第弐幕 研究所掃討作戦編
第壱節 潜入
第壱話 興奮してきた
学園を飛び出して何日か経過しましたが、俺は元気です。
すぐに着くもんだと思っていたんだが、予想が甘かったですな!
3人とも速度を落とすことなく進んでそれで時間がかかっているということは、相当遠いところにあるみたいねっ!
何時間か足を進めると、隠れ家であるというポイントにようやく辿り着く。
忍漫画の任務でもこんなに動かされることはないぞ。
ここがあの女のハウスね!(超裏声)
「ここが…………ジェネリックの、アジトですか」
「そうだ。ここがジェネリック最大のアジトの場所になる。心臓部と言い換えてもいいぐらい、機密事項の多い場所になるだろうね。だから、ほら。見てごらん。こちらを気にしていないそぶりを見せていても、耳がピクピクとしているのが見えるだろう?……こちらは気付かれていると思った方がいいね」
学長が指を刺す方向を見ると、しっかりとこちらは意識しない様に訓練された兵が、耳を少しだけ動かしているのが見える。
俺も視覚を【強化】していなければきつかったであろう距離の情報をすぐに察知しているということは、この人相当強いな…………おら、ワクワクすっぞ!(野菜人)
相当戦闘経験が豊富と見える。俺もここら辺で戦闘訓練を積んで行った方がいいな。戦闘経験の差が、勝敗を分ける場面も必ず出てくる。
俺の【強化】の異能は決して弱いわけではないが。それよりも強い異能が出てきたら、俺が勝利できるのか、という点が問題になり課題になってくるだろうからな。
真面目に話しすぎて、おふざけ精神が足りなくなってきたっピッ!
「ハンドサインを出すから、君たちもついてきたまえ。私が先行しよう」
学長はそういうと、素早い動きでハンドサインを出しながら移動してくる。
相手がSMGを構えてきて、発射するとそれを華麗に避けながら距離を詰めていく。
鮮やかな動きすぎて、敵も一瞬トリガーにかける手を止めてしまった。その一瞬が戦場での命取りになってくるとも知らずに。
学長の身長が縮んだかた思うと、急に伸びて敵の顎部分を貫いていく。これで絶命しただろう。
簡単に命を奪えることから、戦闘IQが高いことが窺えるな。後々敵を逃したことが仇となって命を落とすということもあり得るから、ここでは見敵必殺が基本のほうが良さそうだ。
「ここの警備はまだいる。ここからは別行動だ。各個撃破していく形になるが、二人ともそれでいいかね」
二人同時に頷く。ここで人に頼っている様では、道はないと考えたからだ。
そして、一人の方がむちゃくちゃしやすいんだよなぁ(暗黒微笑)。
一人でいくから!だから止めないで!(ヒステリックを起こした人のような口調で)
よーし、俺はここから侵入していく事にしよう。ここから俺の時間が始まると思うとなんだかワクワクしてきたなぁ。興奮してきたと捉えてもいい。俺ってもしかして特殊性癖……ってこと!?
子を成せないじゃないか!いい加減にしろ!……俺がお母さんになるんだよ!(性別:女)
よし、一人劇場を脳内でやってないで、さっさといく事にしよう。ここであってるよね。デンジャーとか書いてあるけど、危険なところなんて何にもないな!左右確認したし問題ない!
