第17話年上キラー発動中
セイレム公爵。
昔ながらの規範を守る、いわゆる保守派と呼ばれる貴族だ。
領地が急成長することは無いが、悪くなることも殆ど無い。堅実なありようは賞賛に値する。常に成長しているハイブルクとはそりが合わず、長兄の胃痛の原因だった相手である。
先代の王の時までは御恩と奉公をその身で体現していて、貴族とはセイレム公爵のことであると称されるほど。
まあその忠誠は愚王までは続かなかったようだが。
愚王の目に余る行動を諫めていたセイレム公爵は次第に中央政治から遠ざけられていく。
なのにその財力だけ寄こせと言わんばかりに、セイレムの宝であるアリシア公爵令嬢は強引に第一王子の婚約者に据えられた。
公爵令嬢を第一王子の婚約者にするのを最後まで渋っていたのがセイレム派閥の者達だったというのは有名な話だ。
どこに王家と側妃派だけで占められた場所に自分達の宝を置きたいと思う者がいるか。
それでもセイレム公爵は婚約することを認めた。
娘が道具になるとしても忠誠を貫こうとしたのだ。
まああっさりと馬鹿王子によってその忠誠心は裏切られるのだけど。
「では、今日こそ無能共の首を取れるのだな」
「落ち着いてください。あれでも国の象徴ですから国盗りの不名誉を被ることになりますし、取ったら周辺国がこれ幸いと土地を切り取りに来ますから。あと無能ではなく愚王ですね」
「ハッハッハッ、なるほど愚か者の王か!」
「頭が軽い方が国は運営しやすいですからね~。ほら他国と問題が起きた時に責任取らせるのに簡単じゃないですか」
「うむっ!有能な者は下の言うことは聞かぬようになって問題を大きくするから、力を削いだ愚王を載せているのはいい案だ」
「幸い軽い首は予備がまだありますからね。第一王子も残しておきましょうよ、愚王より使い勝手がいいですよ」
「むうぅっ、あいつは死ぬまで苦痛を味わわせようと考えていたのだが・・・それもありだなっ!」
「「ハッハッハッ」」
現在、その忠臣の象徴だった人はバリバリ逆臣の急先鋒になっています。
人間、我慢すればするほど正反対に振れるものなんだね。
さすが愚王、裏目魔法バックファイヤーはいろんなところで発動中のようだ。絶対に習得したくない魔法第一位だけど。
長兄のドア開け土下座から始まったオッサンとの出会いイベントはなかなか新鮮だった。
土下座の長兄にあたふたしながら駆け寄る美少女アリシア様。
土下座の長兄をもの凄く心配しながら駆け寄る昭和の大俳優みたいなオッサン。
廊下でイチャコラしているショタと美女。
うん、誰かに見られていたら三家の評判はかなり落ちていたと思う。
そのあと室内に全員入って、まずはハイブルク家における最上級の謝罪方法が土下座なのだと説明することになった。
俺が小さい頃に女癖が悪いロンブル翁が屋敷から締め出されたときに教えたのがいつの間にかハイブルク家で広まってしまったのだ。
こう、首を差し出す感じがいいのだろう。
ちなみに土下座回数第五位が姉、第四位が次兄、第三胃(だいさんいと打ち込んだら胃になったからそのままです。ここだけなぜ?by筆者)が長兄、第二位がロンブル翁、断トツトップがショタこと俺である。
侍女長が数えてくれていたから間違いはないみたいだけど、そんなにしてたかな?
前世を合わせればそこそこしているとは思うが。
なんとか場は落ち着き、その次は俺が土下座することに。
長兄いわく婚約者とはいえ、よそ様の娘で辺境伯になんてもの着させているんだという事らしい。
納得いかないが土下座しとけば反省していると思ってくれるから楽々♪侍女長とママン達と姉には反省していないとすぐにバレるけど。
そのあとようやく自己紹介に。
俺がオッサンことセイレム公爵を知らなかっただけで手早く終えられた。
ふ、初手土下座で場を和ませる長兄は流石だぜ。
で、なぜかショタはオッサンの膝の上に座らせられています。
ショタはね、前世の頃結構時代劇が好きだったの。将軍様や桜吹雪の大俳優なんてたまりません。
髭は生えているけどセイレム公爵はそれはもう昭和男前でした。
転生してから若いイケメン(兄たちか変態執事)ぐらいしか見ていなかったから興奮してつい質問攻めにしちゃった♡
いやはや歴史のある漢の話は面白かった。
俺も渋みのあるセイレム公爵みたいに成長したいと言ったら膝の上に着席させられていたよ。
なかなかの大物のセイレム公爵はショタと話が合うの。前世のオッサンが同じくらいの年だったからかもしれない。
そういえばロンブル翁とも話が合うんだよな。そちらは女性問題での相談に俺がのっているだけなんだけど。
「バルト殿、セルフィル君を養子にくれないか。セイレム家の跡継ぎに」
「いやいや、セイレム家にはちゃんと跡継ぎがおられるでしょうが」
「お父様、領地で一人頑張っているお兄様が下剋上なさいますよ」
「なんだ?アレストに喧嘩を売っているのか?高値で買うぞジジイ」
昭和男前がとち狂った。
そして覇王様が覇気全開です。
ショタは年上キラーだな。いらん者にも目を付けられてしまう罪な男です。
公爵二人に公爵令嬢へ少し配慮していたグリエダさんも装備品ショタを外され、さらに家に獲られるとなると遠慮がなくなった。
ショタのために争わないでぇ~っ!!
