第廿玖話 忍というには忍んでないな?

 

 

 戦闘が終わった後、華恋は職員室へ向かう。

 とてもではないが、まともに見られないような表情で向かう。

 そう見えているだけ、というのはご愛嬌だが、他の生徒から見たら、悪魔が肩に人間を二人背負っている時点で何があったのか?と邪推するだろう。

 一定の速度で職員室に向かっている様は、流石に世間体的に不味いというのは華恋も承知の上だが、可及的速やかにこの二人を運ぶ必要があった。

 それは…………「この二人をサンドバックにしていいか」ということを聞き出すためであった。

 ただのサンドバッグでは、一秒と持たないということを華恋は知っているからだ。

 訓練器具など、ただのおもちゃでしかなかった華恋にとっては、今の状況は棚からぼたもち状態だったろう。

 こんなにも連携の取れた相手に対して、修行ができるという事は、強くなるという事なのだから。

 戦力の増強が目的であるならば、敵であろうが味方であろうが使える物は使うというのが華恋の主義だからである。


「…………………………出て、くれば………………………………?」


 虚空に向かって声を出す少女は奇異の視線で見られるが、その言葉を聞いた者たちは飛び出してくる。


「なぜ分かった……?」


「…………………………気配の、消し方……………………雑過ぎ……………………誰でも………………分かる」


 そんなことを呟くと、顔を真っ赤にした謎の者たちは、一斉に華恋に対して飛びかかってきた。

 それは無駄だと言わんばかりに、肩に二人の人間を担いだ状態で、掌底を顔面に打ち込み一人、腹へ打撃を加えて一人、踵を頭に落として一人…………どんどんと敵を倒していく様は鬼のようだったと、そこに居合わせた生徒は証言する。

 段々と敵の勢いもなくなってきた時に、近くにいる生徒に対して近づき、人質にしようと動き出すが、ここはあくまで異能学園……最後の抵抗虚しく異能で撃退される。

 まさか自分たちが攻撃をして、反撃をされないとでも思っていたのならば、それは大いなる勘違いだろう。


「あり…………………………がと………………やるね…………キミ」


「ありがとうございます、華恋さん。私のことなど覚えていないでしょうが、委員長の黄泉です」


「……………………大丈、夫…………今、覚えた………………から」


 普段人のことをあまり覚えようとしない様子を見ていた学級委員長は、ひどく驚いていた。

 人嫌いの印象を受けていたからか、自分を許容する姿に驚いていたのだろう。

 ひどく驚きながらも、会話を続けようと、委員長が口を開く。


「華恋さんは今からどこに向かわれるのですか?もしかして、この方向だったら職員室の方でしょうか?……私も向かってよろしいでしょうか……?」


 勇気を出して、自分も一緒に行きたいと話した黄泉は、内心では「なんでこんなことを言ったのだろう」と後悔していたが、華恋は無言の肯定で、さもついてきてと言わんばかりの目で促してくる。

 そしてまたも驚き、今日は驚いてばかりだと、少しだけクスッと笑うと後へトテトテと着いていく様は、まるで可愛いアヒルの子どものようだ、と評されることになったのだが、それは本人は知らない。



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 いやー、まじぱなかった(死語)

 職員室に「この上級生借りてってもいいですか?」って職員室で聞こうとしただけだったのに、まさかのそれを阻止しにくる反対派組織、上級生連合が来るとは思いもよらなかったぜ!

 まさかの人質まで取ろうという始末だし、奴らは上級生の風上にもおけんな!

 起こり過ぎて、血管が破裂しそうでした(緩衝材を破る音って、怒ってる時の擬音に聞こえるよね)。

 まぁ?俺は完全にプロで無欠の無敵マンなのでぇ?ボコボコにするんですけどぉ、それでもめんどくさいもんはめんどくさいのよ。

 目障りな者は早めに消しとばしておくほうがいいし、消すかって思った矢先、聖なる力と魔の力が発言されて、人質を取ろうとした上級生(仮)がぶっ飛ばされてしまっていた。

 何事かとも思ったが、その女の子がボコしたようですねぇ!ふんふん、なるほどなるほど(ネフェルピ○―)。

 脳みそを決していじったわけではないが、いい収穫はできたと言ってもいいですな。

 強い奴が現れるということは、自分のパワーアップにいいかもしれないからさっ!


「あり(余る才覚と、異能の使用のためらいのなさ)…………………………(興味をそそられると共に、あり)がと(うを伝えたい)………………(異能の発現をとてもスムーズに)やるね…………キミ」


「ありがとうございます、華恋さん。私のことなど覚えていないでしょうが、委員長の黄泉です」


「……………………大丈、夫…………今(さっきまで知らなかったとかではなく、普通に認知していたけれど、更に興味深い人間がいるということを)覚えた………………から(限りなくいい収穫ができたと言っても過言ではない)」


 自分だけでは修行は不足するし、相手がいたほうが効率がいいのよね。

 そんな意味でも、この出会い……もしかして運命!?(勘違いです)

 運命の相手が君だったのね!(そんなわけない)

 違うのであれば、俺はただの変態のロリコンになってしまうので、あしからず。

 職員室に着いてきたいって、彼女が言っているんですけど……え?着いてくの?

 別に俺に断りも何もなくてもいいんだけどなぁ。

 委員長、とても律儀な人だなぁって思いながら、そのまま職員室に向かう俺+α(委員長)は、このサンドバッグならぬ上級生と思しき二人を連れて、職員室に向かうことにするのだった。



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