第2話

 3つめの不幸。

 まぁ、これを知ったのはかなり大きくなってからだ。

 そこそこの都会にはリトルリーグなるものがあって、日々競っているらしい。

 しかもその中にはプロ野球の球団が関わっているチームとか言うのもあるんだそうだ。

 当然のことながら、我が村にはそんなものはない。

 正確には、車で1時間も走ったところにはあったんだけど、子供が1人でいける距離ではなく、農業兼漁業なんていう職業は両親どころか子供のオレでも手伝いが必要なぐらい忙しいときがあるんだ。野球がやりたいから車出して、なんて言えるわけがなかった。


 それでも、父さんはキャッチボールをしたり、バッティング練習をさせてくれた。

 ルールも一応は覚え、友達を集めて、野球のまねごとをしたりもした。と言っても、子供の数は多くない。試合に必要な18人どころか10人も集めるのは難しい。

 いや正直に言おう。

 せいぜいが遊べる相手は6人か7人。野球をするには足りなかった。


 そんな環境の中、オレは中学生になる。

 ここで4つめの不幸。

 中学には野球部がなかったんだ。


 昔は生徒の数も多く野球だってサッカーだって部活があったんだそう。

 だけど、いつ廃校になるか分からないそんな学校だ。

 ちなみに小学校と中学校はシェアしている。

 小中併せて100人に満たない、そんな状態で、野球部は10年ほど前に廃部になったままだった。


 でもオレは野球がやりたかったんだ。


 いつも遊ぶ仲間に先輩とかも無理矢理頼み込み、なんとかクラブを作ることに成功。平均出席者5人程度とはいえ、幽霊部員を含めるとなんとか対外試合が組めそう、そんな形にまで持ってきたんだ。


 その頃になると、オレの努力は実を結ぶ。

 学年で一番年下だろうと、毎日走り込み足腰を鍛え、素振りも壁当ても必死で頑張って、正直そこそこすごい奴、になってきていたんだ。


 だけど・・・


 せっかく作った野球部だけど、対外試合数0。

 そもそも試合に出る9人を集めることが難しかったんだ。

 幽霊部員は幽霊部員。

 そもそも、稼業の手伝いをするために部活は無理、なんていう奴がほとんどで、スタメン9名をそろえられず、ひどいときにはドタキャンで試合が流れる、なんてこともあったんだ。



 そしてオレは高校に入学した。


 この頃5つめの不幸といいうべきか。ある意味当然と言うべきか。

 オレの卒業と同時に中学の野球部はなくなった。


 高校では野球部は、あった。

 あったにはあったが、まともに活動していなかったんだ。

 いわゆる不良の巣窟っていうか、うちの高校は何かのクラブに所属することになっているんだが、なんにもやりたくない奴らが集まるクラブ、それが野球部ってことになっていたんだ。

 これが6つめの不幸、だろう。


 それでも、野球がやりたくて野球部に入る人が0ではなかったことが幸いした。

 細々と試合を組んでくれる先輩もいたんだ。

 一生懸命練習するオレたちをあざ笑う、なんちゃって野球部員を尻目に、それでもちゃんと野球をしてきた人たちと練習するのは楽しかった。


 そんな中対外練習試合。


 不良がいるということで、いろいろ問題もあったけど、先輩の中学からの親友がいるとか、そういう高校にかけあって、なんとか試合ができることになった。

 先輩は1年のオレをピッチャーで1番打者として組んでくれた。

 そんな初めての試合。

 オレは完封し、しかも先頭打者ホームラン、なんてのもたたき込めたんだ。

 相手の高校はそれなりに野球部で名の売れた高校で、そこを打ち負かした高1ルーキーとして、ちょっとした話題になったんだ。

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