第5話公爵家の三男坊なのにボッチ(へっ婚約者いるからいいもんっ)



 学園に到着してお馬の白王から下ろしてもらった。

 なぜグリエダさんは俺の胴を掴んで下ろすのだろう。それは子供の対応ではないの?


「それじゃあ昼に」

「はい、お昼にですね」


 学園の正面にある噴水広場でグリエダさんと別れた。

 あちらは高等部、俺は中等部なので授業も学舎も別なのである。


 颯爽と歩いていくグリエダさんは周囲の視線を集めている。

 女の子達が挨拶をすると彼女は軽く手を上げてニコリと笑って返していた。

 それだけで女の子達はふらりとよろめき倒れ、ギリギリで持ち直した。意地だろう、あのまま倒れていたらいろんな噂を流されるのが貴族社会というものだ。


 じゃあ朝から美青年に抱きしめられたまま巨躯の馬に乗った羞恥プレイを見られた俺は?

 すでにグリエダさんと白馬に二人乗りは見られているのでもう手遅れなの。

 まあ公爵家と辺境伯はそのくらいの噂では少しも揺るぎません。

 それに噂なんて朝にグリエダさんのチートっぷりを聞いていたら命を賭けてるなと尊敬するよ。


 グリエダさんが高等部の学舎に入っていくのを見送った後に自分も中等部の学舎に向かって歩き出す。

 恥ずかしかったけど馬の二人乗りは楽しい。

 なぜならこのあとは全然楽しくない時間が待っているのだ。


 朝の登校時間、多くの生徒が学舎に向かって移動している。

 なので入り口は貴族の学校といっても混雑していた。

 なのになぜか俺の歩く先が割けるチーズみたいに生徒が横にズレて学舎まで一本の道が出来ているのだ。


 不思議だねー、僕そんな公爵の権力なんて使っていないよ?

 中等部に入学してから一年間はみんな普通だったじゃないですか。

 ほら道を作るためにぶつからないで一緒に歩きましょうよ。

 どうして近寄ると避けるのですか?

 十三歳のショタを泣かせるつもりなの?

 そこの男子っ!お前の家はハイブルクの寄子だろうがっ!卒業パーティーの時に見た覚えがあるぞ。


 目が合ったら全力で走り去られた。


 はい、これが第一王子の婚約破棄騒動以降の学園での、生徒達の俺への対応です。

 いくら権力のある公爵家であろうと貴族の頂点の権威をもつ王家に喧嘩を売ったのだ。その三男坊の扱いは、近づくな危険、なのである。

 寄子の貴族の息子が逃げ出したのは自分の家が王家派閥に目を着けられないように、かつハイブルク公爵家にも逆らわないように。必死に考えて取った両立出来る対策なのだ。


 つまり俺に出会わなかったことにした。

 それを責めることは出来ない。

 下級貴族の家は寄親に不義を働いてでも御家存続を重視するものなのだ。そこを強制したら寄親としての信頼関係が崩れていざという時に裏切られる可能性が出てきてしまう。


 でも全力疾走は良くないと思うな~。

 顔は覚えたから愚王への対処が終わったら弄って上げよう。逃げた判断力は面白かったから、次兄の所に叩き込んでおけば優秀な指揮ができる騎士になれるかもしれない。

 グリエダさんのところだと死にそうだしな~。

 次兄のところも死ぬかもしれないけど。映画で見たアメリカの軍隊式の訓練を教えたら、忠誠心は上がるけど心は死んじゃうんだよね。


「はぁぁ~」


 とぼとぼと学舎に向けて歩き出す。

 さっきまではグリエダさんのハグを衆人環視に見られて羞恥心でドキドキだったのに、今は一人花道で生徒達に左右から見られて心拍数がガタ落ちです。


<><><><><><><><>


 うわぁーい。

 お昼休みは癒しですよ。


 授業も転生者の俺にはあんまり役には立っていない。

 学園で習うのは貴族としてのふるまい方が大半で常識やマナーやダンス、お茶会などばかり。


 御家を継がない次男三男坊以下の人生にはほとんど役に立たないの。

 だから将来を考えている連中は授業をサボって体を鍛えて騎士団に入るか、軍に入って兵士になるかを目指している。

 内勤を目指すものはいない。

 大体が爵位を継いだ長男でその席は埋まるし、そいつらが自分の家で事務用に鍛えた連中を部下にするのである。

 自分の爵位を脅かす弟達を配下として使うなんてしません。

 学園を卒業した時点で有能な弟は継承権を放棄させて放逐です。大貴族みたいに爵位をいくつか持っているか、婿入りするぐらいしか平和な時代には道はない。つまり学園の中で貴族でい続けられる者はごく少数ということになる。


