☆KAC20236☆ アン・ラッキー7

彩霞

アン・ラッキー7

「3月生まれの人は『7』という数字に気を付けて、アンラッキーを避けましょう」

「あー、今日は3月7日ですし、余計に気を付けないとですね」

 

 テレビから「今日の占い」が聞こえてくる。占いは信じてはいないが、「気を付けろ」ということは、自分の気持ちが緩むときなのかもしれないと思い、私は気を引き締め仕事に向かった。


 会社に向かう途中、昼食を買うために地元のパン屋さんに寄り、サンドイッチと一口サイズのドーナツを5つ買ってレジに行く。すると、ふくよかな体型をしたおばさんが「これサービスしておくから」といって、ドーナツを2つ追加してくれた。


(思いがけず、ドーナツが7個に……)


 ほぼ毎日通っているパン屋さんだが、サービスは初めてだ。きっと店内には私以外に人がおらず、レジが店長の奥さんだったからだろう。


 ラッキーな出来事にほっこりしたが、油断大敵である。私は気を緩めることなく会社に行った。

 しかし驚いたことに、常時怖い顔の課長が微笑を浮かべ、些細なことでキレる同僚が何故か優しいのだ。その上、気難しい先方との取引は和やかに進み、交渉も成立。

 7の日の今日は、アンラッキーではなかったか?


「どういう一日よ……」


 業務が終わったあと、給湯室でドーナツを食べながら独り言ちると、「どういう一日だったんですか?」と後輩の田島が尋ねながら入って来た。


「ああ、実は……」と、占いと今日の出来事を簡単に説明すると、田島はふっと笑った。


「今の話に笑う要素あった?」

 怪訝に尋ねると、「親父ギャグっぽいですが」と田島は前置きをして言った。

「先輩の名前は『杏』さんでしょう? だから『杏・ラッキー』の日だったのかなって」


 意味が分かると、私もふはっと笑う。


「なるほどね。一理あるかも」


 確かにそれなら私(=杏)は「ラッキーな日」になる。おかしな解釈だが、充実した一日になったのは良かったなと思うのだった。

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