第3話
次の日、私は意を決して、一人で学校へと行った。
すでに登校時間は終わっており、周囲に生徒はいない。
奴は相変わらず校門のところで待っていたが、不思議と今日はそこまで怖くなかった。
むしろ、気になっていたことがあったからだ。
声が届くギリギリのところにまで来て、私は彼女に恐る恐る――。
話しかけた。
「あ、あの……、わたしのこと、傷つけたり、する?」
そう言うと、奴はゆっくりと首を横に振った。
私が一歩彼女に近づく。
「あなた、茉里奈さん?」
今度は首を縦に振る。
また一歩足を踏み出す。
そして、一番聞きたかったことを、勇気を振り絞って聞く。
「私に、何か伝えたいことがあるの?」
彼女は大きく首を縦に動かした。
私はいつの間にか、彼女の目の前にまで来ていた。
相変わらずの紫色の顔や飛び出した眼が私の恐怖心を呼び起こしてくる。だが、そこに悪意や害意があるようには見えなかった。
「伝えたいことって、なに?」
すると、彼女が手招きしてくる。
私は素直に彼女へとついていくことにする。
すると、七不思議があった場所を順に回っているようだ。
体育館倉庫で宙をうねる大縄跳びのヒモと少女の泣き叫ぶ声を聞き、その後は音楽室でケースの中にしまわれたまま鳴り響くチューバ。夕方勝手に開閉する扉は夕方でないため見られず、職員室へとたどり着いた。
七不思議の内の一つは職員室にいる先生の後ろに立つ背後霊だ。でも、私は今学校を休んでいるから、職員室に入るのは少し気が引ける。
そう思った矢先、扉が開いた。
「おお! るみなじゃないか! 学校来たのか」
「あ、渡部先生。その、少し、元気が出てきたので……」
彼女が先生の後ろからこちらをジッと見続ける。
「心配してたんだぞ。心の病気だとお母さんからは聞いていたからな。もう大丈夫なのか?」
「は、はい。まだ、少し療養が必要ですが、もう少しで復帰できると思います。今日はその……学校に慣れておきたいと思って。すみません、断りもなく」
今の私は制服すら来ていない。私服で校内を歩き回っているのだ。
「いいんだぞそんなこと気にしなくて。いつでも遊びに来ていいからな。俺で良ければいつでも相談に乗るぞ」
「ありがとうございます。……あ、先生」
「ん? どうした?」
渡部先生が笑顔を浮かべてくる。
「先生は茉里奈って子を知っていますか?」
すると、先生の表情が途端に険しいものへと変わった。だが、すぐに普段の表情へと戻る。
「るみなこそ、どうしてその名を知っているんだ?」
「私、お母さんの母校もここなんですけど、親友だったらしいんですよ。年頃も先生と近いと思って、もしかしたら知っているかなと思ったんです」
「そうか……。あれは、悲しい事件だったな」
やっぱり、先生も知っているんだ。
「彼女、どうして自殺したかって、知っていますか?」
未だ先生の背後にいる彼女の方を見ながら先生に聞く。
「わからない。実は……第一発見者は俺なんだ」
静かにその言葉を発する。
「体育館倉庫で発見して。最初は死んでいるなんて思わなかった。それぐらい、綺麗な表情だったんだ」
そう言って先生が涙をほろりと流す。
「あ……、ごめんなさい、先生。嫌なことを聞いてしまって」
「いや、昔の話だ。もう気にしていない」
その後、先生と別れて、茉里奈に連れられて最後の進路相談室に入った。
けど、特段真新しい発見はない。
茉里奈は、何を伝えたいの。
何を伝えようとしているの……?
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