第30話月明かりの下でお願いします


「フハハハ、人がゴミのようだ」

「こら、そういう汚い事を言うのはダメだよ」


 しょぼくれて馬車に乗り込む貴族を頭上から見て笑ったらグリエダさんにコツンと頭を叩かれた。


「え~だって負け犬ですよ。今王城から帰されるってことは要職につけないという事なんですから」

「それでも死体に鞭打つようなことを言ってはいけない」


 彼女がいうなら仕方がないが止めてあげよう。でも鞭打つなんて優しいなグリエダさんは、俺なら熱した油をどばーだね。


 俺と彼女は王城で一番良い部屋のバルコニーから正面階段を下りていく貴族達を眺めていた。

 あの夜会で大体のことは終わらせたので、少し堕ち気味な王妃様と長兄達に後始末を任せて帰ろうとしたんだけど。


「あら今帰ると一矢報いようとする連中に狙われるわよ。辺境伯はお強いけれど死ぬ覚悟になった者達からあなたを完璧に守れるのかしら?」


 十は若くなった感がある王妃様に小首を傾げながら言われてしまった。

 グリエダさんは大丈夫だと太鼓判を押してくれるけど、ドレスを汚すのはガッカリするので甘えさせてもらうことにした。

 何か裏があるだろうなとは思うけど愚王というおもちゃをもらった恩ぐらいはあるだろうからたぶん大丈夫だろうと判断した。

 俺を狙うより王妃様にとっては一番欲しかったものだろうしね。


 そして用意されたのは最上級のお部屋。

 うん愚王のお部屋です。

 あの馬鹿、国民にお披露目するバルコニーの部屋を私室にしやがってるの。

 他国の要人が見たらドン引きだぞ。


 数日後には元に戻すらしく最後に使ってと言われたの。

 狂喜モードになっているけど思考はまともな王妃様、まず王城から手を付けていくみたい。

 能力値は高いけど人格が先王に洗脳プッされている宰相達だけでは不安なので長兄とセイレム公爵、そしてハイブルクの事務方が王城に残ることになった。

 ハイブルク家には地味にダメージになるのだけど国政をちゃんと回してもらわないとのちのち大ダメージになるからしょうがない。


 長兄はまた城に引きこもり生活か・・・とがっくりしてたけどアリシアさんが私もお傍にいますっ!と奮起していたから大丈夫だろう。

 義父付きだけど頑張れ長兄っ!比率は政務関係3、アリシアさん2、義父5かな?


 愚王の私室はムカつくことに中々センスが良かった。

 ギンギラギンに金に輝いているかと思ったら調度品も美術品も高そうではあるが下品ではない。

 少しだけマシなところが部屋のセンスというのが愚王らしい。


「よかったのかい?男が求める一番の権力を放棄して」


 俺の隣で一緒に外を眺めていたグリエダさんが聞いてくる。


「ん~別に要りませんよ。責任を負わないで権力だけ行使するのは心が痛みますし、責任を負えば損得では損でしかないですしね」


 あっさりと手に入れた権力を放棄したのに夜会にいた全員が驚いていた。まだ国盗り方法があると言ったのに驚いたのではないたぶん。


「それにあれはあの場だけの夢みたいなものです。僕の欲望を叶えようとしたら愚王派連中だけでは無くて公爵二家も簒奪王として敵対したと思いますよ」


 愚王を正すためだけの正当性のために俺の手の一つを使ってしまった。

 貴族法214条は実際は時間をかけて準備をして使うもので、あの場では本当に夜会の間しか効力がもたなかった。おそらく王妃と長兄達が最初に話し合っているのは貴族法214条の抹消だろう。

 残しておけば誰かが使う可能性があるし、俺なら手間をかければ何度でも発動可能だ。

 実はハイブルク家が国盗りする用のものだったが惜しくはない。


 グリエダさんが俺の横にピタリとつく。


「これでも私は耳がいいんだが、君が愚王に話していたことは聞こえていたよ」

「おう」


 顔にかかった銀の髪をかきあげて俺の顔を覗いてきた彼女。

 切れ長の眼まなこを弓のようにしならせ三日月を浮かべる口元、うん美女だ。


「じっくり見て初めて気づきましたが金色の目なんですね」

「ん?ああこれは魔力を強めに使うとしばらくは色が変わるんだよね。話を変えようとしないでくれるかい」


 銀の戦乙女の笑みは消えずに敵である俺を追い詰める。


「俺の女」


 うえっ。


「許せない」


 うひょうっ。


「俺が塗りつぶしてやる」


 誰?誰なのそんな心のオッサンが仮想便器を作り出して顔を突っ込もうとするようなことを言ったの!


