第21話子供が描いた主人公

三人称?

子供の描く主人公は都合がいいことばかり起きますよね。愚王と仲間達には最高に都合がいいことになっています(;´д`)

ああ、気持ち悪い。




 エルセレウム王が夜会に現れる。

 何代にもわたって美姫ばかりを血筋に取り込んだ王家はその容姿を最上のものに作り替えたと言える。

 今代の王もかつてはそれなりの美形だった。

 だった、と言うのは年齢に加えて己の成すべき役目を忘れて享楽のみに耽った結果、その顔はむくみ垂れ、体には無駄な肉が付いているからである。

 それでもどうにか見られる容貌範囲にとどまっているのは長年積み重ねられてきた王家の血によるものだろう。

 何の功績も成しておらず負債しか残していないのに、王は恥も無く堂々と会場の中を歩いていた。


 そしてその横には、流行りのドレスをさらに装飾過多にしたものを着た女が侍る。

 年を考えない色とデザインはその欲に彩られ衰えの見え始めた美貌にはある意味似合っていた。

 王の側妃ヘレナは本来ならば王妃がいるべき場所に立っているのだ。


「皆の者、余の夜会によく来てくれた」

「「「ははーっ!」」」


 王が会場の一番奥に据えられた玉座に就いて、夜会に来た貴族を歓迎した。

 だがその呼び掛けに応えたのは、王の近くに侍る王家派アガタ公爵達と側妃派伯爵達。そして状況を知らぬ見捨てられた貴族達だけ。

 それでも夜会に参上した貴族の三分の二が王寄り派閥であった。


「今宵は余に頭を下げられぬ愚か者達も呼んでおるが、そなた達忠臣がいてくれれば安心だ」


 驕る王は会場で自分から一番離れた場所にいる集団を見やって味方とともに大笑いする。

 王たる自分を見下す連中は今晩、全員がひれ伏すと確信していた。

 自分の味方の貴族の数が多く、不遜な奴等の貴族は鍛えたことも無いような者達と年寄りだけを選んで呼んだと、誰にでもできることを王妃は報告してきた。


 今までは王の自分がやることではないと思っていたが愚か者達の最後ぐらいは入場の順番を考えてやる。

 愛する側妃ヘレナの手伝いもあり、王はありえないほどの短時間で順番を決め、やはり自分は最高の王だと自画自賛していた。

 何と言うことは無い。ただ自分達に擦り寄る者達を後にしただけという稚拙な采配だったのだが。


 そしてその入場の順番で王の威光を思い知らされて会場のスミで愚かな者達は小さくなっていると思い込んだ。

 ただ本当に愚者達から抵抗できない事務方や妻や相方を守るための陣地を構築していただけであるのに、それに気づく者は王のもとには一人もいなかった。


「ふんっ、宴が一段落してから落ち込む顔を見ようと思っていたが、最初にあの怯える者達をどん底に落としてやろうかの」

「まあっ、素敵ですわ王様。まさに機先を制する王の戦いなのですね」


 調子に乗った王に抱きつくヘレナ側妃。


「おおそうですなっ!」

「王の采配の冴えは私などでは及びもつきません」


 アガタ公爵にヘレナ側妃の父であるランドリク伯爵が王を褒めたたえる。

 そこにあったのは己の権力欲に憑りつかれた浅はかな考えだけで、政略など一欠片も含まれていなかった。


 本当の愚か者は気づかない。

 自分がどれだけ危険な場所にいるのか、そのことを気づかないからこその愚者なのだ。


「皆の者っ!今日は良き事を伝えたいと思うっ!」


 王はその場に立ち上がり、興奮して赤くした顔で言い放つ。


「空席になっていた宰相位に我が忠臣であるアガタ公爵を就けるっ」


 おおっ!と会場にどよめきが起きた。

 名を呼ばれた陰湿な顔のアガタ公爵が王の前に出て跪く。


「このアガタ、王からの宰相の任命を承ります」


 王家派のトップを自分の最も近い地位に就かせたことに満足する王。


「次にもう一つ、空席になっていた騎士団長の位に戦上手のランドリク伯爵を任命するっ」


 小太りのどう見ても戦上手には見えないランドリク伯爵がアガタ公爵の横に来て跪いた。腹がつかえて片膝を立てるのも一苦労している。


