第6話敵対するのはどーこだ?


 ケプ、お腹がいっぱい。

 グリエダさんは自分が注文したのも俺に食べさせようとするから困っちゃうの。

 餌付けはいりませぬ。

 これでも成長期に必要な食べ物はちゃんと摂取していますから、炭水化物はもういらないです。


「ほらこれは最近新しく出てきた料理でね。戦う身としては赤色は避けるべきと言われるが酸味があるのが美味しくて。君も食べてくれ」

「もぐっ!?むぐむぐ。も、もういいです」


 フォークにクルリと赤く染まったパスタを巻いて俺の口に入れこもうとするグリエダさん。


「もっと食べないと成長できないぞ?」

「無理です。お腹がいっぱいです」


 ぽんぽんがぽっこり膨らむぐらい食べているのですよ。


「・・・そうだな辺境伯軍の兵士の連中と同じ様にしてはダメだろうな」

「え、グリエダさんのところと同じ様にとは」

「身体作りのために吐くまで食わせる。吐いたらさらに食わせる」


 ひょえっ、ななんて恐ろしい。相撲取りでも作っているのか辺境伯軍は。

 あん、ぽっこりお腹を触って確認しないでください、さすがに恥ずかしいの。


「そんなにこのパスタが好きなんですか?」

「そうだね、だいたいが塩味だけでそれが当たり前だったものが野菜一つでこんなにも変わるものかと驚いているよ」


 俺を乗せている脚を横にズラして皿の上のパスタを嬉しそうに食べるグリエダさん。

 うんうん、イケメンはなにをしても似合うね。


 グリエダさんが食べているパスタは真っ赤に染まったものだ。それに塩漬けの肉と玉ねぎらしきもの、ピーマンに似たものが入っているシンプルな料理である。

 ええ、ナポリタンもどきですよ。

 こっちの世界でもトマトは観賞用に植えられていたから、ヒャッホゥッと収穫してご乱心だーっ!だと家の者達に叫ばれたのは数年前。


 飽きていたのですよ中世の食事に。

 基本塩味で素材の味を生かしましたはラーメンにカレーといった悪魔の料理を知っている元日本人には辛かった。

ファンタジーな世界だから胡椒ぐらいは転生前に一般流通してもらいたい。


 なので前公爵が公爵領のどこかに配置されてから前公爵夫人にウルウル目でおねだりしていろんな食材を調達してもらって、いくつか再現したのです。

 はっはっはっ。持つべきは圧倒的な権力!腕力なんていらんのだよっ。

 あ、グリエダさんに出会ったので腕力は必須とわかりました。うん覇王様レベルになると権威権力は無駄なんですよね。


 ナポリタンもどきは比較的安く作れるから、情報を王都に流しまくった結果、広まった料理の一つだ。平民たちの栄養不足も少しはましになったかもしれない。


 俺がいるハイブルク公爵家にはいろんな秘密があるのだけど、まだグリエダさんには一つも話していないんだよね。

 前公爵夫人からの指示で前世の知識はハイブルク家以外には秘密なの。どれを秘密にすればいいのか判断できなかったら全部になりました。


 でもナポリタンで喜ぶグリエダさんを見たらミートソースを食べさせたいなと思ってしまう。

 長兄に相談したら解除してくれるかな?

 でもそろそろ前公爵夫人が特急で公爵領から王都に戻ってくるんだよね。

 それまではお預けかな。


「ん?やはり食べたいのだろう」

「いりませぬっ!」


 ナポリタンを見ていたら勘違いされてしまう。

 なに?グリエダさんはぽっこり子狸でも誕生させたいの!?

