第参節 死神と呼ばれた存在

第廿参話 寂しくないように


 目が覚めると、俺は砂浜の上で寝ていることに気がつく。

 身体もだいぶ痛いし、爆発に巻き込まれたと言うことが、容易に想像できるであろう状態で転がされていることにも、ついでに気が付くことができる。

 お口の中には土は入っておらず、そこだけは良いこととして記憶し解けばいいや〜。なんて思ってる。

 とりあえず、今は爆破されて倒れて目が覚めた!状態だから、なにぶん情報が少なすぎるんだけど、どうしようかなぁ。

 そして、情報が少ないついでに、爆破で吹っ飛んだ服…………浴衣がなく、俺の女児体型が白日の元に晒されていると言うことにも、一抹の不安を覚えているので、俺も中々女の子になってきたのでは?…………なんて、思ってしまう。

 しかしながら、何も隠すことのできないこの状況であれば、男も女も関係なく羞恥心を募らせるに違いない。

 やはり服は文明の利器の一つであると言うことが言えるなっ!

 ……………………おや?横に何か置いてあるぞ?見た目からして救援物資っぽいが…………こんなことが命令できるのは一人ぐらいしか思い当たらないので、多分俺のことを見ているであろう猊下陛下に手を合わせ御礼申し上げる。

 とりあえず支給されたから、応急処置に入る。

 擦り切れている部分は、包帯をぐるぐると薄く巻きアルコール消毒。他にも気になる部分があればアルコール消毒を忘れずに行うことが大切だ。傷は放置してはならない……化膿する恐れがあるからな!

 まじで普段から十分に気をつけた方がいいぞまじで!


「………………こんなところか。とりあえず、この軍服も動きやすいし、いいものだな」


 着心地を肌で感じていると、次は周囲を見渡すことにする。

 多分龍の階層から3〜4は下に落ちていったのではないか?と思われる大穴が、天井を眺めるとぽっかりと空いていた。

 この高さから落ちたら、通常の人間は助からないであろうと言う予想を立てたが、普通の人間はこんなところに来ませんな!あらやだ、私ったらぁ〜。か・ん・ち・が・い……勘違い!


「………………そうだ、黄泉も気になる。この爆発に巻き込まれていないか」


 心の中でふざけていたら、不意にでは……決して不意に思いだしたわけではないが、黄泉のことが気掛かりであることを思い出す。

 あの子がこの爆発に巻き込まれていたらと思うと、正直に言って嫌な気分だ。

 ただまぁ、その爆発を起こした龍のことを思うと、怒りは特に感じる事はないと言い切れる。

 あの龍は哀れだった…………こんな爆発をさせられて、名誉の死すら受け入れてはくれず、ただ爆発四散するのみで…………そんなものはただの傀儡かいらいに過ぎず、操り人形以外の何物でもない。

 本人がそれを望んだか?はっきりと望んでいないだろうし、同意もなく勝手にやってしまうのがこいつらだ。

 きっと天皇猊下陛下も遠くから御覧あそばされて、心を御痛めになった事だろう。心優しき猊下陛下であれば、この地を見捨てると言うことなど絶対にしない。…………確実に破壊し尽くせとまでおっしゃるだろう。

 敵を殲滅しなければ、天皇猊下陛下の御高配に報いることなどできない。

 死をはずかしめるものに鉄槌てっついを与えなくてはならないな。


「……………………死に屈辱を与えたものに、それ以上の屈辱を与えん」


 儀式のようなものを済ませると、ここに止まる理由もないので、地盤が緩くなっているところに特大のパンチをお見舞いして、下の階層へ飛び出していく。

 とりあえず、ここから先は目についた研究員は慈悲なく首と身体を永遠のサヨナラにすると決めた。

 あの龍があんなに苦しまなきゃいけない存在ではないと言う事は、最後に自信がやられる時の立ち振る舞いによって明白なのである。


「…………………あ”あ”あ”あ”あ”あ”」


 降ってく時にどうしても口から声が漏れてしまうが、これを抑える術もないので、今はこれでいいな。

 下の階層に着く頃には、この唸り声もあげていなかったので、オールオッケーということにしときましょうや!

 ………………あっ、研究員の塊だ…………良い人間か悪い人間かを論じているような時間はない。

 ここで全員……素っ首を地面に並べなくてはならない。できるだけ残虐に……全てを廃することこそが、あの龍にとってのとむらいであると心得よ。

 急に何が起こったのかわからない研究員は、一人を残して、全員が地面に仲良く並べられていた。

 これで寂しくないだろ?


「あ、ああああああっあく、悪魔……いやっ!!死神っ……しに、死神ィィィィィィィィィィィ!!」


 半狂乱になって拳銃を向ける研究員だが、発砲してきた銃弾をナイフで切り飛ばして、拳銃も真っ二つに切り飛ばす。

 抵抗力を失った人間というのは儚いもので、自らの命を絶とうにもすることができない恐怖に打ちひしがられながら、ナイフで首を飛ばす。

 研究員達の居た……この階層の雰囲気に合わない近代的な建物は、鮮血で彩られる。人の首付きで……。

 …………………………俺は、これをあと何回も繰り返すのだろう。俺はこれをあとどれだけやれば良いのだろう。

 そんなことを考えない方が楽だが、考えが及んでしまう。

 しかし、俺の中の怪物が……あの龍の無念が、俺を突き動かす。

 俺の後ろにはきっと、大層な鎌を持った大きな死神が着いている。

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