第23 話アリストの華は手折られる

今回のサブタイには色んな意味が込められています。

あと途中から視点が覇王様に変更します。


 

 肌に吸い付くように添う紅のドレスを着たグリエダの姿に愚王は情欲を感じてゴクリと喉を鳴らした。

 十六の小娘なのにその色香に椅子から立ち上がって近寄りたくなる。

 だが以前に脅された屈辱が脳内に蘇って、色欲より傲慢がわずかに上回った。


「ふんっ、なんとも品の無いモノを着ているな」

「ふふっ、節穴の目にはそういう風にしか見えないようだな」


 グリエダの返しにイラつく愚王。

 愚王にとってグリエダは相性が最悪に悪い。

 十の女に爵位を継がせるのも気にくわなかったが、そのあと近衛に入れてやろうとしたのに断って、呼び出すために送った騎士百名を卑劣な罠に嵌めて壊滅させた。

 そして息子の件で恨みのあるハイブルクの三男坊との婚約を認めろとコソコソ隠れて王城に忍び込み王たる自分を脅迫したのである。

 その時のことは全員に口止めして情報は漏れなくした。

 けれど愚王にとってとても許せるものではない相手がグリエダなのだ。


 それが彼の頭の中で都合のよい風に捏造された一連の出来事である。


 そしてドレスを着たグリエダは愚王にとって大変都合がよかった。

 王子を会場に入れた時と同じ様に新しく騎士団長になったランドリク伯爵に再び視線を送って合図した。

 事前に手はずを聞いていたランドリク伯爵は合図を送る。


 すぐに会場にある数か所の扉から完全武装の騎士と三人の上等なローブを着た者が入ってきた。

 そしてグリエダを囲むように展開して各々剣や槍を彼女に向ける。

 ローブの者達はその間から手を突き出していた。


「ふっ、ふははは、お前の為に用意した近衛騎士と魔法使いだ!この一流の者達の前では卑怯な手は通用せぬぞっ」

「ふうっ、魔法使いは他国からも呼び寄せた凄腕だぞ。ふうっ」


 卑怯な手を使ったとはいえ自分を脅したグリエダが包囲されて安心して高笑いする愚王に、自分の功績とばかりに息切れしながら自慢するランドリク伯爵。


「・・・三、四、十五に魔法使いが三人だと?」


 囲んだ騎士と魔法使いの数を数え終えて困惑するグリエダ。

 一流と呼ばれる魔力使いの者でも詰みの状況。


「なんだ怖気づいているのか?ハハハハハ」


 グリエダの表情に、彼女がどうしようもない状況に追い込まれていると確信し、さらに機嫌が良くなる愚王。

 ヘレナ側妃や王子達も嘲りの笑いをグリエダに送る。

 このときもしも三家がいる方向を見ていたら、彼らは笑えなかっただろう。

 ハイブルク公爵、セイレム公爵は憐みの表情で彼らを見ており、安全地帯を作っているアレスト家の家臣の貴族達が自分達の武を象徴するグリエダを笑われて怒りの目をしていることに。