あと長兄はずっと目を閉じていらっしゃる。
いわく婚約者がいるのに見るわけにはいかないということ。
本人自ら様付けを嫌がられたアリシアさんが、腕を組んでいる長兄に嬉しそうに寄り添われていた。
うんうん、仲良きことは良いことです。
こちらは長兄の義父になる人のおかげで戦争になりそうですが。
「さて、そろそろ夜会が始まる時間が近づいてきましたけど、お二方は愚王の行動だけ注意してもらえればいいと思うのですけど」
ちょっと昭和男前との会話が弾んでしまって打ち合わせ時間がなくなってしまった。
まあ長兄が事前に俺が予測した内容を伝えているから大丈夫なはず。
「その、セルフィル君は大丈夫なのですか?」
アリシアさんが不安げに俺に聞いてきた。
「たぶん僕がこの五人の中で一番安全じゃないでしょうか。あ、飲食はいけないですよ、何が入っているかわかりませんので」
「はい、さすがに敵地の中で食べたり飲んだりはしません」
予測でしかないけど今回の夜会は愚王の裏で黒幕様が動いていると思う。
なにもしなかったら俺を手に入れるチャンスはゼロになるからね。
あれ?愚王に恨まれ、黒幕様に狙われているショタって凄くない。でもざーんねん、ショタは覇王様のもとに嫁ぎますので。
グリエダさんとショタが出会ったのが裏目魔法バックファイヤーの最大の効果だったと思うんだ。
グリエダさんがいなかったら黒幕様の描いたとおりに進んだのだろう。どうせ途中で俺は飛んでいたから黒幕様の思い通りにはならなかったけどね。
どこで俺のことを知ったのかな黒幕さん。
セイレム公爵ですら俺のことは小さい子供扱いなのだ。婚約破棄の阻止ぐらいでは才能があるどころか王家に歯向かった愚か者と評価されると思うんだけど。
夜会で黒幕さんが出て来てくれたら心の中のオッサンが新年会用に覚えたアイドルのダンスを踊るよっ!
「大丈夫だ。全員私がアレストの名にかけてセルフィル君のついでに守ってあげよう」
「あっ!」
とうとう我慢出来なくなったグリエダさんがセイレム公爵からショタを強奪した。
膝の上はドレスが皴になるのでソファーで横に座らせられてギュッと抱きしめられる。
やはり女の子のほうがいいね。
こう柔らかさが・・・ゴフッ!あ、心のオッサンがセルフアッパーで大の字に倒れた。靴を顔の横に飛ばしたから犬だね。
まあ愚王の企みは全て婚約者であるグリエダさんが対処することになっている。
公爵二家が動くと本気の国盗りになるからね。
黒幕様は俺が対応かな。
セイレム公爵とかがいてくれたら面白いことになりそうだけど、俺が敵側ならそんなへまはしないから仕掛けてくるだろうな。
「作戦名はちょっと王家愚か者過ぎね?ここいらで無能に戻してあげようです」
「長いぞ」
「長いな」
「長いです」
「うんうん、ギリギリ手加減はしてあげよう」
「さすがグリエダさんっ。後の三人は微妙なので後始末をお願いしますね」
もの凄く嫌そうな顔をしていらっしゃますが、公爵二家から夜会に呼ばれた寄子はほぼ全員内政系の人達でしょ?
解決はグリエダさん、後始末は公爵二家です。
さーて、王城の大掃除だっ!
ーーーーーーーー
セルフィル「パパ?」
セイレム公爵「っ!私がパパだよっ!」
ショタ(ふ、ちょれぇ)
ぶっちゃけると話し合いなんてしていません。
よほどのことがない限り愚王と黒幕が逆転することがないからです。
唯一助かる方法はなにもしないだったのですが愚王は愚王なので、そして黒幕様も一番狙ってはいけないショタに手を出したので・・・(;・∀・)
次から話は進みます。そうだったか!と思えるものではないので期待したないでお待ちください。
予防線をはっておかないと(;・ω・)
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