第廿肆話 ニードルで耳たぶ開けると痛いよね


 俺の死神は常に空腹を感じているみたいだ。

 まだ足りない……まだ足りないと、その鎌をぶら下げて俺に命令してくるような気がする。

 そんな感覚を常に持ちながら戦うのは、中々にストレスを感じるものでして……認めたくはないが事実、俺は他の人間から死神だと呼ばれるに相応ふさわしい見た目の者である……と言う事は間違いない。

 幼女ロリ体型である奴が、何を死神ぶっているのか?と問われれば、即座にえる準備はできている。

 そんな話は置いておいて、逃した奴が一人いるらしく、自身の耳の中に情報源の音が入り込んでくるではないか!こいつらを逃すと碌でもないことになるのは間違いない。早めに駆除しなければ。


「………………生き残りがいる。吐息の音……心拍音、どこだ」


 周囲を見渡し、その音の出る方へ向かってくる様は、鬼ごっこゲームの中に登場するハンターのようである。

 瞬間移動(擬似的に出来るが、壁は抜けれない)で行ってやろうかとも思ったが、当たりが散らかるし、単純に俺の体が痛くなるからダメだな、却下!

 ここのロッカーの中から音がする……多分この近代的な見た目の研究所にいる奴は、こいつで最後だろう。

 ロッカーさら切り捨てるために、俺は距離を詰める……ジリジリと、恐怖を味あわせるように、ゆっくり丹念ににじり寄る。

 しかし、そのナイフを振ろうとした手を阻もうとする奴がいた。

 ロッカーの中にいる奴…………抵抗をしてきた。ロッカーさら切ろうとしたのだが、中からニードルが飛び出してきて何本か俺に刺さってくる……!ちょっとこんな能力隠し持ってたなんてびっくりだ。


「俺は……ハリネズミを多く食わされて、この形になってしまったハリネズミ人間だ……!」


 研究員の中にも強い奴がいるとは思っていたが、まさかこんな形で出てくるとは思わないかったよ。

 汎用性の高い能力の裏付けに、この剛鉄(俺には意味のない硬さではあるんだけど、こいつらにとっては最上級のシェルターになるだろう)のロッカーを突き破って、俺に刺せるだけの余力があると言う事は誇っても良い。

 それだけに惜しい能力でもあると俺は思っている。

 だって、ここで仲良く並ぶんだからな……クリスマスツリーみたいに、綺麗にここを彩る一つのパーツになることを、喜ばしいと思いながら死ね。…………それがお前に許された最後の道だよ。


「この……死神が。俺らについに引導を渡しにきたのが、こんな幼女体型の軍服を着たものだとは……人生長く生きていないと分からないものだな」


 こいつは焦らず……落ち着いていて、とにかく冷静にこちらを見ているから、油断のならない相手であると言う事は間違いないな。

 近付いたところで、その剛鉄を貫く硬さも備わっているし、出し入れが可能と言う時点で、リーチも長いものだろう。

 多分ここの研究員の長を任されている人物であろう事は、服から見てもなんとなく想像がつく。


「………………とうに捨てた命だろう?」


「確かに……研究員になったその時から、俺は悪魔に命を売ったのだろう。しかしだな、俺の命を貰い受けにきたのが、悪魔ではなく死神だったとは恐れ入る……ナリも形だし、俺が命を売ったのは悪魔だから、お門違いもいいところだろう……!」


 そんな軽口を言い合いながら、どちらも攻めきれずにいるのは、自身の特性を理解しているからであろう。

 近づいてきたものを瞬時に刺す能力に、強化の相性はそこまで悪くはない……が、不意に刺されるとなると死傷を負うのは必至だ。

 ロジカルに行くとするのならば、ナイフを極限にまで【強化】して、ぶん投げるのが適切であるが、徒手空拳でこのニードルを攻略するのは骨が……と言うか手が折れそうである。

 間違いなく、均衡きんこうは保たれない。…………どちらかが先に動いて結末が決まる。そのどちらかが俺にならないことを祈るばかりだ。……いや、俺も既に死神に首を鎌で掛けられている身だ。気にしても仕方がないことか。


「どうした、動かないのかよ……!ならばこちらから行くぞ、小さい死神ぃぃぃぃいいいい!」


 それは怯えに満ちた表情ではなく、戦闘を楽しむような……そんな高揚した空気を感じることができる。

 そうか、こいつも唯で死にたいと言うわけではなく、心からの戦闘を楽しむタイプの研究員だったか。

 多分、戦闘用の異能を作っていたのはこいつで間違いないな。他の研究員よりも……これまで出てきた囚人達よりも強いし、何より素早い動きだ。

 自分の実力に自信があるのか、こちらのことを誘う動きもしてくるとか……面倒くさいことこの上ないが、ちょっと愉しさも芽生えてきたところだ。強い奴と戦うのは好きだが、こいつとは仲良くはなれなそうだな。……なんか性格がネチネチしてそうだし。

 奴が能力を使ってくる。

 ニードルをこちらに差し向けてきて、俺はそれを避けるが……どうやら追尾してくるらしい。

 剛鉄を貫く力があり、こちらを追ってくる機能があるとか、チート能力すぎんだろ……!自身の間合いをよく理解しているからこそ、この追尾を使える……実力に合った動きだな。

 俺はその伸びてきたニードルを叩き切ろうと、ナイフを構えて振るうが、そのニードルを切ることは…………できなかった。ただ、火花が散りゆくのみだった。

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