 ・・・可愛いモノ好きだから喜びそうだ。


 拒否してからそうしないうちにグリエダさんは食べ終わる。ちなみに三皿目でした。いったいその細身の長身のどこに入っているのですか?一皿もいかないぽんぽこたぬきは知りたいです。


 食後の紅茶を飲み始めたグリエダさんの膝の上で俺は紙に書き物を始めた。


「なにを書いているんだい?」

「王から婚約の許可も貰ったので、少し自分達の状況を整理しようと思いまして」


 考えるだけでまとめられるほどの頭は持っていないので、まとめるには書いておかないと。たぶん全部愚王と側妃が悪いにしそうなんだよ。

 第一王子?

 グリエダさんの膝の上が指定席になったので感謝しています。あ、あと長兄に美人で優秀なお嫁さんが来てくれるのでマジ感謝です。

 なんだよ~、王子はいい奴だったじゃないか。


「なぜ第一王子の横に天使、ただし地獄行きと書くんだい」

「え、真面目な他人を幸せにして自分達を不幸にしたんですよ?」

「・・・君は結構辛辣なところがあるよね」


 なぜその様な評価に。

 俺とグリエダさんを並べて書いてそこから線を引いて名前を書いていく。

 書いていく。


「グリエダさん」

「なんだい」

「侯爵家とか伯爵家の名前は知っていますか?」

「まあ王都に来てから暇だったし、爵位を継いでいるから大体はわかるよ」

「・・・僕よほど印象が無いと覚えられない人なんで、教えてもらえますか」

「君・・・さすがにそれは」


 てへっ、グリエダさんに引かれちゃった。

でもしょうがないんです。元日本人に横文字名前を覚えるのはきついの、しかも名刺も顔も合わせたこともない人物をどう覚えろと。

 長兄なんて長兄としか呼ばないから侍女長が注意したときに、バルトだったか~と思い出すのです。

 数分もしないうちに脳内から消え去るけど。

 大丈夫っ、長兄にはバレてはいません。


「はぁ~、じゃあ知りたいのは誰だい」

「元宰相、元騎士団長、元大司教、側妃ですかね?」

「貴族社会で生きていく気は無かったね?正直にいいなさい」


 やん、お腹に腕を回して拘束しないでください。

 元宰相、元騎士団長が愚王を上手く操作していたぐらいは長兄の愚痴から、ああそんな目で横から覗き込まないで。


 元宰相ボルダー侯爵、元騎士団長ヒルティ子爵、元大司教アメント、ヘレナ側妃

 なんとか以前の俺の人生設計を言わずにグリエダさんから教えてもらった。

全員の線上に恨み買いまくりと書く。


「側妃以外は自分達の息子がもっと酷いことにならなかったから恨んではいないのではないかい」

「まともでも子供のことでは甘いという人は多いですからね~」


 しかし息子の教育はどうしていたのだろう。

 婚約破棄の時にいた性女の愛人枠だったよね。大成功していたら次の次の王はいったい誰の子だったのだろうか。

 元宰相、元騎士団長、元大司教にお宅の息子さんには常識を教えているのですかと聞いてみたいよ。


 すごいわ~、ハイブルク家が国盗りするレベルじゃねえよ。

 そして裏目裏目の愚王だったら第一王子を王につけようとするだろうし、そうしたらハイブルク家は怒髪天のセイレム公爵についてる。

 なんだよ俺は侯爵、子爵、教会、王家を救っているじゃないか。

 物語の婚約破棄ってよほど破棄側が強いんだろうな、そうじゃないと絶対に成功しないよ。成功しても逆ハーだと王家乗っ取り確実だし。

 

「私がイタズラしたときは父は木剣を振り回して追いかけてきたがな」

「グリエダさんの家は本当に貴族なんですか?」

 

仕事は優秀でも息子の教育は失敗している人達だ。親子の情があるかないかとか、御家の看板を傷つけられたとかで逆恨みは山ほどできる。


「まあ逆恨み大本命はヘレナ側妃ですか」

「あそこは実家も最悪だからね」


 ヘレナ側妃の線には無能の片割れ恨みますと書いて、ついでに側妃から線を引いて伯爵と書いて実家も問題ありと記す。

 国防を考えられない時点でアウトです。絶対に何かしてくるだろう。


「側妃は絶対になにかやってくるでしょう」


 自分が王の母になる機会を潰されたのだ。その恨みはどのくらいなものなのか、長兄からは呼び出されても登城の判断は任せろと言われている。ハッキリ言うと行かなくていいということだ。

