第12話中世の世界の情報は嘘だらけ



「最近のお前は子供の頃に戻っていないか?」

「なんですか?喧嘩を売っているんですか?」


 侍女長に荷物持ちされながら長兄の執務室に着いたら不本意な事を言われたよ。

 買うよ?買っちゃうよ。

 公爵邸内を長兄に膝の上に乗れって強制された~と泣き叫ぶか、覇王様を召喚するか、どっちがいいですか。


 ソファーに降ろされて着衣を直されて姿勢も正されて、侍女長は部屋から出ていった。

 なぜ俺は歳を取るにつれて子ども扱いの度合いが増えていくのだろうか。

 ・・・よし、考えないぞ。


「お呼びということで参上しました」

「・・・全て人任せで最後だけ自信満々にされてもな」


 楽だけど尊厳の体力ゲージは減っていくのでお勧めはできないよ。


 長兄は机にあった紙の束を持って俺の対面に座る。


「これが調べたものだ」


 長兄が二人の間にあるテーブルに持っていた紙束を置く。

 それを取って読む。

 そこには劇場で出会った三人について事細かに記されていた。


「情報が少ないですね」

「無理を言うな。当主や次代の当主候補当人ならまだしも、候補の婚約者の女性のことなど詳しくわかるものか。それこそアレスト女辺境伯やアリシア嬢のような際立った才覚でもない限りはな」

「あとはウチの女性陣ですか」

「・・・まあそうだな」


 二人で遠い目になるくらい母達と姉は個性豊かで貴族社会でも有名人だ。

 あ、俺のママンは違うよ。ちょっと俺のお姉ちゃんと勘違いされるぐらい外見年齢がおかしい貧乏騎士爵の娘だった人だ。

 ・・・俺、成長するのかなぁ。

 まあ女傑、貴腐人、次代女傑と有名人である。年齢詐称のママンはハイブルク家限定。


 紙に書いてあるのはアガタ公爵家長女ジェシカ、ダバイン伯爵家次女ベラ、男爵家次女ホリーの家の派閥と年齢と元婚約者が誰かだったぐらい。


 ジェシカは王家派閥まとめ役のアガタ公爵家の娘で元宰相の息子と婚約していた。

 ダバイン伯爵家次女ベラ、家は地方貴族をまとめるNo2、元騎士団長の息子と婚約。

 男爵家次女ホリーは神職から貴族になった家だ。元大司教の息子の婚約者。


「王家派閥が貴族派閥の宰相との縁、地方貴族は有事の際の騎士団派遣の為、神殿は身内固めと国に今後ともよろしくですかね。完全な政略結婚ですよね。商人の息子も婚約者がいたのかな?」

「よくその情報だけでわかるな。商人はヘレナ側妃の兄の娘だ」


 う~ん、これは国の上層部は中央集権国家を目指そうとした?

 でも愚王とヘレナ側妃がいる限り悪手なんだけどな、トップが圧倒的な力を持っていないと短期間で貴族の反発か民衆の反乱が起きる。


 まあ三人には会ったから、その時の印象にこの情報を付けくわえておこう。


「学園に第一王子の婚約破棄パーティーの誤情報を流した人物はわかりました?」

「いや、寄子達に子供から情報を吸い上げてもらったが、辺境伯が主でアリシアが解決した、王子の自滅、セイレム、ハイブルクの者達が王子の横暴に反発したなどの話がグチャグチャに入り乱れ過ぎて、誰が発生源なのかはわからなかった」


 長兄、アリシア様のことを呼び捨てですか、うんうん仲良きことはいいことです。ハイブルク家は安泰になりそうだ。


「・・・僕のことは?」

「ハイブルク家の者達を使っての王子達への暴力行為を行った、アリシアが断罪している横にいただけ、最初からいなかったという話もあったな。あの場にいた者たちからも聞き出したが、寄子達だけは真実を話した。それ以外は辺境伯が解決したと言っているらしい。ハイブルクの名を使えば本当のことを言うだろうが、まあ王家の情報操作だろうな」


