ココに、この世界に、、、とどまろう。

ココに、この世界に、、、とどまろう。

これから数日、当直続きで家でゆっくりする時間がなさそうだな。

彼女、どうしよっかなー　今のこの状態では、一人にさせられない。

実家に帰らせるかな。

実家に帰る？なんでかって。

俺、数日仕事でなかなか家に帰ってこれないんだ。

お母さんには俺から連絡するから。

ちょうど、君の病気のことも話しなくちゃと思ってたところだから。

ん？　嫌っていわれてもなぁー

昨日も話したけど、今回の件は一人で頑張る！とか、一人で乗り切る！とか、そういう話ではないの。

わかるよね？

君が強い子なのはわかってる、わかってるよ。

それと、人に迷惑をかけたくないという考えがあることもわかってる、よくわかってる。

でもね、こればっかりは一人で抱え込むのはやめてほしい。

俺が仕事に出ていて、君が一人の時にもし苦しくなったらどうするの？

怖くなったらどうするの？

ね、黙っちゃうでしょ。

考えるだけで、恐ろしいよ。

君は、ぎりぎりのところまで我慢するからね。

というわけで、少しの間実家に帰ってもらうからね。

一緒に、お母さんに説明しにいこう。

病気のことまで説明するのかって。

それを説明しないと、お母さんにちゃんとわかってもらえないよ。

嫌なのね、それはわかるけどさ。

お母さんに心配かけたくないもんって、君らしい。

でも、そうも言ってられないんだ。

ちゃんと、数日後の当直明けにお迎えに行くから。

それまで、いい子にしてお母さんと待っててよ。

おねがい！

ん、できる？　ありがとう。

頑張ってくれるんだね。

よしよし、いい子だ。

じゃあ、お昼ご飯一緒に食べてから実家に向かおう。

何か食べたいものある？

食欲どうかな。

あんまり食欲ないか。

そしたら、君の好きなお店にいこう。

少しでも好きなもの食べて、元気だすよ。

お蕎麦屋さんにする？

あそこのお蕎麦はお塩で食べるんだよね。

本わさびも自分ですりおろすから辛すぎず、香りがいいんだよね。

それとも、ハンバーグやさん？　ガーリックバターで食べるの美味しいんだよね。

あの、ふわふわのクリーム。

どちらでも、お好きな方で！

どっちもいいなって、欲張りさんだな。

じゃあ、今日行かない方は、実家にお迎えにいく日の帰りに食べることにしようか。

楽しみができると、頑張れるでしょ。

ん？　どうした？

涙でてきちゃったね。

大丈夫？

頑張れないって、そんなー　お母さんの手料理食べて、つもりに積もったお喋りも楽しんでさ。

そうしたら、数日あっという間だよ。

いい気晴らしにもなると思うよ。

環境を変えるのも大事だし。

お母さんに病気のことを伝えるのが怖いんだね。

うんうん、その気持ちはよくわかるよ。

でも、これから先隠し続けるのは難しいと思うよ。

俺も同席するから大丈夫。

悲しむ顔を見たくない、そうだよね。

話を聞いた直後は驚きを隠せないかもしれないけど、

母性ですぐにあたたかく包み込んでくれるはず。

大丈夫、緊張すると思うけど、すぐにいつもの親子関係に戻れるよ。

俺の手が離せない数日間だけじゃなくて、

暫くうちで預かりますって言われたらどうしようかと俺は思ってる。

どう？　頑張れそう？

おー　頑張ってくれるの！

ありがとーう。

じゃあ、ご褒美にお昼ご飯はお蕎麦？　ハンバーグ？

どっちか選んでいいよ。

１人前食べられるかわからないけど、ハンバーグがいい！　うんいいよ、OK。

俺も久しぶりだ、ガーリックバターのふわふわクリーム。

そうと決まったら、さぁ、いこうか。

美味しかったねー　肉汁いっぱいのハンバーグにあの濃厚でふわふわのクリームをのせて。

君もほとんど１人前食べられたじゃん。

よかった。ずいぶんと美味しそうに食べてたね。

お腹もいっぱいになったところで、実家に向かいますか！

ちょっと頑張ろう。

緊張する？

だよね、でも君のお母さんなら大丈夫。

包容力半端ないから。大丈夫、大丈夫。

よし、実家に到着っと。

お母さん、お久しぶりです。

数日、預かっていただきたく、よろしくお願いします。

あー、うまく引き渡せてよかった。

一安心。さぁ、仕事に行くぞ。

気持ち切り替えて、仕事仕事。

今日は予約多いなー

携帯なってる？　あ、自分の携帯だ。

ラインかー　え、彼女からだ。

もう耐えられないって、なに？

何が起きたんだ？

すみません、看護師さん。

ちょっと彼女と連絡がとりたくて。

次の患者さん、先に検査にいってきてもらってもいいですか。

ありがとうございます、助かります。

あー、電話にでてくれない。

もう耐えられないってメッセージきてるし…

どうしたんだろ。

もう一度、電話してみよう。

あ、繋がった。

大丈夫？何かあった？

なんか、ざわざわ聞こえるけど外にいるの？

お母さんと一緒？

え、１人？　なんで？

ねー、聞こえてる？

聞こえてたら、返事して。

カンカンカンカーンって、踏切の音？

実家の近くのあの踏切？

踏切のところで何してるの？

話せる？　黙りこまないで。

今までありがとうって、ちょっと待って。

今から、そこに行く！

俺のこと待ってて。

その前に、俺の言う事聞いて。

いい？　今から後ろに30歩さがるよ。

いくよ、1 2 3…　さがってる？

線路に立ってるんだね。

もう一度言うよ。

今から後ろに30歩さがるよ。

よし、今度こそ…

1 2 3…　さがってる？

はぁー　間に合ったー！

お、ちゃんと言う事聞けてえらいじゃん。

約束通り、踏切から30歩さがったところにいるね。

えらい、よく踏みとどまった。

ぎゅーさせて。ぎゅー♡

息切れしてるねって、そりゃそうだよ。

仕事投げ出して、君のところに飛んできた。

大好きな君とこうして、また会えてよかった。

ぎゅーもできてよかった。

ほんとに、よかった。

ココに、この世界に、とどまってくれて、ありがとう。