「ほら顔を背けようとしない」

「顎クイは止めてください。それはグリエダさんには似合いますが、男の僕がされると地味に心が死にます」


 グリエダさんの反対方向を向こうとしたら顎を掴まれて戻される。がっちり固定されて全然外れないよ。

 仕方ないので身体ごと彼女の方を向く。


「えっとですね」

「うん」

「僕は・・・」

「待った。僕と俺、どっちが君の本当なんだい?」

「・・・慣れてしまっているのでもう口から出るのは僕ですが、内心は俺です」

「じゃあ今だけ俺で話してくれ」

「はい・・・」


 なんだろう転生して赤ん坊の頃におしめを変えられたときより恥ずかしいの。最近は感情が揺さぶられた時ぐらいでしか使わないのに強制プレイ。

 う~んしょうがないなぁ。


「俺は国の為とか、愚王を正すために今回の権力の強奪をしたわけではありません」


 天上に昇った月の光で光る銀髪の彼女は本当に美しい。


「自分が好意を抱いている女性の為に簒奪者になりました」


 許せるわけがないじゃないか。

 惨たらしく殺してやりたかったけど、残念ながらこの身体は非力すぎた。人の手を使っては意味が無い。だから彼女が受けるはずだった被害を体験してもらうことにした。

 規模が大きくなったのはただ相手が王だったからだ。


「俺は大切なモノを奪う者には容赦しません。俺の大切なモノを傷つけられるのが許せません」


 セルフィル=ハイブルクは生まれ変わって決めたことがある。

 それは自分の大切なモノの為にはどんな手段を使ってでも守るということだ。

 今世の母はグリエダさんより若かった。

 前公爵に弄ばれて産まれた俺を少女の母が必死になって守ってくれたのだ。

 愛されたのだ愛さなくてどうする。

 だから前世のオッサンは愛する大切なモノを守るためにそれ以外を切り捨てる。

 力が無いから卑怯でも残酷でも力として認めた。

 チートなんて無いから博愛主義をできるほど余裕はない。

 今はハイブルク家が背後にあるから小物なら少しは見逃すこともできるけど。


 ううむ、もう少し後で言うつもりだったんだけどな。

 本心聞かれているし、ここで止めるのもなんだし。予定は大概臨機応変だ!


 一歩後ろに下がってグリエダさんの前で片膝をつく。


「グリエダ=アレスト、今回のことで俺達の婚約はほとんど無意味なものになりました」


 下を向いているので見える彼女の足がピクリと動いたような気がした。


 自分の領地の困窮をどうにかしようとしていたグリエダさん。

 だが今回の夜会で利益で結ばれたハイブルク、セイレムはアレストの領地を豊かにしていくだろう。

 つまり前公爵の三男坊で元簒奪者の汚名を持っている俺はいなくてもいいのだ。

 グリエダさんがいくら強くてもちゃんとした経歴の男が婚約を求めてくるだろう。

 俺がいなくても長兄や前公爵夫人ヘルミーナ様はそこら辺はシビアだ。もしかするとちゃんとした婚約者候補を勧めるかもしれない。


「ですがセルフィル=ハイブルクはあなたと共に生きていきたいのです」


 手を彼女に向けて伸ばし、顔を上げる。

 銀と金と深い紅の女神はジッと俺を見ていた。


「どうか婚約を続けてくださいませんか」


 一世一代のプロポーズだ。


 俺も最初は愚王の手から逃げるための婚約だった。

 でも美青年だったグリエダさんが俺を抱きしめるときは年相応の少女の笑顔を見せたり、手を繋ぐだけで嬉しそうな顔を俺だけに見せてくれる。

 一緒にいる間、彼女はずっと俺を知ろうとしてくれて一緒に楽しんでくれた。

 俺だって彼女を知ろうとしたし、楽しんできた。

 一目惚れではない。

 だけど短い間の中でお互いを知った。

 だから愛している彼女の為に愚王から簒奪したのだ。


 大丈夫だと思っているけど手が震えている。

 大丈夫大丈夫、可愛いものが好きなグリエダさんは手放さないよね?

