12話。ネコネコマスターで、黒死病を根絶
「ご主人様はすでにそこまで黒死病を解明しておられたのですね……!? 感服いたしました! これを発表すれば、世界が震撼するのでは!?」
エリスは手を叩いて大喝采する。
「そう言ってもらえるとありがたいな。実は、王都で発表したんだけど、誰にも信じてもらえなくて……」
なにしろ、僕はウィンザー公爵家始まって以来の落ちこぼれだったから。
僕の発表した論文は錬金術師学会で一笑に付されて、ゴミ箱行きになってしまった。
「兄様の偉大さを理解しないとは、嘆かわしい愚か者どもです。滅ぼしたくなります」
ティニーが不機嫌になって、また物騒なことを言っている。
「ですが、この地の黒死病が撲滅されることで、世界は兄様の偉大さを思い知るでしょう。今から楽しみです」
「え……っ? まさか、ご主人様の偉大さが王都では理解されていない? ご冗談ですよね?」
「話すと長くなるんだけど……僕はエリクサーを作れても回復薬(ポーション)は作れないんだ」
「そんなことが!?」
エリスは驚きのあまり言葉が出てこないようだった。
「黒死病の原因はネズミなんだ。だから、ミーナをネズミ退治に特化した聖獣に生まれ変わらせようと思う。ティニー、そのことをミーナに伝えてもらえるかな?」
「わかりました。ミーナ……にゃあ、にゃあ、にゃあ!」
「にゃあ」
ティニーが三毛猫のミーナと会話をする。
何を言っているか理解できないが、彼女らは通じ合っているようだった。
「あ、あのティニーお嬢様は何を……?」
「ティニーは、魔物や動物の言葉が分かるんだ」
「それはうらましいですね。私もミーナと話してみたかったです!」
「それで、ティニー。ミーナはなんだって?」
「はい兄様。ミーナはママを助けてくれたお礼に、全面的に協力したいとのことです……感心な子ですね」
ティニーはミーナの頭を撫でた。
「ママ? 私はミーナから、ママだと思われているですね! うれしいです」
「みゃあ!」
ミーナは同意するかのように元気よく鳴いた。
「はい。3年前にエリスさんが拾ってくれたことを心から感謝しているそうです。そうですよね、ミーナ」
「みゃあ!」
「くぅううう! ミ、ミーナ……!」
エリスはハンカチを取り出して、目元を拭った。
「エリス、正直に言うね。錬金術による生命の改造は不可逆なんだ。失敗して怪物を生み出してしまうこともある。でも、この街を救うのにミーナの力が必要なんだ。ミーナを僕に預けもらえるかな?」
「はいっ。不安が無いと言えば嘘になりますが……ご主人様を信頼しております。ミーナも大丈夫だよね?」
「にゃあ!」
エリスとミーナは僕を信頼してくれた。これは絶対に成功させなくちゃな。
聖獣ユニコーンを造った時とは違って、これから生み出すのはこの世界で唯一無二の存在だ。かなり難しい錬成になるだろう。
でも最高品質の機材があるなら、きっと成功できる。
「ティニー、錬金溶液を」
「はい」
ティニーが錬金釜に、錬金溶液を注ぐ。
これは魔力を通しやすい性質を備えた銀色の液体だ。
それを錬金棒でかき混ぜると、魔力が充填された錬金溶液はボコボコと泡立った。
「ミーナ、この中に入ってくれ」
「みやぁ!」
ミーナが意を決したように錬金釜に飛び込む。僕は精神を集中し、ミーナの肉体と魂を錬成する。
「ランクSSSへの存在進化!」
ドォオオオオン!
と耳をつんざく音と、目を焼く閃光が溢れた。
「にゃぁ~! 熱いのにゃ!?」
「おわ!?」
錬金釜から、熊ほどもある巨大な猫が飛び出してきた。錬金釜がオリハルコン製でなければ、壊れていただろう。
「ミーナは猫舌なのに、熱いドロドロがお口に入って、ペッペッ! ですにゃ!」
「えっ、まさかミーナ!? ミーナがこんなに大きくなっちゃった!?」
エリスが目を丸くした。
「はい、ミーナですにゃあ! ママ、いつも美味しいご飯、ありがとうございますにゃ!」
ミーナはエリスに向かってペコリと頭を下げた。
「ミーナはママのために、ご恩返ししたいですにゃ!」
「な、なんて、うれしいことを言ってくれるのミーナ。くぅ~ッ!」
エリスは感涙にむせぶ。
「ミーナ、さっそくだけどお願いがあるんだ。この地を黒死病から救うために力を貸して欲しい。エリスもあと一日遅かったら、黒死病で死んでいたかも知れないんだ」
「はいにゃ、あるじ様! ミーナのスキル【ネコネコマスター】で、猫たち大召喚!」
ミーナが両手を広げると、ボォオオオオン! という爆音と共に、大量の猫が出現した。
にゃぁ~! にゃぁ~!
地下室に、猫の大群の鳴き声が響く。
「あっ、かわいい。たくさんの猫たちです」
ティニーが目を丸くした。
「ど、どこから、これほどの猫が!」
「聖獣ミーナは、猫を召喚して言うことを聞かせるスキル【ネコネコマスター】を持っているんだ。ミーナ、この地から、ネズミを一匹残らず駆逐してくれ」
「はいですにゃ! さぁ、みんな! ネズミ退治ですにゃ! いっけぇえええ!」
にゃぁ! にゃあ! にゃあ!
猫たちはミーナの号令の元、外に飛び出して行った。
よし、あとは良い結果を待つだけだ。
「さすがは兄様です。これで、この地の黒死病は根絶できますね!」
「ご主人様のお力は、まさに神のごとしですね。心から尊敬いたします! さぞ、お疲れになられたでしょう。宴の準備をしますので、今日はどうか、ゆっくりとお休みください!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます