第壱幕 学園転入篇

第壱節 ドン底人生からの下克上

第壱話 刺されて死んだ……?

 なんて事のない日常だった。

 俺は社会に出て泥沼のように毎日上司に媚びへつらう毎日。

 上司は俺に強く当たり、部下や同僚までもが俺を馬鹿にした。

 最悪の日々は、自分を頑強な人間へと変えていく。毎日毎日「だるい」だの「早く帰りたい」などと、甘えたことを言っている割には、最新の部分では強化されていた。

 喋るのはめんどくさくてしていないが、もとよりめんどくさがりの性格のため、これもやむなしと言ったところだろう。

 怠くても仕事に通う…………それが限界ブラック社畜だよね!

 特に何の内容もない薄っぺらい資料をもとに作成されたプロジェクトを行っていたが、そこで我がブラック企業は民間の目に止まってしまう。

 幹部相当のものたちの不祥事で、このブラック企業は明日にも潰れるらしい。

 俺は歓喜した。

 こんなに最高なことはない!今日は家に帰って一人宴会だ!

 部下や同僚などには悪いが、一足先にこの地獄からの解放に浸らせてもらうぜ!


「……今日は…………ビールだな…………っ!」


 祝杯を上げる準備をしようと、コンビニに立ち寄り、いつも買っている旭超冷却アサヒスーパードラィを10本買い、宴会の開戦に備えていく俺氏。

 そんな歓喜ムードに終止符を打ったのは、通り魔の包丁だった。

 こちらを見据え、狂ったように笑いながら俺に刃物を向ける。

 とてもではないが、正気の沙汰ではないので、すぐにこちらに襲いかかってきそうな勢いではある。

 ブラック企業のどんな恫喝に耐えてきた、プロの馬耳東風ばじとうふうリーマンでも、正気のないやつを相手にするとなると、馬耳東風ではいかなくなってくる。

 うわー、変なタイミングで変なやつに出会っちゃったなぁ……流石に運が悪いので、お祓いに行ってこのクズ運を治してもらおうかしら…………なんて考えたけど、今目の前に刃物突きつけられてますわ^^。

 まずは準備をさせて欲しいよね!そう簡単に俺が死を受け入れるわけ、ないんだからね!?別にあんたのために死ぬんじゃないから!(本当)

 死ぬって分かってるんなら、早めに俺の鞘に収まっているエクスカリバーを使っておけばと、軽く後悔しているが、それぐらいの後悔だけなので、無駄な抵抗はせずにそのままズブっと刺される。

 男は下卑た声を発しながら、俺の腹部を刺し続ける。


「はっ…………ははははははははははははははははははははははは!死ね!死ね死ね死ね死ね死ね死ね!全部死ね!お前らみたいなゴミクズが社会に蔓延るからこうなるんだ!…………あぁ?うるせーな、こいつを殺してこの国を滅ぼす足掛かりを作るんだよ……そんなことも分かんねぇのか、このノータリンがよぉ!!」


 半狂乱の奴(ここにはいない何かと喋り続けている危険人物)に抵抗して、ナイフを抜かれる事の方が得ではないと判断したまではいいが、そこで俺は衝撃を受ける。…………刺された途端にとんでもない苦痛を受けて、俺はその場にうずくまる。

 いや、うずくまるじゃ足りない。転げ回るのが正しいか。

 漸く痛みが無くなって、刺された部分が熱を持ち始めてきた頃、俺はこんなことを思ってしまう。

 これで転生したら、俺は最高に強くなってかっこよくなって、ほぼ人生勝ち組なんだけどなぁ。……なんて痛い妄想を始めてしまった。

 最後の最後に考えることが、家族のことじゃなくて、自分が何処に行くかの妄想を始めるなんて、正気の沙汰じゃない。

 俺もあいつと同じ穴のむじなだった…………ってこと!?

 あ〜、やっべぇ……もう意識がぼーっとして、保つのも難しくなってくる。

 あたりで救急車の音や、ざわめく人々の群れ。どっかの誰かが通報したらしい。余計なお世話だと思う俺の心は確実に醜いんだろうね……!

 痛みを感じながらに、こんなに落ち着いて物事を考えられてるってことは、とうとう神様と対面する時が来たな……あばよ、日本の現代社会。これでいつもの日常とはおさらばできる。










「…………………ここ、どこ?」


 なーんて、テンプレの言葉を吐きながら、辺りを見渡す。テンプレは「知らない天井だ…………」でもいいけどねっ?

 しかし、声帯がいつもと違うなぁ。ちょっと発声練習でもしてみますか!


「…………………………あー、あー。」


 …………あれ?あれれ?なんか俺の声いつもと違くね?めちゃくちゃ女の子の声するんだけど、今の俺の声じゃないよね?

 いやいや違うよね?俺普通のブラック企業勤めの社会人だよ?そんな奴がいきなり美少女的声のするなんてことはあり得ないはずだ…………。クールになれ、俺。マイサンは……っと。

 …………いやいやいやいや落ち着けって俺。マイサンの部分がマイドーターになっているなんてことはないはずだ。

 そう、胸部装甲!男ならば太っていてやわらかいなんてこともあるにはあるが…………いつもギリギリの生活をしていた俺の胸部装甲はガリガリでまな板……包丁を使えば野菜ぐらい切れるくらいにはまな板な俺の胸部装甲!

 ………………いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや落ち着け俺。こんなにふくよかな胸部装甲は触ったこともない、感じたこともない柔らかさを誇る…………推定Bカップぐらいか…………?

 いや、俺触ったことないからわかんないけど、でも女性の中では小さい方だと思うが。……でもついているだけ、有り難みを感じるよね。

 通り魔に刺されて死んだかのように思えたが、実は女になってました……的な敵だテキーラ。

 これ、本当に現代日本なのか?

 こんな現象TVでも見たことないって……まさか秘匿されていて、実はこんな現象は実際に起き得るものなのか?

 それこそまさかだろう。現代日本にそんな現象が起きるはずがない。

 起きてたまるもんですか!そんな些細なことに意を唱えたい!


「……………………!患者様が起きました!すぐに先生をお呼びして!」


 慌ただしくなる病院内、それは戦場の始まりであるかのように、周囲に動揺が走っているのは確かだろう。

 俺、こんな変なタイミングで目覚めちゃって、大丈夫だった……?

 もっと眠ってたほうがよかった……?

 もう、これはわかんないですねぇ。

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