6話。ベオグラード騎士団を助ける
3日後──
僕たちは辺境のベオグラード地方に到着した。
森が広がるのどかな土地だった。小鳥たちの囀りが鳴り響き、さんさんと降り注ぐ陽光が心地良い。
僕と一緒に聖獣ユニコーンに跨ったティニーが、声を弾ませる。
「こんなに早く辺境に到着できるなんて。さすがは兄様の聖獣ユニコーンですね」
「いや、快適な旅ができるのはティニーのおかげだよ。王国内の魔物は、みんなティニーの支配下にあるからね」
そのティニーがいる以上、僕たちを襲ってくるような魔物がいるハズもなかった。
それどころか、ゴブリンの集落では僕たちを歓迎する宴が催され、リザードマンたちは魚や果物をたんまりお土産に持たせてくれた。
「兄様のお役に立ててうれしいです。約300万の魔物は、すべて兄様をお守りするために存在しています。配下たちの歓迎に何か不備などありませんでしたでしょうか?」
「……十分すぎるほどの持て成しだったよ。あんまり気を使われると悪いくらいだね」
魔物たちからは、創造主様とか【至高にして至大なるお方】とか、大袈裟なあだ名で呼ばれて、かしづかれた。
【至高にして至大なるお方】って、なんだ……?
「ありがとうございます。ですが、兄様、ここからは油断禁物です。ベオグラード地方のモンスターは私の支配下にはありません」
ティニーが鋭い眼光を周囲に向ける。
これまでのような安全で快適な旅は、もう終わりみたいだな。
「わかった。気を引き締める」
「はい。兄様はなにがあろうと、私がお守りします……えっ!? 止まってください!」
ひゅうううう。と音を立てて、大岩が上空から落下してきた。
ユニコーンが急制動をかけた手前で、地面に激突した大岩が弾け飛ぶ。
「い、今のは何だぁ!?」
「……どうやら近くに街があり、魔物によるそこへの攻撃の誤射のようですね」
ティニーはすぐさま状況を把握した。
人間の形態でも、彼女の視覚、聴覚は、ドラゴン並のレベルにあるようだ。
「一大事じゃないか!? 岩が飛んできた方向に急ぐぞ!」
ここは僕の領地。となれば攻撃されているのは、僕の領民だ。
この地を救うと決めた以上、見過ごすことはできない。
ユニコーンに指示を出して、森を駆け抜ける。
「はい。兄様を傷つけようとしたからには、タダではすみません。ブッチめてやります」
ティニーも怒りに燃えていた。
しばらくすると、柵に囲まれた街が見えた。
1つ目の巨人サイクロプスたちが、笑いながら街に向かって大岩を投げ込んでいる。
コイツら遊び感覚で、街を攻撃しているのか!? しかも5匹もいるぞ。
「ゲボッ、ゴホッ! このベオグラード騎士団がおる限り、好きにはさせぬぞぉおおお!」
「何がなんでも阻止するんだ!」
顔色が悪い騎士たちが、サイクロプスを包囲して攻撃を加える。
だが、騎士たちの攻撃はヘロヘロで、サイクロプスにまるでダメージを与えられていなかった。しかも、騎士団とは名ばかりの10名ほどの少人数だ。
「うぎゃああああッ!?」
サイクロプスがハエでも払うように腕を振るうと、騎士たちは吹っ飛ばされて地面を転がった。
僕の全身がカッと熱くなる。
「ティニー、【魔槍レヴァンティン】を出してくれ!」
「はい。魔力充填、完了しています」
僕が掲げた右手に、真っ赤に輝く巨大な槍が出現した。
【無限倉庫】に格納しておいたランクSSSの遠距離攻撃用兵器【魔槍レヴァンティン】だ。
膨大な魔力を必要とするため、ティニーの支援なしには使えない切り札だった。
「消し飛ばす!」
それを思い切り、馬上から投げつけた。
魔槍は爆炎を噴射して、圧倒的な推進力を得て飛翔する。
ドォオオオオオン!
【魔槍レヴァンティン】がサイクロプスの一匹に直撃し、大爆発が起きた。
魔槍が突き立つ爆心地には大穴ができ、サイクロプスは跡形も無く消し飛ぶ。
「はぇっ……?」
ベオグラード騎士団から呆けたような声が上がった。
「え、Aランクの魔物、サイクロプスを一撃粉砕ですと!?」
「い、今のは、なんだ……!? 魔法!?」
「一角の白馬……まさか聖獣ユニコーン!?」
「あっ、あなた様は一体、何者ですか!?」
目を見張る騎士らに向かって、ティニーが誇らしげに告げる。
「こちらは私の兄様こと、ベオグラードの新領主マイス・ウィンザー様です」
「初めましてマイスです。街が攻撃されていると知って、駆けつけました!」
僕が右腕を掲げると、【魔槍レヴァンティン】が飛んで戻ってきて、手に納まった。この槍は魔力切れを起こさない限り、持ち主の元に戻ってくるのだ。
サイクロプスたちは、突如現れた僕にうろたえていた。
「兄様の敵は私の敵です」
「がっ……まさか、お前は……ッ!?」
ティニーがサイクロプスたちを睨みつけると、彼らのリーダー格と思われる巨人が息を呑んだ。
「なんと!? 新領主様ですと!? ゴホ、ゴホ……ッ!?」
騎士たちが一斉に膝をついた。
「い、いけません。我らは軽症とはいえ、黒死病にかかっております! 離れてくだされ!」
そう告げた騎士団長の顔には、黒死病の症状である黒い斑点が浮かんでいた。
それは他の騎士たちも同じだった。
どうやら病に蝕まれながらも、街を守るために戦ってくれていたようだ。
彼らの己を顧みない勇敢さに、僕は感銘を受けた。
彼らを死なせる訳にはいかない。
「ティニー、ヴァリトラに変身してくれ。みんなを守るぞ!」
「はい、兄様!」
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