 ハイブルク公爵家は大貴族じゃなくて超貴族ですから無駄な下級貴族を潰せば沢山爵位はあるのです。

 ハイブルク家の次兄はその一つを貰って今はハイブルク公爵領の軍を率いていますよ。

 脳筋のくせに軍略関係には強いから、過去に危うくハイブルク家が長兄と次兄で割れるとこだった。

 権力にしがみつくタイプじゃなかったのでうま-く誘導して子爵になってもらうことにしたの。

 脳筋なので最後は母親である前公爵第一側室のレアノ様にお話しした。次兄は子爵になることを理解しているのかいまだにちょっと心配である。


 かと言って女子が男子よりマシというわけでもない。グリエダさんみたいに圧倒的な武力を持っていない限りは中世風のこの世界は男尊女卑である。

 嫁げなかったらお先真っ暗な人生なのだ。

 ゆえに学園は爵位を継ぐ長男坊と女子達の為の学びの園なのである。

 国の運営側の上層部を育てる機関ならば、数字と語学をメインに教えろよと言いたい。


 俺?

 ほら曲がりなりにも未来の知識を持つおっさん転生者ですので、せいぜい中学生レベルの数学までしか学ばない貴族のお勉強は楽勝だ。


 以前はがっつり長兄に寄生するつもりだったのでお家で学んだマナー(先生はなぜか侍女長)は十分だったのです。

 黒色火薬も作れないショタですが未来を知っているというだけで凄いの。

 あるという事実を知るだけでも人は数段すっ飛ばしてそれを見つけ出す生き物ですから、存在する未来を知っているショタは大変貴重な生き物なのです。

 最終手段としてはレアノ様の本に登場した肖像権分の配当を貰って細々と生きることも考えていた。アーーッ!される本は売れているようなので。


 まあ今はお嫁、おっと間違った。お婿さんとして嫁ぐことが決まったので・・・あ、マナーとダンスをちゃんと学ばないとグリエダさんに迷惑を掛けちゃう。


 ぼっちの俺はお相手がいなくて教師と練習をすることになったダンスの授業を終え、ようやく昼休みになってグリエダさんと再会できた。


 今日は天気がいいのでお外のテラスで昼食だ。

 周囲の生徒達の視線が刺さるようにこちらに向けられている。

 王国最強の軍を率いる女辺境伯と第一王子を徹底的に貶めた公爵家の三男坊の俺は今一番の注目の的だ。

 見られるのは仕方がない。


「ほら、口元にソースが付いているよ」

「んむ、自分で拭けますから」


 グリエダさんが俺の口をハンカチで拭いてくれる。

 決してグリエダさんの膝の上で昼食を食べている俺が注目されているわけでは無いのだ。


 俺の婚約者様はどうも恥ずかしい部分が人と違うらしく、べったりとくっつくことを好まれる。

 ゆっくりできる昼食時間の俺の席はグリエダさんの膝の上、イケメン(女子)の上のショタは学園内で知らない人はいないと思います。

 愚王に認められなくても周囲にはイチャついているのがバレバレなので、これで婚約していなかったら王が認めなかったんだとなるだろう。

 愚王よ何をしてもその価値が下がっていくな。どうすればそこまで愚王になれるのか一度カウンセリングを受けてみない?


 最初の頃は普通に座ろうと提案したの。

 そしたら凄く残念な顔をされるのです。

 凄く賢い犬がお肉を目の前に置かれてお預けにされて、そのお肉を下げられたようなお顔をされたらこちらが折れるしかなかったのです。

 それからの俺の椅子は柔らかいのにその奥は大木のような安定感があるグリエダさんの膝の上、そこが定位置となりました。


 口に付いたソースも全自動で拭いてくれる機能付きの最高の座席なんだけど羞恥心を捨てなければならないという苦行付き。

 癒しだよ?だって羞恥心の大半は前世で捨てたので苦行というほどではない。

 前世の上司の無茶振り強制一発芸での羞恥とは違うの。現場が極寒になるのとは違うの。

 女子の膝の上だから自慢できるよ。


 ほらそこの上級貴族らしき男子生徒よ、悔しいだろう。君の周囲にいる子女より遥かに整っているイケメングリエダさんだぞ。


 つまらない学園はグリエダさんで相殺どころかプラス収益です。



ーーーーーーーー

セルフィル「一年の時も友達はいなかったような・・・もしかしてずっとぼっちだった?」

グリエダ「今は私がいるだろう」

ショタ「そうでしたー♪」

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