダチ』という。


 刀身は通常のロングソードの1.5倍はあり、そりのある片刃の長剣だ。

 どうやらセバスティアーナさんの故郷の武器を参考にしたらしい。

 魔剣とはいっても魔剣開放はできない。

 魔剣である所以はその製造過程にある。

 ミスリルと鉄の異なる金属をルカは特殊な魔術をもって結合させ、それを薄く伸ばし折り畳み鍛えたのだ。


 数千の薄いウエハースのような金属の層で出来た剣は恐るべき強靭さと鋭さ、そして重さを持つ。


 初めて見たときは、長さに対して余りにも細い刀身は直ぐに折れてしまうのではと思った。

 だが実際に使ってみるとそんな懸念はすぐに払拭された。


 思いっきり叩きつけても折れることはなく、何度魔物を斬っても切れ味だって変らない。

 まさに斬ることに特化した魔剣といえる。



 一方、シャルロットの武器は、八番の魔剣、猛毒の細剣『ヴェノムバイト』だ。


 これは、武器というよりは魔法の杖としての性能に特化している。

 かつてルカが若いころに愛用していたようだ。


 レイピアに酷似した細身の刀身はミスリル製であることと、極限まで細く薄く作られているため軽い。

 剣としては役に立たないが魔力によくなじむため、魔力向上等の補助高価がある。


 そして、この武器の切り札である魔剣開放は、その名の通り猛毒である。


 魔剣開放をすると、どんな生物でも殺せるという魔法の猛毒を刀身に帯びるのだ。


 しかし、欠点はある。

 いくら必殺の武器でも魔法使いが接近戦で、細身の剣で敵に傷を負わすのはリスクがあるだろう。


 ではなぜ、ルカがシャルロットにこの武器を渡したかというと、一番軽いからだという。

 それにシャルロットのような小柄な体格では下手な武器は運動能力に支障をきたす、逆にそれ以外の武器は持たない方がいいという配慮だった。


 

 テーブルに置かれた二本の魔剣をまじまじと見ながらルカは言った。

「ノダチは、柄に少しひびが入っているようだ。取り換えるから少し時間をもらうよ」

 ルカは手慣れた手つきでノダチの柄を外すと。その衝撃で柄が二つに割れてしまった。


「危なかったのう、これが実戦で起きたらお主、ただではすまんかったじゃろうな」 


 まったくその通りだ。だからこうしてメンテナンスをこまめにお願いしてるんだけど、最近魔物の出現数も増えている。

 いつか大きな事故につながってしまうかもしれない。俺がやられたらシャルロットが巻き込まれるのだ。


 対策を考えないとな。


「まあ、ノダチはしょせん仮の武器じゃ。

 お主のメインは二十番じゃ。安心するがいい、交換パーツも揃った、もうじき元通りになるさ」


 シャルロットは部屋の奥にある、専用の治具によって固定されている二十番の魔剣を見ながら言った。


「今のカイルの魔力じゃ二十番の魔剣、機械魔剣『ベヒモス』は荷が重いと思います」


 たしかに今の俺ではあの魔剣の真の力である魔剣開放ができるだけの魔力がない。

 宝の持ち腐れという物だ。


「お嬢ちゃん、確かにカイル少年には荷が重い、だが彼しかいないのだよ、それに荷が重いっていったね。お嬢ちゃんが変わりに持つかい? アレは本当に重いぞ、物理的に」


 二十番の魔剣は確かに重い。ノダチの三倍以上はあるだろう。

 ノダチですら、シャルロットの筋力では持ち上げるだけで精一杯だろう。


「失礼しました。私ごときがレスレクシオン卿の至高の逸品を荷物扱いしてしまいました」


「いやいや、気にしてないさ、実際お荷物扱いされて誰にも使われずに国中をさまよっていたのだからな。主にオークション品として。

 それに、その呼び方はやめたまえよ、ふふ、君は相変わらず貴族の礼節を重んじるんだね。それは尊重するけども。そろそろルカ姉ちゃんとよんでもよいぞよ」


「姉ちゃんですか、ルカ様、さすがにそれは年齢てきには――」

「――ちょっ、カイル! あんた馬鹿なの! 何回このやりとりしてるの、ルカ様に年齢の話はだめだって、どう考えても60歳は超えてるのに若作りしててキモいとか失礼よ」


「おいおい、俺はそこまでいってない、実年齢が気になって言っただけだって、ひっ! す、すいませんお許しください」


「ふふふ、吾輩に対する誹謗中傷は許されない、わかるね、年齢はね、私自身の努力ではどうにもならないんだよ。

 それにね、お嬢ちゃん、16歳になったんだっけ? ひっひっひ、いいわねー、でも今だけよー、あんたもいつかはおばさんになるのよー、ふふふ、いっそ老化の魔法でも掛けてあげましょうか?」


 ルカはいかにも怪しげな魔女の様な演技の入った声色でシャルロットに語りかける。


 もちろん老化の魔法などない、だが、魔女が若い娘に老化の魔法をかけて老婆にしてしまうという、おとぎ話はよく聞く。

 昔から大人たちは悪いことをした子供には魔女に老化の魔法を掛けられてしまう話をして子供を教育したのである。


 おとぎ話ではあるが、最低でも60才を超えたぱっと見30才くらいの女性から言われるとリアリティがある。

 ルカの姿がおとぎ話の魔女と被ったのだろう、シャルロットは顔を青ざめた。


「ひ、ごめんなさい、許してください。何でもしますから」


「……ん? 今、何でもするって言ったよね」


「え?」

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