第2話 全員覚醒

俺の寝室は右端だ。ここはストレートに右から2番目、つまり俺の隣から順に攻めていくか。ドアノブに手をかけようとするも、その前に勝手に扉は開いた。部屋の中から出てきた人物を見て、俺は思わず吹き出す。だって、出てきたのは……


「おー、おはよう、千葉」


「…………ぷっ、……ははっ、おはよう。ナタロー」


永作さんに負けず劣らずの酷い寝癖をした田中奈太郎(たなかなたろう)、通称ナタもしくはナタローだった。


俺よりも20cm以上背が低く、子供っぽい性格で甘えたがり屋なナタロー。俺が面倒を見てやらないと危なっかしくて放って置けない弟ポジションだ。……なんだが年上だろうと年下だろうと構わず面倒見てるな、俺。


「おー、ケーゴ、おはよう」


「おはよう。今日も元気だな」


「うん、ナタ今日もめっちゃ元気……」


「それは何よりだ。寝坊助なナタローにさらなる朗報がある。いま洗面台に行くとお揃いの寝癖をした永作さんに出会えるぞ」


「ホント!? やったー! お揃い、お揃い♪ 寝癖直してくるね!」


「ああ、そうしてくれ」


そう言うと素直にナタは洗面台に走って行った。本当に永作さんに懐いているんだなと感心した。あの調子なら間違いなく目は覚めているだろうし、極限まで寝ぼけている永作さんに何かあっても目が覚めている人間がそばにいることだし大事にはならないだろう。次に行こうと部屋の前から離れ、次の寝室につながるドアを開けた。ここは……加藤純次(かとうじゅんじ)の部屋だ。


加藤は中学2年生だが、実は風紀委員に所属しており同じ中学生相手だと面倒見のいいお兄ちゃんみたいで、俺と同じシンパシーを感じている。だが高校生相手には弟らしくてそれが可愛い……話が逸れた、兎に角しっかり者というだけあり少しゆすったらすぐに起きてくれた。スマホの時計を見たらお昼過ぎで流石に焦っていた。


「うわわわわ、圭吾パイセン! すいませーん!」


「ほらほら慌てるな。みんなまだ寝てるんだから安心しろ」


「は、はーい! 了解です!……あれ?」


「どうした?」


「いえ、なんでもないっす! すぐに服着替えますね!」


なんとなく違和感のあるやり取りだったが、気にせずその場で着替え始めているのを見て、あまり気にしていないのだなと俺も忘れることにした。純次はパワーのあるやつだし、一緒に起こしてくれたら早く終わりそうだ。本当に素早く着替えて見せた純次と一緒に次の寝室に入った。ここは……中島正宗(なかじままさむね)先輩がいる寝室か。


「正宗さーん、正宗さん! もう2時ですよ、起きてください!」


「……ぅん?」


「島っちパイセン! もう2時ですよ!! 起きてください!!」


「……2時? え、嘘……今、夜?」


「そんなわけないっすよ!」


正宗さんは島っちパイセンという言葉でようやく目が覚めたようだ。それにしても気にせず正宗と呼んでくれた言っているのに、あえて苗字から取った島っちとは……。まあ本人も気に入っているしいいのだが。とにかく純次が着替えるのを手伝うみたいだし、これ以上何もする必要はなさそうだな。そのまま放置して先にリビングルームに戻ることにした。これであと2人だ。


リビングに戻るとちょうど桐郎が戻ってきたところだった。ナタローと着替え終わった桐郎に身支度を手伝われているその顔を見ると、血色がよくなっているし寝癖もない。どうやら永作さんもばっちりと目覚めることができたようだ。3人を呼んで残りの2人、鈴木信長(すずきのぶなが)と高橋颯(たかはしはやて)の目覚ましに協力するよう頼んだ。そして俺と桐郎が颯を、ナタローと永作さんが信長を起こしにいくこととなった。


颯も俺の後輩だ。後輩と聞くとどうしても世話を焼きたくなってしまう。というか実際に焼いてるな。でも颯は生徒会に入れるぐらいしっかり者だし優等生だから人助けてやりたくても案外1人でなんとかなってんだよなぁ。そういう所に惹かれて颯を追いかけ回している女子たちも多いらしい。


「颯くん。もうお昼過ぎてるよ」


「……ふぇえ? お昼?」


「そう、お昼」


「……あぁ、本当だ。ごめんなさい千葉先輩、伊藤先輩」


「いや大丈夫だ。全員昼過ぎ起きの寝坊助だからな。それより信長起こすの手伝ってくれるか? あいつ朝が弱いからな」


「いいけど……俺が行っても起きるかな」


颯の目が覚めてきた頃、ナタローが部屋に押しかけてきた。恐らく無理やり布団から引き摺り出された信長を引っ張ってきている。それに文句も言わないあたりさすが信長と言うべきなのか、まだ目が覚めてないと言うべきなのか。


「信長、目は覚ませそうか?」


「……無論、問題ない。まずは昼食を摂取する手筈なのだろう? 先程ナタに耳元から叫ばれ現在も鼓膜が麻痺しているが、それぐらいは学習完了しているとも」


「お、おう。その調子なら平気そうだな。じゃあお前は颯と着替えてくれ、食事処で待ってるからな」


颯に目配せすると快く引き受けてくれた。着替え終わった正宗と純次も引き連れ俺たちは一足早く食事処へ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る