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華恋は危険がないなどと言ったがとんでもない。
自分がどこに足を踏み入れたのかということを理解していなかった。
研究所内切手の凶暴な囚人達が集まる場所に気づかないうちに足を踏み入れていたのだ。危険度で言えば、裸で熊と対峙する一般人という構図になるのだが、華恋は英語が苦手だった。そもそも、英語が苦手とかいうより敵地に書いてある情報を鵜呑みにする方がいけないと思っているタチだった。勉強ができないのにである。
足を一歩、さらに一歩進めると、そこでシャッターが閉められる事に気づく。
しかし気にしないで歩いていく様は、まさに戦地へ向かう兵士の様であった。
「おいおいおいおい!なんだか可愛い見た目をした侵入者が入ってきたじゃねぇか!!お前ら!今日の餌はこのメスガキだぜぇ!!可愛上がってやるからヨォ、全体に逃げんなよぉ!絶対にぶち犯」
下卑た言葉を使っていた男が、急に喋らなくなる。
周りの仲間達はどうしたんだろうか、と様子を伺うと……立ったまま絶命している事に気付く。否、気付いてしまった。
気付かない方が幸せなこともある、という言葉があるようにこの者たちはその事実に気がつかない方が良かった。
それは目の前の少女がそんなことをしでかした犯人だということが分かったからだ。
心底恐怖した事だろう。
散々怯えた事だろう。
目の前の少女が成人男性を殺して、満面の笑みを浮かべているというなんともアンバランスな状況に対して、何も言えなくなってしまう。
「や、やっちまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!!!!」
総勢二百人の異能を持った囚人たちが彼女に向かっていくが、鮮やかな動きでそれをかわしていく華恋。
横にずれたり、アクロバティックな動きを用いてかわしていく様は、まさに夜の泉で踊り舞う妖精の様だった。
その動きに見惚れてしまったものから、華恋に目をつけられて眼球を抉られる。
悶え苦しんだ後、
「こ、こいつ…………!」
さらに混乱と動揺が湧き起こる中、その大群に飽きたのか……面倒だったのか、全てを殲滅するべく動き出す。
全身体機能を【強化】すると、周りを取り囲みにきた十数人の手足をバラバラに切り裂き、切り裂きジャック……ジャック・ザ・リッパーよろしく解体作業をしていく。
人間の血が湧き出る感覚が、華恋の生きているという実感につながっていく。
通り魔に殺されかけたことで、一度死んだと思った命が復活したこともあるためか、生に欲だった。しがみつけるものなら、なんでもしがみついてやると、本気でそう思っていた。この目の前の人間全てを殺さないと生き残れないという状況で、華恋の感覚はさらに研ぎ澄まされていく。
どこの場所にどの攻撃が来て、別働隊がどういった囮行動を取るのか。そんなことまで見えてくる様になってきた。
嫌に冷静というわけではなく、心の芯から冷静になっているのだ。今この状況こそが自身にとっての生きる道。殺し殺されるのはごめんと考えていた華恋の蕾が、今開く時だ。
散弾銃を避け、連射の効く銃をナイフで潰しながら、向かってくる敵兵の足をかけて、隠しナイフで脚の腱を的確に切る。
動けなくなったところに、思い切り拳を振り
日本の昔の掛け軸にもない様な大量虐殺の様子。血が手に、服に、顔に、全体に広がるニオイも相当なものだろう。
誰もが忌避する状況にただただ絶望ではなく、恍惚の表情を浮かべた一人の少女は……全ての敵を殺し切るまで頭を回転させる。
敵の思考能力を奪ってから、確実に苦しめることなく殺していく。
血の化粧をした少し大人びた雰囲気の少女は……果たしてどんなことを思いながら人を殺しているのだろうか。
「これで………………終わ、り……………………?」
「まだだよ」
一人だけ身綺麗な男が殺意の刃を向けると、華恋はそちらの方向を向くそぶりもなく、急に消えたかと思うと、その声をかけた男の背後に立つ。
それだけで、この少女がどのくらいの強さかということは知れるだろう。間違いなく最高峰にいる実力者であるためか、冷静に話を取り繕っていた男に冷や汗が流れる。
「き、君は何しにここへきたのかな?ここはジェネリック!君たちにはなんの関係もないところだ!立ち去らないというのなら、すぐに死んでもら……!」
話の腰を折るように、攻撃を開始する華恋。
しかしながら、その攻撃は空を切る事になる。
自身の攻撃が当たらなかった事に驚いた華恋は、男の方を見る。
少し特別な異能を持っている男は得意な顔になっているが、華恋にはそんな事関係なかった。今は自分の程度の低さに腹を立てているのだ。そんなことは許せない、自分の技術に問題があった。相手の異能が強いから当たらなかったのではない。
「君は確かに強いが、僕に到底勝てるわけもない!そのまま君のことはこの僕が処理してやる!」
男がそう言い切った瞬間に、華恋は研究所の壁に叩きつけられた。
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