 ふむふむ、学園でボッチの俺では得られない情報だ。

 グリエダさんが男前行動を取れば女性陣から話は聞けるだろうけど、それでも情報源までは辿りつかないだろう。

 いろんな嘘がばら撒かれて伝言ゲームのように広まり、それが聞いた者の事実となる。

 前世の日本ならネットでデータを辿ればいつかは元凶までたどりつく可能性はある。だが今は中世風味、人の口で伝わって行けば二、三人もすればわかることは無い。


「使い方は違いますが情報操作とあと隠蔽かな、学園で広めた人物は素人?あからさま過ぎて下手なのか、わざとなのかわからないです」

「わかるか」

「ええ、これ僕を孤立させるために動いてますよね」


 とことん俺の評判を落としていた。

 別に愚王からの俺の婚約者探しの御触れだけでもボッチになるのに、確実性を上げようとしている、雑だけど。

 ん~、なんとなくはわかってきたけど決め手がないな。


「長兄、ヘルミーナ様はいつ頃王都に?」

「母か?途中でがけ崩れが起きたと連絡を受けたから遠回りして半月ほど後になるだろうな」


 本来ならすでに到着しているはずの前公爵夫人ヘルミーナ様。彼女がいれば解決していたかもしれないのに。

 そんなにも俺が欲しいのか。

 でもグリエダさんがいるのに工作を続けるのがわかんね。

 この前長兄とグリエダさんで婚約を正式に交わして、貴族院に書類も提出しているのに。


 考えついたことを長兄に話す。

 頭に手をやりハァーーーと大きくため息を吐いた。


「まだ愚王やヘレナ側妃の方がよかった・・・」

「ヘルミーナ様の到着まで大人しくしていてくれますかね」

「無理だな。アレハンドロを借りるぞ。あいつなら母の所に最速で行けるはずだ」

「いいですけど一日か二日早まるぐらいですよ」


 俺付きの執事アレハンドロ。過去にいろいろあって俺だけに仕えることを条件にハイブルク家の家臣になった。

 まあ元父親の最後の抵抗で雇った暗殺者だったんだけど、ショタに魅了されて裏切った変態である。ショタすげー。


 公爵領を強化中のハイブルク家の王都での現在戦力は弱体中、長兄を鍛えるためもあったみたいがちょっと裏目に出たみたい。

 だから虎の子ロンブル翁とアレハンドロが王都に常駐していたんだけど、その片方が出張か。


「全部僕の推測なんですけど公爵邸の戦力を削ってもいいんですか?」

「セイレム公爵に頭を下げて何人か実力のある者を借り受ける。今のままでは私達のほうに利益がありすぎて困っていたところだ。少しは差を埋めておかないとな」


 アリシア様からのお手紙には父が私よりも長兄に好意を持っていると書いてあった。胃薬をもっと用意するように家宰に言っておこう。


「全員がちゃんとした情報で動いてませんよね。敵も僕たちも」

「私からすればそれが当たり前なのだがな。前にお前から聞いた、往復で数十日かかる距離を一瞬でつないで正確に情報が伝わるなどということが信じられん」

「ここでも報連相を徹底してちゃんとした情報機関を作ればそれなりになると思いますが」


 俺が学園でどういう風に思われているかハイブルク家は知らなかった。

 それは仕方ないと思う。

 貴族は当主が絶対で、貴族社会の情報はその当主達が夜会や茶会、サロンなどで他家の情報を集めるのだ。それに臣下が調べて確実性を補強していく。

 その子供達は当主から与えられる側で報告する側ではない。

 子供や臣下から聞いている貴族は優秀な貴族と前第一側室のレアノ様から教えてもらった。

 中世の世界はそんなものかと驚いたものだ。

 正確な情報は超重要、ハイブルク家は情報重視に移行しているけどまだまだ不備が出ている。

 そして一番正確な情報を持っている愚王が一番活用できていない現状。

 敵対者は有能そうだけど果たしてどのくらい正確な情報を持っているのかな?こちらの情報は知らなかったでは済まされないものが山ほどあるよ。


「お前がハイブルクの情報機関をまとめてくれたら私は楽だったのだがな、セルフィル」

「嫌ですぅ~」


 がっつり跡目騒動になるじゃないですか。

 何のために貴族関連で知識不足にしていると思っているんですか、奇抜なアイデアを出して上手くいっているだけで当主には不適格な三男坊がいいんですよ。

 次兄も脳筋ですが長兄を尊敬していますからね。苦労人として。

 理解できなかったからレアノ様がしばらくは補佐で付くことになりましたけど。良い嫁を探さないとな~。

 レアノ様を呼び戻せないかな、あの人の知識量と貴腐人のコネクションは情報機関のトップに最高なんですが。


「しかし、そんなに俺が欲しいんですかね?」


 首を傾げてしまう。

 中世風の世界を劇的に変える技術なんて令和に生きたオッサンは知らないのだ。出来たのはゴミ(元父親)を追い出して家族を仲良くしたぐらい。

 国盗りにもヒーローにも興味は無いのに困ったものである。


「己の価値がわからないのも傲慢と言えるな・・・」


 どうして遠い目で俺を見るんですか長兄?


 自分の価値ぐらいわかってますよっ!

 金髪碧眼美少年っ!イコールショタっ!最近は覇王様のヌイグルミとして生きていますよ。

 ほら、わかっているじゃないですか。



ーーーーーーーー

セルフィル「ネット社会なら王家は大炎上間違いなしですね」

長兄「やめて、そのすぐ下にいる私とセイレム公爵の胃に穴が開き続けるから」


ほぼ確定で真の敵対者がわかったセルフィルです。

覇王様が介入していなかったらかなりヤバい状況でした。

覇王様ーっ!


全員が正確な情報を持たずに物語は進んでいました。

中世の情報収集なら正確なのは当事者ぐらいと考えている筆者です。


あ~ショタとイケメン(女)のあま~い話だけ書いていたい。あと変態達も、長兄とアリシアもいいな。

いや長兄とセイレム公爵?(;・ω・)

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