15話。【side:アルフレッド】王国崩壊の兆し。王女がマイスの元に旅立つ
【弟アルフレッド視点】
「アヒャヒャヒャ、やったぜ! これであの目障りな兄貴はおっ死んだな!」
俺様はお祝いの最高級シャンパンを飲み干した。
うめぇええええッ! 最高の気分だぜ。
兄のマイスは無能の癖に、長男というだけでウィンザー公爵家の跡取りとなり、この国一番の美少女であるルーシー王女と婚約していた。
追放してせいせいしたと思ったが、ルーシー王女はヴァリトラ様を創造したのは兄貴だと言い張り、あいつを追いかけて辺境に行くとまで言い出した。
「そんなに兄貴が好きだってのかよ。ちくしょうぉおおおおッ!」
国王陛下がルーシー王女をなだめて、それだけは阻止したが俺様の面目は丸潰れだ。
「だが、これでルーシー王女の目も覚めるだろうぜぇ! ヒャッハー!」
俺様は兄貴を始末すべく、すぐさま暗殺者を辺境のベオグラードに送り込んだ。
貴族にとって最も大事なのは、権謀術数に優れていることだ。
そう、この超天才の俺様こそ、ルーシー王女と結婚して王国を継ぐのにふさわしい。
「本当にヴァリトラ様が守っていたのが兄貴ってんなら、暗殺が成功するハズがねぇからな。アヒャヒャヒャ!」
教会を焼いたゴブリンキングや教団幹部まで同じことを言ってやがったが、さすがにそんなことは有り得ねぇ。
多分、ゴブリンキングは金目当て。教団幹部は何か魔法で幻覚でも見せられたんだろうよ。
ちっ、兄貴の野郎、そんな小狡いマネをしてまで、ウィンザー公爵家の跡取りの座に返り咲きたいってか?
「まあいい。今夜は前祝いだ。明日にでも暗殺成功の知らせが来るだろうぜぇ」
俺様は二杯目のシャンパンを呷ろうとして……
ガッシャーン!
「ぶげぇえええ!?」
突如、窓ガラスを突き破ってきた物体に激突されて、床をゴロゴロ転がった。
「はぁっ!? なんだお前らは……!?」
俺様にぶつかってきたのは、目を回した黒尽くめの男たちだった。
思わず怒りで頭が熱くなる。
そいつらの額には、俺様をコケにしたかのような文章を書いた紙が張ってあったのだ。
「『ヴァリトラ参上! 次にマイス兄様に手を出したら許しません。ウィンザー公爵家を地上から消してやります』だとッ!?」』
張り紙を取り去ると、その下から見知った暗殺集団のリーダーの顔が現れて、ギョッとした。
「こいつらは俺様が雇った暗殺者じゃねぇか!?」
どうなってやがるんだ、これは?
グオォオオオオーンッ!
俺様を嘲笑うかのように、飛竜の鳴き声が遠ざかって行く。
「……って、まさか、こいつらを投げ込みやがったのは飛竜どもか!? んなバカな!?」
王国内の魔物はヴァリトラ様のおかげで、決して人間には危害を加えなくなっていた。
ゴブリンキングだけなら金目当ての暴走ってことも有り得るだろうが、人間と交易が一切ない竜種が相手となると……いくらなんでも、おかしいぞ。
「訳がわからねぇぞ……! おい、お前ら起きろ! せっかくの楽しい気分を台無しにしやがって!」
「はぁ……!? こ、これはアルフレッド様!」
俺様は気絶していたリーダーの顔を叩いて、目を覚まさせた。
「お前ら、まさか失敗しやがったのか!?」
こいつらの額には、『雇い主の情報をベラベラ話しちゃいました。テヘ』。『私たちは3流暗殺者です(•ө•)♡』という、ふざけた紙も張ってあった。
「そ、それが、マイス・ウィンザーには守護竜ヴァリトラが味方に付いており……魔物の大軍に囲まれて、我らは為す術もなく……!」
「なんだと……!?」
暗殺者の弁明に、俺様は驚愕する。
さすがに血の気が引いた。
ま、まさか謁見の間で兄貴が言ったことは、本当だったのか?
ゴブキングや教団幹部の言っていたことも本当?
ルーシー王女は真実を知っていた?
「……い、いや、そんなハズがねぇ。そんなことはありえねぇ! アイツが錬金術師として無能なことは、弟である俺様が一番良くわかっているんだ!」
なにかペテンを使っているに違いねぇ。
「そ、そうだ。凄腕のテイマーを大量に雇ったんだ! それで飛竜を操って! ちくしょうぉおおおお、そんな金を持ってやがったんだな!」
「い、いえ、それはありません。ヴァリトラの一撃で廃城が崩されました……アレは紛れもなく、守護竜ヴァリトラでした!」
「はぁ!? 史上最強の守護竜が、兄貴のためにワザワザ動いたとでも言うのか!? それは偽物か幻覚だ!」
俺様は激高した。
「し、しかし、そうとしか考えられません!」
「もういい。使えねぇ連中だな。偽物なんぞに惑わされやがって、お前ら全員クビだ!」
「はひぃいいい! アルフレッド様、そ、そればかりはお許しを!? 次期、国王となられるアルフレッド様に見捨てられたら、我らの名声は地に落ちまする!」
「知るかぁあああッ!」
懇願する暗殺者を、俺様は無慈悲に蹴り飛ばした。
そう、俺様はルーシー王女と結婚して、次期国王となる身だ。とてつもなく偉いんだ。
辺境に飛ばされた兄貴のような小者なんざ、ひとひねりにできる立場なんだよ。
次はコイツらなんかより、もっと腕の立つ傭兵団を使ってベオグラードの街を襲わせてやる。
兄貴もそれなりの手練を雇っているようだが、資金力ならヴァリトラ教団の教祖だった俺様の方が圧倒的に上なんだよ。
「アヒャヒャヒャ! 兄貴の領地をメチャクチャに破壊して、灰にしてやるぜぇ!」
「アルフレッド様、大変ですぞぉおおお!」
「今度は何だぁ!?」
その時、執事が慌てふためく声と共に、扉を叩いた。
「はっ! ルーシー王女殿下が、城を抜け出して辺境のベオグラードに向かったそうです。その書き置きが見つかりまして……このままでは、アルフレッド様のせいで王国は滅びると!」
「なにぃいいいい!?」
あまりに意外な一言に、俺様は愕然とした。
あのクソアマ王女は何を考えてやがるんだ?
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