29話。騎士団に魔剣を配備する

「うぉおおおおッ! これほど見事な剣を作っていただけるとは……感激でありますご領主様!」


 僕が錬金術で作った魔剣を手渡すと、騎士団長が惚れ惚れした目で刀身を見つめた。

 ここは領主の館の庭だ。


「この前、街を襲った傭兵団から手に入れた戦利品で作ったものなんだけど、どうかな?」

「すばらしいの一言です。使用者の魔力を吸って炎をまとうのですな? これなら斬撃が通じない魔物を退治することもできるようになります!」


 騎士団長が剣を構えると、鍔から火炎が噴出して刀身に絡みついた。

 彼が試し斬りで丸太を斬ると、高熱によりあっという間に丸太が灰になる。


「これは高位の炎魔法に匹敵する威力があるのではありませんか!? 感動です!」


 騎士団長は子供のように弾んだ声を上げた。


「当然です。兄様の作った剣は、大量生産品であろうとSSSランクですから」


 例によってティニーが、腰に手を当ててドヤ顔になっている。


「使用者の魔力が切れると、炎を出せなくなるのが欠点なんだけどな」


 SSSランクの武器の性能を引き出すにためには、使用者にもそれなりの能力が求められる。


 使用者の魔力が切れた後は、ただ単に切れ味の鋭いだけの武器に成り下がってしまうのだ。かつ魔力の強さが魔剣の性能にも反映されるので低レベルの者が使っても、Sランクの魔物の討伐は不可能だ。


 これは僕自身にも言えることで、この欠点をティニーに魔力の補給をしてもらうことで補っていた。


「いやいや、ご謙遜を。ほとんどの敵はこの一撃で倒せますぞ」

「いや、あとでなんとかこの問題に対する解決策も考えるとするよ……とりあえず同じ魔剣をあと20本作ったから、今日中に騎士団に配備して欲しい」

「はぁいいいいい!? これほどの魔剣があと20本ですと!?」


 騎士団長は目玉が飛び出るほど驚いていた。


「30万の魔物の軍勢を撤退させたことで、フェンリル族を交渉のテーブルに着かせることができた。だけど、それによって相手がこちらを与し易と侮ることも考えられる。例えば、フェンリル族の女王が交渉の場で僕を人質にして、有利な条件を引き出すといった手に出ることだってあるだろう。それをさせないための手段、つまりは抑止力だな」


 そのために、炎が噴き上がるような見た目が派手な武器にしてみたんだ。強いだけでなく、強そうに見えることが抑止力では重要だ。


「さすがは兄様です。平和や友好は、武力を背景にしか成り立ちませんからね」


 ティニーが身も蓋もないことを言ってきた。


「はっ! 交渉の場では、我らベオグラード騎士団がご領主様の周りに控え、決して不埒なマネなどさせません!」

「はい。もし兄様に危害を加えるような愚かな者がいた場合、私がフェンリル族を根絶やしにします」

「そういう全面戦争はなるべく回避したいところなんで、僕が指示するまで喧嘩を吹っ掛けるようなことはしないでくれよ……敵を作るのは得策じゃない」

「はい、兄様」


 無敵の守護竜ヴァリトラの雷名は世界中に轟いているので、ティニーが僕の近くにいればフェンリル族の女王もそうそう強硬な手段には出ないとは思うけど……

獣人は人間よりも、はるかに好戦的な種族なので用心しておくことに越したことはない。


 その時、緊急事態を知らせる半鐘が鳴り響いた。


「ご主人様、大変です! 物見からの報告で、獣人の大軍団がこの街に向かってきているそうです!」


 メイドのエリスが、転がるような勢いで庭に駆け込んできた。


「まさか、フェンリル族か。数は!?」

「は、はい。ざっと見ただけで3万はくだらないそうです!」

「3万!?」


 護衛に3万の大軍は必要ない。これはもう立派な軍事行動だ。

 もしかすると、30万の軍勢を撤退させることで、攻撃を仕掛ける好機だと思わせてしまったか。


「騎士団長! 動ける者をすべて集めて、守りを固めてくれ!」

「はっ!」


 ベオグラードの街の人口はせいぜい300人程度。【れべるあっぷトマト】のおかげで、100人近い領民がレベル20に達しているが、戦力が違いすぎる。


「まさか、兄様の温情を裏切るとは……フェンリル族、許すまじです。私が全員、蹴散らしてきます」


 ティニーが握りこぶしを作り、今にもドラゴンに変身して戦いに向かいそうになっていた。


「まだ彼らは攻撃してきた訳じゃない。僕とティニーはフェンリル族の女王に会おう」


 僕は口笛を吹いて、聖獣ユニコーンを呼ぶ。すぐさまやってきたユニコーンに、ティニーと一緒にまたがった。

 交渉の余地があるなら行って、街を戦禍から守らなければならない。


「ご主人様、ご武運を!」

「大丈夫です。兄様は私がお守りします」


 祈りを捧げるエリスに見送られて、僕たちは街の外に飛び出していく。

 大地を揺らして恐るべき数の獣人たちが、森から現れてきていた。


「フェンリル族の女王はいずこにいらっしゃるか!? 僕はベオグラードの領主、マイス・ウィンザーだ!」

「おおっ、一番最初に現れるとは【影の魔王】は剛毅だな! 気に入ったのだ!」


 僕の呼びかけに、まだ少女と思わしき獣人が飛び出してきた。月光のように光り輝く銀髪をした彼女は、毛皮を腰と胸に巻いただけの軽装をしている。


「あたしがフェンリル族の女王、ルナだぞ! 会えてうれしいのだ!」

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