「まあいい。私にも先ほどのセイレム公爵のように何かあるのだろう?なあ、王よ」


 グリエダはため息を一度ついて騎士と魔法使いを無視することにした。

 彼女にとっては先ほどの一人で立っている時とたいして変わらないのだ。煩わしい虫が周囲を飛び回っているぐらいでしかない。


 だが愚王とその周囲にいる者には王が仕掛けた罠に諦めたという風に映る。


「あるぞグリエダ=アレストよ。お前の家は今日をもって貴族では無くなったぞっ」


 自分で作った蟻地獄に嵌まっていくことに気づかない愚王はさらに愚行を重ねていく。


「ああ、だからさきほど爵位を付けなかったのだな。だが貴族院はどうした?辺境伯だぞ?騎士爵ではあるまいし」


 グリエダの疑問はもっともだった。

 辺境伯は山の様にいる騎士爵ではないのだ。貴族を管理している貴族院がそんな簡単に爵位を取り上げるはずが無い。

 だいたい貴族院にはハイブルク、セイレムの者もいるのだ。そんな暴挙ができるはずがないのである。


「貴族院だと?なぜ王たる余が決めたことに許可が必要になる」


 この愚王の言葉には王家派、側妃派の貴族達からも動揺のどよめきが起きた。

 エルセレウム王国は完全な絶対王政ではないのだ。

 王家には王家の規律が、貴族には貴族の規律があって、王でもそこには絶対に踏み入ってはならぬのだ。

 セイレム公爵の降爵なら理由があれば貴族院も通すだろうし、後からでも知らせれば認められるだろう。あくまで正当な理由があればだ。

 だがアレスト家の爵位剥奪はどうやっても認められることはない。

 それだけアレスト家のいる辺境の地はアレスト家でしか治められない国の重要地点なのである。

 それでもグリエダのみの身分剥奪ならばどうにか通ったかもしれない。しかし王はグリエダの家と言ったのだ。

 これには王に擦り寄りまくっているアガタ公爵ですら目を見開いた。


「そしてお前の家の領地だった辺境の地は元騎士団長の息子にその爵位と共に授けることになっているぞ」

「はっ!女なんぞに率いられる軟弱な辺境伯軍は俺が鍛え直して平原を国の領土にしてみせます!」


 狂った愚王の言葉に元騎士団長の息子が自信に満ちた顔で応えた。

 そして元騎士団長が座り込み顔を両手で隠して絶望した。

 その隣ではすでに同じ体勢で元宰相が自分の息子の時から絶望している。


「よくぞ言った!さすがジェイムズの側近だ」

「父上、彼らは私の信頼できる側近でもありますが、強い絆で結ばれた友でもあります」


 狂劇は続き、そして愚王は地獄へ続く最後の扉を自ら開けてしまう。


「ならばそこの平民になった女を嫁にするのは微妙だな」


 ピシリと会場の空気が変化した。


「でしたら一度陛下に献上しましょう」

「おおっ、それから下賜するのだな」


 平民に落ちて力が無くなり自分の敵では無くなった美貌の女の身体を楽しめると想像する愚王は変化に気付かなかった。

 その彼についていく者達の誰もが気づかない。


「バ、バルト様・・・」


 戻ってきた長兄に抱きしめられていたアリシアがカタカタと震えている。

 当事者でない者には空気が変わったことがわかるのだ。


「大丈夫だ。グリエダ嬢は味方だよ」


 長兄が安心させるように言葉をかけるが、その額からは汗が流れた。

 すぐ傍にいるセイレム公爵は睨む対象だった愚王から視線をグリエダに移していた。


「で、でもグリエダ様はたったお一人で」

「・・・セルフィルが彼女と婚約してから私に言ってきたことがある」


「その女はなかなかのじゃじゃ馬だからな」

「では足の腱を切っておきましょう。なに私の手をマリルが治してくれたようにそのうち治してもらいますよ」

「おいおい、私の愛する人を都合よく使うなよ」

「ジェイムズ様、私がいるのに今はそのようなことは言ったら悲しいですわ」


 愚王の言葉に元騎士団長の息子はグリエダに近づいていく。

 聖女の魔法で治された手には城の中では騎士と兵士にしか所持ができない剣が握られていた。

 その切っ先をグリエダの胸元に突きつける。


「仕方なくだが将来お前の飼い主になる俺の命令だ。後ろを向いて跪け」


 横暴どころではない言葉にグリエダは眉一つ動かさなかった。

 彼女の表情は空気が変化したときから無表情で凍り付いている。


