第3話

 そんな中、公式戦の話が持ち込まれる。

 が、高野連からクレームが入った。

 素行の悪い部員がいる。

 そのために出場ができない、そんな通達がもたらされた。

 7つめの不幸、とでもいうのだろうか。


 当然のことながら、高校野球大会は高校生の時にしか出ることができない。

 もちろん、地元で勝たなきゃ甲子園には行けないけれど、そもそも地元の試合にも出られないなら、挑戦すらできないじゃないか。


 そんなの入学前からわかりきっていたことだろうって言うだろうか?

 そりゃ強い高校に行ければ甲子園が近くなる。

 だけど、オレは中学生まで1度も試合にすら出たことがないんだ。当然無名の選手。

 学区内にそんな公立校はないし、私学なんて金がない。

 強豪校なんてのは、ほとんどリトルリーグからのライバル達が集まるんだぜ。オレなんか行ったところで鼻で笑われるだけだ。

 だからオレは家から通える唯一の高校に入学したってわけだ。


 不良問題。


 不良っていうのは根っからの悪人ってわけじゃない。高校で不良なんてやってるのは、ただ生きる意味が、目的が見つかってなくて、不安とイライラが表に出てきてるだけなんだ。まぁ父ちゃんの受け売りだけど。

 実際、あいつらは、試合に勝って大盛り上がりするオレたちに、うらやましそうな顔をするようになったんだ。それから徐々に練習しているオレたちを馬鹿にしなくなり、それどころかうらやましそうな顔をするようになった。

 いっしょに練習をしようというと、「ふざけんな。」なんて言うくせにちょっとうれしそうで。

 気がつくと、1人2人と、参加するようになっていった。


 不良とかいうけど、派手な格好をして口は悪いけど、本当に悪いことをしている奴なんて1人もいなかったんだ。

 家に帰れば文句たれながらも家の手伝いをする、そんな奴らだ。


 ここは顧問が頑張ってくれて、あれは自由な校風のための型破りなファッションだ、なんて押し通した。

 晴れて公式戦へと我が高校も参入できたんだ。

 へへ。諦めなくて良かったって奴かな。


 公式戦、地方選で勝ち進んだ我が校。

 ピッチャーで3番。今のオレは二刀流だ。

 ピッチャーの換えはいない。

 普通なら中3日とかすごいところなら中6日まであるらしい。

 そんな中オレは一人で投げ続けた。

 先発、中継ぎ、押さえ。それ何おいしいの?状態だ。


 ある試合で、オレが投げ続けているのを見て、誰かが言った。

 「ピッチャーなんて7回も投げればスタミナなんて残っていない。逆に7回も球を見てればバッターの目だってなれてくるだろう?くれがラッキーセブンってやつだ。さぁさぁ気張っていこう。バッターにとっては7回はラッキーな回だぞ!!」


 後で聞いたけど、ラッキーセブンの語源は本当にそういう意味なのだとか。

 そもそも7が縁起が良いのは、キリスト教だろ?

 天の完全数3と地の完全数4を足した7は完全数、だったか?あれ逆だった?まぁいい。それに神様は6日働いて地や海や動物や人を作り出し7日目に休憩した。まぁ日曜日ってやつだ。この7日っていうのが良い数字、らしい。

 何が言いたいってラッキーセブンで7がラッキーなのは西洋なんだよ。日本は関係ねぇ!


 それにバッターにとってラッキーセブン?ピッチャーが疲れるからだと?

 冗談じゃない。7回投げたぐらいで疲れるかよ。田舎もんなめるんじゃねぇ。

 幼稚園から山と海を走り込んだ、この足腰をなめるな。

 7回?ちょうど脂がのってくる頃だ。

 残念だったな。

 ラッキーなのはこっち。バッターにとっちゃアンラッキーセブンさ。


 なんてことを、たまたま取材に来ていた地方紙に言ってしまいました。

 いやぁ、これは不幸っていうのかな?

 口は災いの元。

 これが紙面に載って、オレのことを「アンラッキーセブン」なんて言う奴が出没しはじめたんだ。


 7回になってオレがマウンドに上がると、「アンラッキーセブン」「アンラッキーセブン!」と声援が起こるようになったのは、地方大会準決勝からか。


 そして、今。


 甲子園のマウンドで、小気味良い声援が沸き起こる。


 「アンラッキーセブン」「アンラッキーセブン!!」・・・・


 オレはキャッチャーのサインに大きくうなずく。


 7回?

 スタミナが切れる頃?


 全然だぜ。

 むしろノリノリだ。


 たくさんの不幸を背負って生きてきた?


 ハハハ、今となっては良い思い出だよ。


 だって、不幸体質だかなんだか知らないけど、今、オレは夢の舞台に立っているんだから。


 「アンラッキーセブン」「アンラッキーセブン」


 オレは大きく振りかぶる。


 不幸があっても頑張れば結果はついてくる。


 「アンラッキーセブン」「アンラッキーセブン」


 だってさ、七転び八起きっていうじゃないか。

 アンラッキーが7つあったって、8つあったって、それ以上に跳躍すれば良い。

 好きに向かってがむしゃらに行けば8回目9回目には絶対にラッキーがやってくるんだから。



 「ストライク、バッターアウト!」


 ワァァァーーーー


 初出場校の甲子園制覇。

 目の前に迫るその偉業に、甲子園は沸き立っていた。


    ( 完 ) 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アンラッキーセブンは勝利の声援 平行宇宙 @sola-h

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