第廿漆話 修行パートに入るつもりだったんだわ

 


 はぁぁぁぁぁぁぁん!

 いやだもういやだいやだいやだいやだいやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!

 あの公国ののお姫様お転婆スギィ!

 壊れるっピッ!

 あの戦闘で得たデータは確かに有効的なんだけど、それでも労力に見合わないって言うかなんて言うかーぁぁ?

 それでも自分なりにいい修行になったから良かったけどさ?

 けどもですよ、自分的には自分の力不足を感じてならないのです!

 今から修行パートに入っていかないとまずいような気がする!

 恐ろしい強敵が現れて、いつ自分が殺されるかも分からない環境に身を置くのは、流石にバカのすることなので、戦力を増強すると言う意味では、自己の強化が最優先事項であると判断した俺は!次の日から戦闘訓練も別に行うことにしました!

 天才的すぎる俺の発想に誰もが打ちひしがれてる(勝手にそう思っている)ことだろうと、満足げに頷くと、訓練場ⅴを後にした。

 いやー、少し音が派手だっただけで、あんなに観客がくるんだもんなぁ。



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「お、おい!見たかあれ!」


「なんだよ、うっせーなぁ。訓練場の爆発音のことかよ?」


「そ、そうなんだよ!また彼女がやったんだ!あんな天才は見たことないって部活の先輩も噂してたんだぜ!?」


 そんなことを話す二人の少年は、ボコボコに変形した訓練器具を窓から見やり言う。

 あの訓練器具は並大抵の力を加えても、変わらない頑強なものばかりだったが、彼女がものの数分で跡形もなく塵屑スプラッターにしてしまったものだから、驚いた様子で報告をする少年Aも力が入る。


「まず間違いなく、あの訓練器具の耐久は問題なかったはずだ!三年のあの異能をもつ先輩でも、一時間以上も掛けないと壊すことは難しかったと聞いている!」


「そうだなぁ、奴さんはやはりとてもつえー異能を持っていると言うことだし、何より自分の異能の使い方を理解しているってこった」


 転入してきてからまだ幾許も経っていない少女が起こすには、無理な話だろうと彼女がくる前まではそう思っていた二人だが、その予想は出鱈目な結果で覆される。

 予想だにしなかった出来事というのは人間の脳みそをバグらせ、おかしな方向に話を持っていくことになる。


「もし攻め込まれでもしたら…………大変なことになるよ!純くん、僕たちもそろそろ覚悟を決めなければならないよっ!あの方達に報告するに時期尚早だと思っていたけれど、この分だと彼女の武勇は簡単に耳に届き得るんだ!」


 それはまずい……と夢想した純と呼ばれた男は、慌てふためく男にこう言う。


「ならば……消して仕舞えばいい。漸次郎、お前と俺のコンビは最強だ。自惚れているわけではないが、二人での戦率は8割を超えている。二人で一人なんだ。安心して事を起こせばいい」


 そういうと、もう一人の男……漸次郎は納得がいったように手を叩いて、すぐに準備に取り掛かる。

 一番合戦右大臣華恋がこのことに気がつくのはいつになるのだろうか分からないが、それでも不安な影の手は着実にこちら側に近づいてた。

 しかしながら、我らが華恋はそんなものたちの予想を裏切る形になる。





 コツ…………コツ………………コツ。

 エナメルが使われている廊下に足音が響き、訓練場を盗み見ていた、二人は音の鳴る方へ目を向けるが、そこにすでに人はいない。

 二人は集中して音の発生源を探すが、見つからない。

 また、コツ…………コツ…………コツと音が鳴る。

 明らかに気のせいではない。自分たちを狙っているものの足跡だと即座に判断した二人は距離を取る。


「何者だ!俺たちを嗅ぎ回って一体何をしている!」


「で、出てくるなら今のうちだよっ!君がどこの誰か知らないけど!僕たちは無敵のコンビなんだ!やるならやってやるぞ!」


 音のなる方をさらに見たが、それでも何もない。

 一瞬漸次郎は気を緩めた、そう緩めてしまった。


「………………………………かく、れんぼ………………?」


 心臓がいきなり鷲掴みにされた感覚が脳髄に叩き込まれる。

 今自分たちは明らかな生殺与奪の権を握られている。

 気がついた時にはすでに手遅れだった。後ろを振り返ると、即座に殺されるであろうビジョンが頭に浮かんでいたからだ。


「…………………………あなた、たち(見慣れない格好をしているから上級生の方ですか?)……………………ここで(何か研修でもあったんですかー?いやー!まずいことしちゃったかもなぁ!とりあえず口封じに……)死ぬ(目にあって頂かないといけなくなりましたなぁ?)………………………?


 最大音量の心臓の警鐘が、体を這うように鳴り響いている。背中や額には冷や汗が滝のように滲み、明らかに本気度が高いことが伺える。

 こちらのことは、道端に転がっている石を見るような……路傍を見るような目でこちらを見ている。

 油断した瞬間に意識が刈り取られ、自分はもうこの世からさようならするしかなくなるだろう。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 残次郎が自身の体を岩のように固め、ハリネズミの容量で華恋を刺しにくるが、彼女はそれを素手でバキバキに端折へしおり続ける。

 彼女のラッシュのスピードも大したものだが、彼の岩を生成する速度も相当の使い手でないとできない芸当だろう。



 純もすかさず攻撃に転じる。

 岩が砕けて生じた破片を念動力で操り、華恋の方へ飛ばしていく。

 さながら流星群のような美し見た目とは裏腹に、人を殺すことしか考えられていないような技術に、華恋は心を躍らせることになる。

 自分の修行を最優先にしていた華恋であったが、その実一人でやっているのはなんとも物足りないものであったのだ。

 自分よりも長い時間ずっと異能に向き合っていなければここまでのことはできないだろうと踏んだ華恋は、この二人を相手取ると決めた。

 できるだけ長い時間戦いたいと言う思いもあるが、自分の命があって初めて修行ができるのだから、リスクのある行動は避けたいと言うのが本音だ。しかしながら、この二人を相手に、そんな悠長なことも言ってられないと判断し、攻勢に転じる。



 自己の強化を自動化オートマチックし、自分は技に専念すると言う、離れ業。

 いつもは半自動マニュアルで入力していた【強化】を自動化することによって、無駄なリソースを割くことに成功していたのだが、二人の男はそんなことを知る由もなく、かなりの苦戦を強いられていた。


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 いやー、この人たちなんですか?

 ちょっと強すぎんよ〜。明らかにここの二年生のレベルではないし、三年生クラスのレベルでもなさそうなんすよねぇ。

 あ、そうだ!もしかして…………新しい玩具訓練器具?!

 だとしたらすごい発明だぞ、ドクター!(迷推理)

 こんなに歯応えのある相手は国家間対抗戦(お披露だから控えだったのねっ!)にも出ていなかった!

 さて…………俺をもっともっともっともーっと…………!楽しませてくれ…………!!

 ……おっといけない。

 バトルジャンキーとしての血が目覚めてしまった。

 社畜時代の時もそうだった……血で血を洗う戦い(残業)に身を投じていながら、テンションが爆増するのを常に感じていた……つまりそう言うことだな!(迷推理)

 さて、こいつら……どう倒すのが良いかな?


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