アンラッキーセブンは勝利の声援
平行宇宙
第1話
7回の裏、敵の攻撃。
ここは高校野球の聖地甲子園球場だ。
オレ、真島達也は、そのど真ん中に立っている。
そう、ピッチャーマウンドに。
オレは、ついにやってきたんだ、この憧れのステージに!!
考えてみればオレは生まれからして不幸だった。
オレは帝王切開で生まれた。
本当は普通に生まれるはずだったんだけどな。
母子ともに健康。
親も家庭も仕事も順調で。
だが、ある日、1つめの不幸が訪れた。
近所のスーパーへ身重の母が買い物に行っていたときのこと。
キキーン!
ドーン!
母に車が突っ込んだ。
当時のニュースはいまだに録画してある。
なんでも年寄りドライバーが駐車しようとして直進とバッグを間違い、しかも慌てたためか、ブレーキと間違えてアクセルを思いっきり踏んだらしい。
運悪く母が犠牲になって、救急車で運ばれたんだ。
4月1日。
その日は4月1日だった。
緊急オペでオレは母の胎内から出され、母子ともに命を取り留めた。
本当はゴールデンウィークが開けた頃に生まれるはずだったそうだ。
知っているだろうか。
日本は1つの学年が4/2から4/1までの生まれの子で構成されるんだ。
これがオレの二つ目の不幸。
本来なら翌年の学年になるはずのオレは、学年で一番最後の生まれの子として過ごすことになった。
それがどうした?そうお思うだろ?
それが違うんだな。
いいか、同じ学年にほぼほぼ1歳上の奴らがいるんだぜ。
幼稚園の頃の1歳、どう思う?
オレはただでさえ早く生まれて小柄だったし、何をやっても負け続けの日々だった。
だけどな、オレはまぁまぁ負けず嫌いに生まれたらしい。
悔しくて悔しくて、でも根性だけはあったみたいで、絶対みんなを負かせてやるって毎日毎日頑張った。
はじめはかけっこ。
ちょっとでも順位を上げるようにって体力をつけるべく、村中を走り回ったりしたんだ。だってさ、父ちゃんが、基本は走りだ、って言うからさ。
ちなみに父ちゃんは農業兼漁業で生計を立てている。
何言ってるかって?
いやぁ、この辺じゃ別に珍しくはないんだ。
基本的には農業だな。
日本に多い、山即海みたいな地形で、父ちゃんはミカンや梅、キウイにスイカ、ひれにスモモなんかを思いつくまま山に植えて、農協に出荷している。
で、その合間には小さな船で海に出る。
4人乗りの小さな船。
船で魚を釣るには漁業権っていうのがいるんだけど、うちの村っていうか集落のもんならこの漁業権はついてくる。
ばぁちゃんなんかは、この漁業権のおかげで、岩にへばりついた海藻とか、アワビもどきのトコブシとか、親指ほどの小さな牡蠣を採っていた。
これは漁業権がない余所者が採ったら罪になるんだ。知らずに取りに来る馬鹿もいるけどな。
まぁ、こんな話を聞いたら分かると思うけど、まぁまぁド田舎だ。
その分足腰鍛える坂や砂浜には事欠かない。
オレは絶対にかけっこで1位になる、そんな決意で幼稚園の頃から父さんに連れられて走り込みをやってきたんだ。
そして、そんなあるときテレビでキラキラ輝くものを見た。
それは高校野球。
投げて打って走って、大きな兄ちゃんたちが、小さな子みたいに泣いたり笑ったり。それがものすっごくピカピカで、オレもあんな大人になりたい、そう幼心に思ったもんだ。ちなみに幼稚園の子にとっちゃ、あの高校生たちは立派な大人に思えたんだ。
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