「おいっ!早くしろっ」


 剣の先端が脅しの意味を込めてその美しいドレスを裂いて肌に傷をつけようとした。


「ぐっ!?」


 だが剣はグリエダの細い人差し指と親指につままれて止まる。

 押してもビクともしない。

 すぐに片手で掴んでいたのを両手持ちにするが、軽く指の腹で持たれた剣は微動だにしなかった。


「なあ」


 そこでようやく彼女が声を出す。

 剣を動かすことに必死になっていた元騎士団長の息子はグリエダの顔を見た。

 そして後悔する。


「お前はいったい何をしているんだ?」


 仮にも騎士団長の息子として幼いころから鍛錬を繰り返してきた。魔力の扱い方を覚えてからは同年代では負けなしだった。

 王子の婚約破棄の時は剣がなかったから仕方がなかった。

 剣さえあれば自分は最強だ。


 なのに。

 どうして捕まえた虫があがくのが理解できないという顔で見られなければならないのか。


「さっきのお前と愚王の言葉は死に値する。だがお前の父親と約束したんだよ。だから殺しはしないでおいてやる」


 十数年の訓練の日々がたった指二本に壊されていく。


「でも女なんぞに率いられる辺境伯軍が軟弱という言葉は許せないなぁ。うん、そのおままごとしかやってきてない手はいらないな」


 グリエダの剣を摘まんでいる腕が少しだけ振り下ろされた。

 しっかりと握り込まれていた剣は彼女の常人には見えない振り下ろしに従う。

 だが元騎士団長の息子の手は従えなかった。

 ごつごつしていた指は親指以外がそれぞれあらぬ方向を向いている。その手首は可動域を大幅に広げていた。

 逞しかった腕は花の茎の部分を何か所も折ったかのような姿になっていた。


 剣に生きようとして、女に狂わされ愚者の道を歩んだ彼の腕は何も掴むことが出来ない無用の長物と化した。


 冗談好きなセルフィルが真剣な顔で告げた言葉をバルトはアリシアに教えた。


「もしグリエダ嬢と敵対するならハイブルクが滅亡するのを覚悟してくださいと」


<><><><><><><>



 この世界の生き物は魔力を持っている。

 私も当然持って生まれた。

 ただそれが人より遥かに多かっただけだ。


 目の前で男がグシャグシャになった自分の腕を見て絶叫している。

 なぜか私の夫になれると勘違いした男だ。

 後始末は彼の父親に任せよう。

 怒りというものはその限界を超えると、慈悲すら垂れることができるくらい冷静になれるから不思議だ。


「エイプ子爵、ランドン男爵」

「「はっ」」


 私が呼ぶと三家がいる陣地から年老いた二人が進み出てくる。

 二人だけではなく三家がいる場所を守っているのはみなアレスト家に仕える貴族達だ。


「腕はなまっていないな」

「息子に戦場の華は渡しましたがそれを落とすほど耄碌はしておりません」

「儂もじゃ姫様」

「では武器は何がいい?」

「剣を」

「槍じゃ」


 城では武器の携帯を許されていないが、幸いにして私の周囲には武具が転がっている。


「ヒィッ!」


 突き出されていた槍の穂先を摘まむと怯えられた。

 愚王のお気に入りの近衛の騎士だろうに情けない。

 軽く振って指だけにしてやる。

 教会に行けば聖女がいるだろうから癒してもらえばいい。


 これで剣と槍が揃ったのでジジイ二人に投げ渡そうとしたら三人の魔法使いが何かを発動させようしたので持っていた剣と槍をそのまま手首の振りで投げつけた。

 どちらも柄の部分から飛んでいって二人の魔法使いの顎を砕いた。

 腕では痛みを我慢して火や氷などを放ってくる可能性があるので、狙うなら集中出来なくなる顎を砕くのが一番いい。


 残った魔法使いには直接近づいた。

 ドレスで腰から足を動かすと破けそうなので、膝下と足首だけで移動する。短い距離ならこれでも十分。

 初めての動きだったが上半身を動かさないから初動が読めずに騎士たちは私を見失っていた。

 いい移動方法を見つけたかもしれない。次、父に会った時には遠慮なく試してみよう。


 騎士達の間をすり抜け、囲んでいた私に向けていた腕を掴んで魔法使い自身の顔に向ける。


「おっと、土属性の魔法使いか」


 手のひらから無数の小石が現れて驚いた顔に全弾命中した。