「ふぅ、このランドリク、ふう、王からの騎士団長の、ふう、任命を承ります、ふう」


 王の目には知恵者の宰相と一騎当千の騎士団長が誕生した瞬間だった。

 二人の国の柱石が誕生したことに拍手と祝いの歓声が鳴り響く中、王は負け犬共のいる場所を見た。


 そこには天井を見上げ目を瞑っている何かとうるさかった元宰相と、王たる自分を恫喝までした元騎士団長が顔を床に落としている姿があった。

 二人の敗北に愉悦が王の背筋を痺れさせる。


 だが王はまだ満足できない。

 元宰相と騎士団長の傍には自分に屈辱をあわせた者達がいるのだ。そいつらを絶望させてこそ王たる自分の治世は続くと思っている。


 彼が宰相になったアガタ公爵に目を向けると、公爵は頷き配下の者に命令した。

 すると会場の正面扉が開かれて、若い人物が四人入ってきた。


 その四人を見たセイレム公爵令嬢アリシア、そして元宰相、騎士団長は目を見開く。

 四人は堂々と歩いて王の前に並んだ。


「新たな宰相と騎士団長の誕生に余は誤った罪を着せられたジェイムズ=エルセレウムを王太子に復帰させ、その側近達も元の地位に戻す!」


 アリシア達が驚くのは無理もない。会場に入ってきた内の三人は件の婚約破棄騒動の首謀者だったのだ。

 三人が王の言葉に当然という態度でいた。


「ジェイムズの側近にはあと二人いたが、その一人は余が当時力が無かったばかりに一族郎党処刑されてしまった」


 王は悼む振りをする。それが彼にはかっこよく思えたからしただけで、商人が何人死のうとどうでもいいことだ。


「もう一人大司教の息子。そしてジェイムズの愛する聖女マリルは教会が頑なに解放しなかった。だが余は二人も解放すると誓おうっ」

「ありがとうございます父上っ!」


 王の言葉に喜ぶ第一王子。

 夜会の会場は異常な何かに動かされていた。

 それはある三男坊によって名付けられた愚王が描いた、都合のいいことしか起きない物語のようだ。


「そして聖女には教会のお役目があるゆえ、ジェイムズの正妻にアガタ公爵令嬢のジェシカをっ」

「お受けいたしますわ」


 入ってきた最後の一人は劇場でグリエダ達に不敬な態度をとったアガタ公爵令嬢ジェシカだった。


「彼女は聖女マリルの為に政務を行ってくれることなった。聖女マリルは側妃としてジェイムズの心を支えてくれるだろうっ」

「「「おおっ!」」」


 同じ境遇に息子をすることで、王家は安泰だと知らしめたい愚王。

 ハイブルク、セイレム、アレスト、貴族派、地方貴族には理解できなかったが、王におもねる連中にはヘレナ側妃を重ねて大きく賛同していた。


 ジェイムズにはマリルの子を王にするということで納得させてある。だが王に聖女の子を王位につける気は少しも無かった。

 アガタ公爵とはすでに話がついておりジェシカの子がジェイムズの次の王になる予定だ。

 下賤な血を王とするわけにはいかない、それが王家と派閥の意志だ。

 自分と同じ愚行を許しながら子供には血を選ばせるおかしさを王とその周囲は当然としていた。


 際限なく熱が上がっていく王達に、氷の様に冷たくなっていく三家達。

 本当の愚か者達は楽しく下り坂を下っていく。


「ハイブルク公爵っ、セイレム公爵っ、グリエダ=アレストっ!余の前に出てこいっ!」


 そして愚王と名付けられた王は下り坂を茨に変えるサインを記した。



ーーーーーーーー

愚王で書きたくないのでお休み~。


愚王が裏目魔法バックファイヤーの詠唱中です(;´д`)

ありえないと思う読者がほとんどだと思います(;・ω・)

でも歴史を調べると愚王がましだと感じるぐらいのお話が山ほどあってまだまだ愚者の気持ちがわかっていないとへこむ筆者です(--;)

本当は裏目魔法が発動したあとも書いてから投稿しようと思っていたのですが、間に合いませんでしたm(__)m

愚者はもう書きたくないけどまだまだ書かないと(T_T)

次はたぶん覇王様が・・・(; ̄ー ̄A

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