第22話無知蒙昧にも限度がある


 馬車の中でセルフィルが愚王の行動が楽しみだとはしゃいでいたのを思い出した。

 つくづく彼をこの場に連れてこなかったこと悔やんでいる。

 たぶん愚王達が何をしているのか私達にわかりやすく教えてくれただろう。


「義兄、セイレム公爵、あいつらは異国の言葉で話しているのか?」

「聞かないでくれ」

「私にもわからん」


 額を抑える二人は凄い頭痛がしているのだろう。

 アレスト、ハイブルク、セイレム三家と一緒にいる貴族達も同様で、元宰相と元騎士団長、年若い私からみれば遥かに貴族として経験を積んでいるお歴々の方達も唖然か悄然としている。

 なぜあんな愚者に仕えていたのかという失望が全員からにじみ出ていると感じるのは気のせいではないだろう。


「アガタ公爵家からは一度も宰相になった者はいないが・・・」

「初代国王の次男の血しか誇れぬ一族が国で一番重要な要職とはなぁ」

「こちらは跪くだけで息ができない男だぞ」

「心中お察しします、ヒルティ子爵」


 男達は同族意識ができたようでなによりだ。

 だがそういうのは後からにして欲しい。特に元の二人は完全に自分の息子達を無視しているだろう。

 私に彼らを生かして渡して欲しいと頼んだのは空耳だったのかい?


 貴族は血を大事にし、家を至上にしている。

 元の二人は最後まで家族想いであった父親だ。だがそれでも家の存続を第一とするとき、当主は愛情とは別の視点で考える。

 おそらく性別関係なく私には無理な考えだ。尊敬はできないが畏敬は捧げてしまう。

 私はどちらかというと愛をほざいている第一王子と側近達と同種の人間である。

 だが坂を転げ落ちるどころか崖に飛び降りるような真似はしない。


「ハイブルク公爵っ、セイレム公爵っ、グリエダ=アレストっ!余の前に出てこいっ!」


 喋るモノが私達三人を呼んだ。

 反応もしたくないが義兄もセイレム公爵も気が進まないながらも前に出始めたので私も後を付いていくしかない。

 アリシアが心配そうにこちら・・・いや義兄にのみ視線はいっているか、少しは父親を心配してあげて欲しいと思う。

 私なら敵の中に置いていくがあれは父への愛情表現だ。

 三家が構築した陣地を出ると公爵二人の格に後ずさる者、そして私のドレスに見惚れる者が現れる。

 醜い連中に見られることがこれほど気持ち悪いとは思いもしなかったな。

 それもセルフィルが傍にいてくれたら変わったかもしれないが、今はただただ不快でしかない。


「なぜ跪かぬ」


 何も成さなかった愚王は色白く脂身がたっぷりとついた顔を歪ませて私達に聞いてくるが三人揃って無視した。二人の内心はわからないが同じようなものだろう。

 その意味さえも理解できない空っぽの頭はフンッと鼻を鳴らして先に進めるようだ。


「セイレム公爵、ハイブルク公爵の両名はよくも王たる余を騙して専横してくれたなっ」

「騙す?」

「専横だと?」


 義兄たちは理解不能なモノの言葉に首を傾げる。


「ふんっ!ジェイムズの正当な婚約破棄を捻じ曲げ余に報告したであろうがっ!セイレム公爵、お前の娘が実際に聖女に危害を加えていたことは息子達の訴えを聞けば余には明白であったぞ」

「素晴らしいご慧眼ですわ、陛下っ」


 愚王に抱きつく気持ち悪い姿の側妃。

 醜悪なモノが二つ組み合わさるとその醜さは何倍にも増えるものらしい。


「あなたの方は弟がよくも可愛いジェイムズを酷い目にあわせてくれたわね。陛下~、どうか爵位を略奪した偽物公爵に罰をぉ~。その弟は惨たらしい処刑をしてくださぃ~」

「まあ待て待てヘレナよ。物事には順序があるのだよ」


 殺す。

 その首を握り潰してやろうと身体が動こうとしたが、義兄達が私の前に立っていて瞬時には動けなかった。

 かばう為ではない、私が安易に動かないようにするための位置取りだ。


「まだだ、ここで全部吐き出させて孤立させる」


 小声で義兄が話しかけてくる。

 セイレム公爵は血がしたたり落ちそうなほど強く拳を握りしめていた。

 私は彼から贈られたドレスを身体ごと抱きしめることで落ち着きを取り戻そうとした。

 代々の王に忠臣を貫いてきたセイレム公爵家が矜持を捨てて己を抑えていることに敬意を抱いた。

 そして若いのに感情に動かされない義兄にも。

 短い付き合いだがハイブルク家は異常なくらいセルフィルを大切にしているのはわかっていた。私に意見した侍女長、三人のメイド、褐色の肌の執事、ロンブル翁、そして義兄もだ。

