4話。SSSランクの聖獣ユニコーンを造り出す
「ヴァリトラ様に無礼を働いたヤツに売る馬は、コイツしかいねぇよ!」
馬を買いに行くと、牧場主からヨボヨボの老馬を引き渡された。
走ることはおろか、立っていることさえやっとという有り様の馬だった。しかも、牧場主から鞭打たれたのか、身体に無数の傷があった。
「はぁ、ここでも嫌がらせですか。本当にこの国は腐っていますね」
「なんだと、この小娘が」
ティニーがため息をつくと、牧場主は敵意を剥き出しにして凄んだ。牧場主の胸には、ヴァリトラ教団員であることを示す竜を象ったバッチがついていた。
「上位貴族である兄様に対して、その態度。あなたもヴァリトラ教団などという、ふざけた教団の一員ですか? この私が命じます。不愉快なので、即刻、教団は解散してくだ……」
「あっ、すみません。この馬で大丈夫です! ありがとうございます!」
僕は慌ててティニーの言葉を遮った。
「なぜですか、兄様? 私がヴァリトラに変身して一番上等な馬を献上させ、ヴァリトラ教団のような不埒な組織は、焼き滅ぼしてご覧に入れますが?」
「駄目だって! そんなことをしたら、大パニックになるでしょうが!?」
「兄様の偉大さを理解しないような愚かな者どもには、当然の末路です」
さも当然といった態度でティニーは胸を張る。
「なにをゴチャゴチャ言ってやがるんだ? これから私は、守護竜ヴァリトラ様を讃える会合に参加するんだ。用が済んだら、とっと失せな」
馬主は得意そうに言い放った。
「はい。では、さようなら!」
「はっ! 厄介者同士、仲良く辺境に行くんだな」
何か言いたげなティニーの手を引いて、僕はそそくさと、その場を立ち去る。
老馬も主人が変わったのを理解したのか、僕の後をついてきた。弱ってはいるけど、頭の良い馬のようだ。
「……これは、さすがに許せませんね。ゴブリンキング、手勢を使ってヴァリトラ教団を徹底的に潰してください」
ティニーは憤懣やる方なしといった感じで、なにかブツブツ呟いていた。
ふうぅ~、彼女がブチ切れて暴れなくて、本当に良かった。下手をすれば王都が壊滅するところだ。
「さすがにこの馬で辺境まで旅するのは、難しいと思いますが。良かったのですか兄様?」
「それはこの子次第ではあるのだけど……」
僕は老馬を撫でながら、真摯に尋ねた。
「たとえ今日死ぬとしても、キミはもう一度、思う存分、大地を駆けてみたいか?」
走ることのできなくなった馬は、いずれ処分される運命にある。
そのことを悟っていたのか、馬は静かに頷いた。
「わかった。【創世錬金術(ジェネシス・アルケミー)】発動。ランクSSSへの存在進化!」
僕は老馬の頭に触れながら、錬金術を発動させた。対象をより高次元の存在に、錬成、進化させる術だ。
馬から黄金の輝きが放たれ、くすんだ茶色だった毛並みが、新雪のような白へと代わり、その頭から角が生えてくる。ヨボヨボだった身体は、見るからに精悍な肉体へと変化した。
「これは……SSSランクの伝説の聖獣ユニコーン!?」
ヒッヒヒーン!
馬は喜びに満ちた、いななき声を上げる。
再び走れるようになったことが、うれしくてたまらないみたいだった。
「さすがは兄様です。この子から、すさまじい魔力を感じます。300万といる私の配下にも、これほどの力の持ち主はおりません」
ティニーが感嘆の声を上げた。
ユニコーンは僕に感謝するように、すり寄ってきて頭を下げた。
「どうやら、うまくいったみたいだね。肉体の錬成は失敗することもあるから……」
僕はホッと胸を撫で下ろす。最近は、やはり腕が上がってきているように思える。
「よし。この子に乗って、辺境のベオグラードまで行こうか。ティニー、僕の後ろに乗ってくれ」
「はい。兄様と密着しての二人旅、最高に幸せです」
ティニーと一緒にユニコーンにまたがると、彼女は僕の腰に手を回して密着してきた。
僕たちはユニコーンに乗って、街道を駆ける。
「なっ、なんという見事な馬だ!?」
「あれは、まさか聖獣ユニコーン!?」
「国王陛下の乗るサラブレッドなんか、目じゃないほどの馬だぞ!?」
道行く人が全員、振り返って僕たちを凝視した。
ヴァリトラの背に乗るよりはマシだけど、これはだいぶ目立ってしまっているな。
それにしても、ユニコーンの脚力は桁違いだ。ふつうの馬の3倍以上のスピードは軽く出ている。これは御するのが、ちょっと難しいぞ。
「はぁあああああッ! これほどの名馬が、この世にいるだと!?」
街道を歩いていた先程の牧場主が、目を剥いて叫んだ。
「お前……ではない! マイス・ウィンザー様、そ、その馬をぜひ、この私に譲ってくだされ! 金ならいくらでも出すぅうう!」
「はぁ!? すみません。これから辺境まで行くので、お断りします!」
売ったばかりの馬を買い戻すとは、この人は何を言っているんだろう? 日没までに野営場所を探したいので即答する。
「そんな!? お、お待ちくだされぇえええ!」
「この子を厄介払いしたのに、見苦しい男ですね」
ティニーが牧場主に冷たく言い放った。
「ぶげぇらぁあああッ!?」
急加速したユニコーンから発生した衝撃波で、牧場主がふっ飛ばされて尻餅をつく。
「あっ、すみません。これは迷惑料です!」
僕は慌てて数枚の金貨を牧場主に放った。
この子のパワーは凄すぎだ。街中では気をつけないとな……
「金など要りません! どうか、その聖獣ユニコーンをこの私にぃいいいいい! 偉大なるマイス・ウィンザー様ぁあああッ!」
なにやら絶叫が聞こえてきたが、気づいたらもう僕は郊外に抜けていた。
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