アンラッキー7

あそうぎ零(阿僧祇 零)

アンラッキー7

 哲夫てつおの思考や行動は合理的で、例えば占いはインチキだと断じ、縁起えんぎかつぎは愚劣だと考えた。

 こうした哲夫の性格は、入社した製造会社で有利に働いた。手堅い仕事ぶりも相まって順調に昇進し、取締役・工場長で定年を迎えた。


 だが実は、哲夫が縁起を担いだ事が、ただ一度だけあった。自宅の土地を購入した時だから、40年ほど前の事だ。


 持ち家に適する土地を探すうちに、良い物件を見つけた。

 東京郊外、「七鷹ななたか七里ななさと」の大規模宅地「ラッキーセブン・ハッピータウン」だ。

 第7期「七里七丁目」の販売開始時、哲夫夫妻は現地を訪れた。

 

 妻は日当たりのよい高台の区画を望んだ。しかし哲夫は、「七丁目7の7」こそ7が7つも連続する、実に「縁起の良い」区画だと思った。土地面積が77坪だったのだ。

 彼は妻を説得し、その区画の抽選に応募した。7の7は最高倍率だったが運よく当選し、立派な家を建てた。


 すべて順風満帆だった。彼が喜寿(77歳)を迎えるまでは。


 喜寿のお祝いに、息子夫婦が哲夫夫妻を一泊の温泉旅行に招待してくれた。だが、すっかり出不精でぶしょうになった哲夫は、前日になって体調不良を理由に、旅行には行かないと言い出した。

 息子夫婦は仕方なく母だけ連れていくことにし、哲夫の高級セダンを借りて出発した。


 惨劇は翌午前2時頃に起きた。哲夫の家に強盗団が押し入ったのだ。

 物音に気付いて2階から降りてきた哲夫と鉢合わせした強盗団は、鋭利な刃物で哲夫をめった刺しにした。即死だった。

 

 その後、強盗団は警察に逮捕された。外国人主体の強盗団で、以前から裕福そうな邸宅に目を付けており、哲夫宅も含まれていた。

 事件当日カーポートに車がないので留守だと考え、凶行に及んだという。だが、車がない邸宅は他にもあった。


 彼らが哲夫宅を選んだ決め手は「七丁目7の7」だった。彼らにとって7は、「仕事」の成功を約束する特別な数字だったのだ。


《完》

 



 


 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アンラッキー7 あそうぎ零(阿僧祇 零) @asougi_0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