 自分をけなされ愛する弟まで殺すと言われても義兄はハイブルク公爵としてここにいた。


「王よ。私達は貴方を騙してもおりませんし、専横もしておりません。宰相と騎士団長が同時に責任を取りおやめになられたので仕方・・・なく政務を代行していただけです」


 義兄は暗にお前が何もしないから俺らに負担がかかっているんだと言った。

 だがそんな正論、愚王が聞くはずはないぞ。


「はっ!たかだか公爵のくせに王を無視して勝手にしおったろうが!それこそが専横の証拠よっ」


 唾を飛ばしながら言い放つ愚王。

 ほら思った通りだ。

 なにせ二度も警告されたのに私をこの場に呼ぶような都合のいい解釈をする頭の持ち主だぞ。


「・・・私の娘が聖女に手を出していないとあなたに誓ったぞ」

「それが嘘なんだよ。そして聖女であるマリルが嘘なんて吐けるはずがないじゃないか。王たる父を出してまでたばかるとは愚劣な娘を持ったな」


 セイレム公爵の問いには第一王子がやれやれと頭を振りながら答える。

 複数の男を侍らす聖女の証言が信用できないと微塵も思っていない王子。

 親が愚かなら子も愚かモノになっていた。


「そうだぞセイレム公爵、余に誓いながらお前の娘は嘘を吐いた。これは本人もその親にも罪になる重いものだ」

「ほう・・・ならどんな罰が私達に与えられる?」

「まず王への誓いを破った罪で公爵から子爵まで落としてやろう」


 会場にいる全ての貴族がどよめいた。

 もしアリシアが嘘を吐いていたとしてもありえない処罰だ。国内でハイブルクと二分するセイレムにそんなことをして王家でもタダで済むはずがない。

 さすがに権力に擦り寄るだけの貴族連中でも少しは賢いものは王の傍から離れていこうとしていた。


「そうなると広い領地は爵位にはあわんな。よし、ジェイムズの側近であるお前に爵位と一緒にやろうではないか!」

「ははっ、ありがとうございます陛下っ」


 愚王が元宰相の息子を指差し法も常識も超えた采配をした。

 元宰相の息子は何の功績も無いのにそれを当然のように受け取る。


「うむうむ、もう一人にはすでにやることを決めていてお前にもやらねば釣り合わぬものな。ついでに王太子妃になり損ねた娘も貰えばよい。盾にすれば領地もまとまるだろうよ」


 喜劇にもならない狂劇はまだまだ続きそうだが、もういいだろう。


「義兄、セイレム公爵、もうアリシアの所まで戻れ」


 今にも王の顔を殴ろうと前に出そうなセイレム公爵の肩に手を置き、止める。

 義兄の方にはなにも動きはないが、その身体には魔力が漲っていて破裂しそうだった。

 どうせこの後はセルフィルと私のことだろう。どちらかを聞いたら片方は聞けなくなるのなら私の分だけで十分だ。


「もう二人共いいだろう?怯えているアリシアを慰めてやれ」


 ただでさえ頭がおかしくなることを聞いて、その上で自分をだしにされたのだ。父親と婚約者がいれば少しは不安を取り除けられるはずだ。


「というより二人は邪魔だ。さっさと戻れ」


 あ、いかんな本音が口に出てしまった。


「娘に邪魔者扱いされて、さらに歳が下の子にも邪魔扱いされるのか・・・」

「落ち込まないでください。私だって落ち込みたいんですよ」


 なぜか義兄がセイレム公爵を慰め始めたな。


「待てっ!逃げようとす」

「どうせありもしない罪を突き付けてハイブルク公爵家も爵位を下げて領地をそこのどいつかにやるつもりなんだろう?そんな無駄なことはどうでもいい」


 愚王がトボトボと三家の陣地に戻って行く二人を止めようとしたので途中で遮ってやる。


「なあ王よ。お前が一番楽しみにしていたのは私なんだろう?」


 セルフィルがたまにお山と言っているモノの下で腕組みして下に見るように笑ってやった。

 今なら特別に見せてやるぞ。その後は見ても楽しめない身体にしてやるからな。



ーーーーーーーー

義父「婿殿慰めてくれ~(泣)」

長兄(どうしてオッサンを介抱しなければならないのか)


愚王は筆者を苦しめてくれます(;´д`)

自己主張が激しいおかしな奴は書いていて心が死ぬ(-_-;)

筆者には何の呵責もないクズにはなれないのを自覚しましたよ(´Д`)


さてもう一話書いているんですが早く投稿したほうがいいですか?(・ω・)

寝不足限界で書いたから筆者もよくわかんなくなっていますが( ̄▽ ̄;)

さっさと愚王タイムは終わらせるぞ!(о´∀`о)ノ

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