 いかん癖でうるうるしそうだ。

 さすがにダメだぞ俺っ!でも十三年もスキルとして使っていると反射的に出てくる。

 もう出そうと限界を迎えかけたら、そっと手が俺の手の上にのせられた。


 ・・・お?

 おおおっ!やったおぅわっ!?


 彼女の言葉を聞くまでは格好つけていないといけないのだけど、心の中で喜びの叫びを上げようとした。

 だがグリエダさんは俺の手をガシリと掴んで上に持ち上げる。

 軽い体重のショタは勢いよく強制手を上げ直立状態に。

 そして腰に腕を回されて引き寄せられて。


「んんっ!?」

「ん、」


 綺麗な顔が俺の顔に近づいて唇を奪われる。

 本日二回目の濃厚なキスだ。

 初回顎クイキス、二回目片手手つなぎ上げ腰抱きキス。

 どちらもショタが女性側なのはどうして?

 パニック状態だったので反攻できずに蹂躙されてしまう。


「・・・はぁ、君は私のものだ」


 キスを終えた彼女は、抱きしめられたままクテンと力が抜けている俺に宣言する。


「そして私は君のものだよ」


 おぅ、銀と金と深い紅の女神様は強引な覇王様でした。

 わかっていたけど俺はヒロイン系なのね。

 恰好つかね~。


「では僕との婚約は継続ということでいいんですね」

「私はセルフィル=ハイブルク以外を夫にするつもりはないよ」


 俺を腰抱きで密着したまま、クルクル回り出すグリエダさん。

 ああ、夜会で踊れなかったから、こっそり王妃に二人っきりでダンスができる場所にしてほしいとお願いして、このバルコニーにしてもらったのに全部彼女に最初を取られていく~!


 でも月明かりの中で俺を抱きしめ踊る笑顔の彼女は可愛かったから、しばらくなすがままになったよ。







 ・・・そのままお城にお泊り。

 どうして王城のメイドはぶかぶかの寝間着を俺に着せるのかな?

 どうしてグリエダさんの寝間着は真っ赤で薄いのかな?

 あ、グリエダさんの寝る準備をして出ていこうとしてるの変態三人メイドじゃねえか!

 なんでお前らがいるんだよ!

 親指をグッと立ててニカッと笑うな!教えたの俺だけどさ。

 脇にショタを抱えないでグリエダさんっ。


 何もしてないからね。

 朝までグリエダさんの抱き枕状態のショタだったよ。

 明るくなり始めた頃に気絶するように寝たね。

 とにかく帰ったら変態三人メイドは説教だっ!



ーーーーーーーー

グリエダ「はぁ、よかった」

セルフィル「プロポーズだからね!みんなわかっているよね!?」


・・・エピローグってどういうのですかね?

もう一話書かないと結末わからないよね(;・ω・)


あ、補足補足。

変態三人メイドは普通にハイブルクのメイドとして裏から入っています。

他の貴族もですがサポートで執事か侍女が来ています。

まあ慣れている人がいるのが一番なので。

グリエダの侍女も来ていますが三人メイドに二人の関係を進めませんかと唆されました( ´∀`)


ママン達書かないといけないし、なぜかコアなファンがいる長兄、学園編は筆者どうするの?ダッシュ君?(;・ω・)


覚えていない伏線ありまくりだー!?Σ(´□`;)

まあノタノタのた打ちまくって書いていきますヽ(*´▽)ノ♪

ただ少し浮気して他のも書いていいですよね?( ̄∇ ̄;)

た、たぶん次がエピローグ!(;・ω・)

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