 死んだかなと顔を覗いてみたが失明とボコボコになっていただけだった。魔法使いとしては未熟だったのだろう。


 ついでに両隣にいた騎士から剣と槍を拝借した。

 指はちゃんとダメにしてやる。


「ほら受け取れ」


 ジジイ達に投げ渡した。


「すぐにでも折れそうじゃの」

「私の方もです」

「文句を言うな」


 武具を確かめると二人は不満そうだった。

 装飾ばかりで実用性に欠けていると私も思ったが。


「お前達はこの会場から誰一人逃さぬようにしてくれ。逃げようとしたら腕一本残して折っても切ってもいいぞ」


 爵位の譲渡にはペンを持てる手が必要だからな。

 義兄の言葉も私は忘れていないぞ。それくらい今の怒りは冷静に考えることが出来る。


「姫様の脇を固めるのではなくて?」

「いらん。愚王の目の前でご自慢の近衛を潰してやる」


 私が近衛騎士団を潰してやると言ったのを忘れていたのだ。今いる人数は少ないがキッチリ恐怖を与えてやろう。


 コツを掴んできた移動方法で騎士に近づき一人ずつその指を破壊していった。あまりにも弱いのでこの国は大丈夫なのかと不安になるが、所詮愚王のお気に入りで血筋や見目だけで集めたのだろう。

 残りの十三人はそうかからず折り終えた。


「さあご自慢の近衛騎士は全滅したぞ王様。まだいるなら全員出してくれ、綺麗に折ってあげるからさ」

「な、な、な、なんなのだお前はっ!」


 愚王が顔面蒼白になって叫ぶ。


「何なのだと言われても困るな。さっきお前らが言っていただろうが平民だと。だから今の私に貴族の忠誠や義務なんて期待しないでくれ」


 元々愚王に捧げる忠誠なんてないけどね。


 ああ腹立たしい。

 愚王の戯言でも大勢の貴族の前で発言すれば違っていても私は貴族ではなくなっているという風に見られるし、私は愚王が決めた男と婚姻することになっている。

 この後粛清される連中だけではない、私の味方の三家の中にも灰の中に隠れた種火のようにずっと私のセルフィル以外の男との婚姻関係の汚名は残るのだ。


 こんな爪痕を残すとは思いもしなかった。

 皆には悪いが愚王は殺そう。他の連中は我慢するからこいつだけは殺させてくれ。


「はーいっ!今注目の的になっている男の子、前ハイブルク公爵三男セルフィル=ハイブルクがやって来たよー!・・・おや、失敗かな?」


 ここ数年出さなかった本気で愚王を殴って頭部を破裂させようと力を込めていたら、正面扉が勢いよく開いてセルフィルが満面の笑顔で登場した。


 込めた力は全て彼のもとに移動するために使いそのまま抱きつく。


「オウフッ!」




ーーーーーーーー

覇王様「クスンクスン」

永遠のショタ「へいっ!覇王様をいじめた奴は誰だ!」

雨乞いフィーバータイム2.14の始まりだぜぇっ!

雌虎「勝手に他のに雨乞いをだすな」

ボゴッガスッドゴンッ!

筆者は室外機で撲殺されて死亡中です。筆者は室外機で撲殺されて死亡中です。筆者は室外機で撲殺されて死亡中です。

・・・失礼、具視が折れ鍬で日照り神様と巨乳で純様でした\(^o^)/

・・・おかしいな狂喜のゲームが抜けないの(;´д`)

そろそろノクタの釣りバカでストレス発散してこないと(´-ω-`)


サブタイの『アリストの華は手折られる』には

①アリストの象徴のグリエダが慰みものなるという愚王達の妄想

②華は愚王達のことで体のどこかが覇王様に折られるという現実

③覇王様は愚王の心を折るために騎士、魔法使いを折りまくり

④まさか覇王様の心に愚王が爪痕を残して、覇王様精神的に折れかけ

⑤まさかまさかのショタ登場であっさりショタに手折られる覇王様

⑥覇王様に抱きつかれて背骨折れかけショタ


のだいたい六つの内容が含まれています。


ショタと覇王様は別々に話を展開させようとしていたのですが、やっぱりショタ(ヒロイン)は覇王様 (ヒーロー)を助けにいかないとね(ノ´∀`*)

物理的に傷つかない覇王様を助けるシチュエーションの相手が愚王しかいなかったし、精神攻撃しかなかった(´Д`)


次回!悪魔ショタはノリノリヽ(*´▽)ノ♪

たぶん短編だった第一話以来まともに動くショタではなかろうか?(;・ω・)

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