第廿㭭話 ぶっ飛ばして、ごめーんね?(犬系)

 

 

 膠着状態が続いている中での俺の一手は、まず相手に出方を探らせてから混乱させるのがいいと思うんだ!

 実際問題、相手はこちらのことを警戒してくれているみたいだし、ここは俺の軽快なギャグに乗っかってくれることを信じて、相手をガン見してみよう!

 キラキラなお目目をじーっと動かしてにっこりと笑う(表情筋が仕事を放棄してくれているので、相手にとってどんな顔に見えるかは想像するしかないということが難点)が、相手の表情はぴくりとも動かないままだ。

 っていうか、こいつらの名前ぇ、しらなくなくなくなくなくなくなくなくなくなくない?(これが現代のギャル)っと、なんかこっちのことチラチラ見ては牽制の意味も込めて攻撃してくるじゃねぇか!

 卑怯だぞ〜?ずるいんだぞ〜?そんなことばっかりしてるとモテないんだからねっ?!

 え、俺みたいな中身三重路のおっさんにモテたくなんてない……?

 おっと、クリアランス白、なぜあなたはその情報を持っているのですか?


 ZAP!ZAP!ZAP!


 一度このノリやってみたかったんすよね!クトゥルフも好きだったんだけど、すぐに秒で終わるパラノイアも捨てがたかったんだよ〜!あっ、俺にはクトゥルフもパラノイアもやる友達なんてできたことなかったんだけどね(てへペロッ!)?


「純くん!このままだとまずいよ!徐々に押され始めている!彼女の異能の使い方は僕たちが思っている以上に造詣が深いよ!」


「そんなことはわかってんだよ!今どうにかして作戦を練らないと死ぬのは俺ら二人の方だ!」


 あらあら、過大評価しちゃってもぉ〜ぅ(調子に乗った牛の鳴き真似)

 でもね、君たち正しいかもしれないよ。俺が君たちを殺す事は万に一、億に一ないけど、君たち強敵だから、勢い余って力加減とか間違っちゃうかもしれないから、その時はごめーんねっ?(犬系彼女の如く甘えた声で)


「………………………………………………運が、良ければ………………だね」


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「………………………………………………運が(底なしに良くて、当たりどころが)、良ければ(十分に気絶できるぐらいには力を押さえ込んでおくのが私のミッション)………………だね」


 華恋の言葉に動揺を見せるのは漸次郎。

 先ほどの外皮を削った攻撃に、内心息も絶え絶えになっており、普段の異能を使ったトレーニングでは息切れ一つ起こさないのだが、今回は状況と人物が異なってくる。

 自身の在籍しているところのトップのレベルと同じぐらいのものが目の前にいるのであれば、それは畏怖し恐怖する対象になり得るわけだ。

 戦闘は死んでも避けなければいけないと思っていた矢先に、あちらからこちらのしていることを看破されてこんなことなってしまうなんて、とてもじゃないがお断りしたいと、顔にも表情にも出ている。


 一方純は、選択肢をもっと用意しておくべきだったと後悔している。

 漸次郎とのコンビではまず負けることがないと踏んでいた相手に、ここまでの暴力的な差を見せつけられて、何も感じないほど純という男は馬鹿ではない。

 相手に対しての最大の攻撃は、さっき息をフゥッと吹きかけられて霧散してしまったので、ほロジックの波に囚われてしまっていた。

 戦闘中に止まるのは愚行であるが、何か問題が起きたことに対して、何も対応しないというのは愚行中の愚行になる。

 だから、相手が出方を待っているうちに、逃げるか戦うかの選択肢を迫られている。

 こんなの歴戦の司令官でもしたくない案件だろうな、と純は考えて、給料は倍額にしてもらおうと心に誓った。


「余計な………………………………お喋り、は…………………………辞め?」


 空気が変わる。

 彼女が喋るだけで、冷たい空気が流れ込んできたと錯覚させられる。

 それほどに重々しい声音ではないのだが、全てを支配する鈴のなるような声は特徴的で、聞いたもの全ての脳裏にこびりつくに一秒といらない。


「今度は………………………………こっち、から……………………いく」


 そう宣言すると同時に、彼女がいる場所の地面は、小さい足跡が付いていた。

 それに気がついた純は、こちら側に来る……!そう思い確信もしていた。遠距離から攻撃してくる相手ほど厄介なものはない……と自分の特性を理解しての確信と慢心が彼にはあった。

 しかしながら、その予想は最悪の形で外れることになる。

 彼女の攻撃の対処になったのは斬次郎だった。

 そう、彼女の選択肢が異常だったわけではなく、遠距離攻撃を使ってくる武器を生み出す人間に対してもケアをしなければならない……という問題に直面した時、どのピースがなければ動きにくくなるのか考えた時に、思いついていたのが、岩を出し続けることのできる斬次郎であった。


「ごっ………………!」


 何かを喋る隙も与えず、自身の強化をフルに使い、硬い外皮に覆われている斬次郎のボディに拳を立てた。

 裕に速度を3,000KM過ぎてからは烈火の如く、拳から火が噴き出し斬次郎に向けて放つ。自身の装甲に自信を持っている人間は、最後の最後で自分の力を過信する傾向があるのだ。

 それを的確に見抜いていたのか知らずなのかは分からないが、華恋との考えとマッチングして、腹にものすごい火力の拳を叩き込むと、数メートルは軽く飛び、打ち付けられて、ボロ雑巾のように落ちる。

 純は今にでも逃げたい気持ちを抑えながら、決死の覚悟で残してくれた岩石などを操り、コンサート会場を開く。

 指揮者が指揮棒を振い、岩や石を輝かしいステージに上げている一方で、華恋は自身の異能を強化したいという一心からか、その輝かしいステージに立っている岩石を鼻くそを飛ばすかのような指の動きで砕いていく。

 純はそれも計算の内とたかを括りながらも、はやる気持ちを押さえつける。

 全ての岩石を壊し、次はお前だと言わんばかりの瞳で純を見つめる華恋の瞳には、その男には何かの策がまだある……と思わせた。

 少し前傾姿勢になって警戒をする意思を見せると、ここで先ほど全部砕いた岩石の屑達が一斉に華恋に向かって降り注いでいく。


「どうだ……俺の念動力も馬鹿にならないだろう?!斬次郎の分の痛みまで、テメェに返してやるってなぁ!!」


 一種のストームと言わせるに足るきめ細やかな竜巻が彼女の柔肌を傷つけ……傷つく?傷をつけた………………傷をつけるに…………至らなかった。


(そうだった…………!こいつの異能は【強化】ぁ!!生半可なものじゃ削れねぇ!…………まだだ!……まだ終わってねぇはずだろっ!!!唸れ俺の右手ぇぇぇ!!!)


 無数の砂がドリル状となって華恋に襲いかかる。

 もう純には跡が残されていないので、今ここで体力を使い切ってもいいという考えに至り、本人の体力気力全てを使い作り出したドリル状の物は華恋の肌を貫く………………事はなく、テレフォンパンチによって粉々に砕かれてしまった。

 流石にそれは精神が許容できる範囲を超してしまったのか、純は鼻水を垂らして痙攣しながら気絶をした。


 一人残された華恋は、無表情だった顔に、不気味な笑みを貼り付けながら、その場で高らかに笑い始める。

 その一部を遠くから見た物達でも、この学園に来て最強の災厄と言ったらまさにコレ……と太鼓判を押されるほどの戦闘であった。


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