 わざわざ敵対する者の所に行かなくてはならないほどハイブルク家は弱くないということである。

 息子の教育失敗、実家はやりたい放題、王妃はまともとしか長兄達から聞かないのでヘレナ側妃はろくでもないのだろう。


「こうしてみると私達の婚約は波乱を含んでいるね」

「まあこれにこう書けば劇的に変わるんですが」


 俺とグリエダさんを丸で囲んで、そこから線を三本書いたその先にはハイブルク家、アレスト家、セイレム家と書くとあら不思議。

 パワーバランスが大逆転です。

 元宰相、元騎士団長、元大司教の領地がどのくらい規模があるか知らないけど権力を失って勝てると思うな公爵二家と最強辺境伯。


「三家にちょっかいは出してこないと思うんですよ。ヘレナ側妃の実家はわからないですけど」

「あそこは自分達は王の縁戚と言って自由し放題だからなぁ」


 グリエダさんの声が遠いものになった。

 無言で側妃から伯爵に伸びる線に無能の威を借る無謀一家と追加で書いておく。グリエダさんが潰すと後が面倒だから困っているんだよと言ったのは聞かなかったことに。

 

 御家規模の話は長兄とセイレム公爵に任せておこう。

 バカ息子の製造は親が責任取るのは貴族社会では当たり前だ。セイレム公爵の娘でありバカ息子の元婚約者であったアリシア様に恥をかかせたツケは高く付きそうそうだ。


「僕たちは直接ちょっかいを出してくる連中に対処するだけですね」


 書いた分は上の方だけだ。下の者がどう動くかはわからない。

俺は報復の相手として一番最適だ。あと第一王子の結末はしょうがなかったとはいえ俺が原因だし。

 自分の現状を書いたら、ちょっとした嫌がらせをされるから下手すると殺されるまで、可能性が盛りだくさんだ。

 ドキドキデンジャラス生活はきついな~。

 婚約破棄はされちゃダメだぞ世の中の主人公たち、現実ではざまぁのあとは報復が山盛りでピンチになっちゃうぞ。


「ならこれからは、私が君とずっと一緒にいれば問題ないな」


 わぉ、最強の護衛で俺のドキドキデンジャラスの大半が消滅したよ。

 そして羞恥心よ復活してくれるなよ、グリエダさんの一緒はなかなか容赦ないからな。


「ところで、これには愚王のことが書かれてないんだが」


 あ、やべ。裏目しか出さないから忘れていた。

 第一王子も裏目出したし、もしかして王家は裏目という魔法使いなのか?

 なんだよ~、国の一大事の時にしか役立たない首だと思ったら、実は貴重な魔法使いだったのか。

 これは死ぬまで王(笑)でいてもらわないと。



ーーーーーーーー

セルフィル「さあこれから敵をばったばった倒していくよっ!」

グリエダ「任せてくれ」

セルフィル「キュンッ」


セルフィルの言葉は信じないでください( ̄▽ ̄;)


たまに思う婚約破棄後にそんなゆっくりしてて逆恨みされないの?と。

本人ではなくその臣下は勝手に動くと思うのです。


セルフィルはグリエダさんがそばにいるからなにもされていないだけです。

女辺境伯の恐ろしさは生徒達も親から知らされているので、その庇護下にいるショタには簡単には手を出せない状況に(^_^;)


貴族は面子が命なので、グリエダさんがいなかったらセルフィルは婚約破棄後に暴行、最悪死んでいる可能性はあったと思います。

まあハイブルク家がなんの対処しないはずはないですが。


愚王と王子・・・実は超優秀?

セルフィルが魔法について本でも書けば裏目魔法とか書きそうです(*´∀`)

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