第2話
次の日、私たちはすでに授業が始まっている学校へと赴いた。
私は母親の影にビクビクとしながら遠目に学校を確認する。
すると、奴がいた。
校門の内側ギリギリのところにいて、私の方をジッと見つめていた。
お母さんの陰に隠れて、とにかく自分が見つからないように必死になる。
「るみな、お母さんには何も見えないけど、いるの」
私はこくりこくりと首だけ動かす。
それを見て、私たちは再び家に帰った。
そして、しばらく学校を休めというお母さんの言葉に従って、私は家で過ごすこととなった。
最初の内はビクビクとしていたのだが、奴が家には来られないということを、段々と信じられるようになり、今では平常心で生活が送れている。
それに、どうせ学校に行ったって無駄な努力をするだけだ。勉強をしたって成績は良くならない。むしろ下がることだってある。陸上に至っては少し前の方がタイムは良かった気がする。きっと、自分の限界なのだろう。
そんなある日、お母さんから奴の件で相談があると言われた。
「るみな、その、嫌だったらいつでも嫌だって言ってね。お母さんね。七不思議のことを少し調べたの」
その切り出しに少し安心できた。
お母さんのことだからきっとこの問題を解決する手段を探ってくれたに違いない。
実際にその後の話はそう言う内容だった。
最後の部分を除けば。
「お母さんもね、あなたと同じ高校にいたんだけど、お母さんの頃には七不思議なんてなかったのよ。代わりに体育館倉庫で自殺した女の子がいたわ。それでね、お母さん思うんだけど、あなたが言っているお化けってその子なんじゃないかって思っているの」
「じゃ、じゃあ、除霊とかしてもらえないの?」
「えっとね、まずはそのことを確かめたいんだけど、自殺した子、名前は茉里奈って言うの。茉里奈は左手に少し大きめの火傷の跡があるわ。あなたが見た子の左手がどうだったかは覚えてない?」
「そんなの、見る余裕なかったよ!」
怒ったような口調で答える。
「るみな……。その、嫌かもしれないんだけど、確認できない?」
「ヤダよそんなの!」
あの後、日を置いて再度学校を見に行ったのだが、やはり奴は校門で私を待ち構えていた。
高校に行けば奴と会うことになる。
だから、あの高校には二度と行かないと心に決めていた。
「るみな。お母さんも一緒についていくから、お願い」
しばらくの問答の後、私は渋々これを承諾した。
次の日、この前のように遠目で確認するも、奴は左手が体の影に隠れていて状態を確認することができない。
やむを得ず私はお母さんとともに奴へ近づくことにした。
ダメだ、左手の項が太ももの内に隠れちゃっていて、うまく見えない。
そのとき、お母さんが声を発した。
「茉里奈。もし、私の声が聞こえているならあなたの左手の項を見せて」
すると、その声が聞こえているかのように、奴がするりと左手の項をこちらにかざしてきた。
火傷の跡。
たしかにある。
「見えた。あったよ」
その一言だけ告げて、私はお母さんにまた隠れてしまう。
その日はそのまま家に帰宅した。
だが、これで確定した。
奴はあの学校で自殺した茉里奈という女の子だ。
きっと死んでも死にきれず地縛霊か何かになってしまったんだろう。
*
その晩、お母さんとまた二人で話をした。
「茉里奈はね。すごくいい子だったの。あなたと同じ陸上部で、脚が速くて、可愛くて人気で、お母さんの大事な友達だったの。あの子が自殺なんておかしいってずっと思っていたのよ」
そのあと、茉里奈さんとの思い出話をいっぱい聞かせてくれた。
お母さんの話の中に出てくる茉里奈さんは、正義感が強く、努力を惜しまない立派な人だった。
そんな話を聞きながら、私は一つのことがずっと頭の中につっかえていた。
――彼女、どうしてお母さんの声に応えたんだろう。
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