⑥ファミレス

 チーム『クォーター』は公園を離れた後、そのままの流れで、ファミリーレストランで仲良く夕食を囲っていた。先ほどの喧嘩のMVPは誰か、そんなことを話し合っている。

「やっぱり俺が一番だ!」

 暮林がそう吠えた時分で、ヒラッペはやれやれと言った感じで席を立った。

 空になった大量の皿を見て、三人は目を皿のようにする。

 つい先日大食い大会に参加したばかりだというのに、体内にブラックホールでもあるのだろうか。ヒラッペに対抗して一緒に参加し、だがあえなく準優勝に敗れた暮林の脳内には、『今大会の優勝は平山さんです!』という、若いアナウンサーの声が響いていた。

 トイレに向かったヒラッペは、ひときわ綺麗な女性と出くわしていた。

「……あら、その制服。もしかして尾鳥高校の生徒?」

「はい、そうですけど……ああ! もしかして新堂先生ですか! チーム『クォーター』の次鋒、ヒラッペであります! あ、いえ! 何でもありません」

「ヒラッペ君……? ……ああなるほど、お友達と来てるんだね」

 勢い余っていつもの調子が出てしまい、ヒラッペは両手を突き出してあたふたする。

 そして取り繕うように、

「新堂先生のような美人な御方でもこういうところで食事をするんですね」

「あれ、幻滅しちゃった? でもね、一人暮らしだと、できるだけ安いもので済ませたくなるのよ」

「そうなんですか……あ、いえ、失礼なこと言ってすいません」

「別に構わないわよ。――そうだ、ヒラッペ君、ちょっと涼しいところでお話でもしない?」

「お話? 僕なんかとですか?」

「そう、人目のないところで二人っきりでね。寒いのが嫌なら、ここでもいいけど?」

 女性はしなやかな人差し指を多目的トイレに向ける。

「な、何を言ってるんですか!」

「冗談よ。もう、顔を赤くしちゃって可愛いなぁ、うちの生徒は。外に出よっか」

「は、はい! わかりましたっ!」

 飼い犬のように、人気のないところまで付いていく。

「あとこれ、プレゼントね。男の子はネクタイピンよ」

「……あ、はい、ありがとうございます」

 ヒラッペは少し戸惑いながらも、女性から貰ったピンクのネクタイピンを、脂汗の滲んだ手で取り着ける。

 まるでダイヤモンドのような――妖気染みた輝きを放っている。

 席に戻ったヒラッペは、何かに感情を抑えられたかのように、いつもよりテンションが低かった。

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