第37話 無意識に箱を組む私

 突然ですが、段ボール箱の底を組む方法としてってご存知ですか? テープを使わずにフタの部分を交互に重ねて最後のフタを噛ませるやり方。輸送に向かないので引越のときにやると業者さんに怒られます。職場では会議や研修の資料を一時的に入れておくときなどに使います。段ボールがきれいなままで又使えますからね。


 クロス組がどうした?という話ですが、先日、家のリビングでクロス組の段ボールを見たのです。注文した組立式のスチール棚が大きな箱で送られてきて、その大箱の中に棚に敷くコルク板を守るように、新品の段ボールが組み立てる前の板状の形で添え木のように入っていたのです。夫は物を入れる箱を探していたこともあって、その段ボールを後で使おうと横に置いておきました。


 組み立てないまま横に置いたはずの段ボールが翌朝、クロス組の底を見せてリビングにありました。私は夫が棚の組立を終えたので、段ボールを使って片付を始めたのだと思い、特段不思議にも思いませんでした。ですが、いきなり夫の声がして…

「え、えぇこの段ボール触った? えー表も裏も両側、組んである…」


 意味がわからぬ言葉を発しながら夫が私を見ています。私はポカンとしてもう一度段ボールを見ました。クロス組の底を見せていた段ボールは、なんとひっくり返してもクロス組の底になっていました。つまり誰かが新品で畳まれていた段ボールを開いて両側をクロス組にしたのです。昨夜、ひとりで、何のために?


 夫と私、顔を見合わせ呆然自失。たかが段ボールなのですが、暫し無言。なんせこの家には私達二人しかいないから。犬も猫もメダカもいない。ヤモリもいないはず。疑われていると思った瞬間、私はいつになく早口でしゃべり始めました。


「私じゃないよ。やってない。朝見たら底が組まれているから変だと思ってた」

「俺もやっていない。立てかけて置いたはずなんだけどぉ、まぁ百歩譲って箱の形に開いたかもしれないけど、こんな風に組まない。それも両側だよ」と夫。


 話はここで終わりでオチはありません。つまらない話にお付き合いさせてしまいました。泥棒が入った形跡はありません。心霊現象かとも思いましたが、幽霊がなぜ箱を組むのか意味がわかりません。泥棒もしかりですが。普通に考えれば、二人のうちのどちらかが、いや夫はやる理由がないので私が無意識にやって覚えていないってことになりますよね。状況証拠を積みあげて、あなたしかできる人はいないから有罪ってやつですね。


 でも私、やっていないです。不器用なのでクロスに組むのはなかなか大変で、夢見心地でも最後のフタをグッと押し込むところで意識を取り戻しそうなものです。そもそも何も入れずになんで両側を組むのか、わからないです。二人が出した結論は、様子をみよう、また何か不思議なことが起こるかもしれない、ということに。


 いやぁ世の中、不思議なことがあります。わからないことがあります。科学で全て説明できるなんて顔で言う人もいるけど、わからないこともある、いつかわかるときが来るかもしれないって思うほうがいいような気がします。


 お皿割ったの、誰!なんて場合、たいていはあなたが最初に思い浮かべた人が犯人なんだけど、もしかしたら自然にパリンと割れたかも、隣のウチの猫がドンっと落としたかも、ですよ。

 


 


 

 

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