第44話 ナウエチャの森を抜けろ
チャンベリの町から約20分、やや駆け足でナウエチャの森まで来た。森に入ってしまえば馬を降りて手綱を引いて歩くしかなく、少しでも明るい時間に早く抜ける為だった。
『皆さん、これから森に入ります。分かれ道も多く森の中央にある湖から発生する霧が迷いの森の所以です。各自お互いを見失わない様に気をつけて下さい。では進みます。』
前半は脱落者もなく中央の湖まで来れた。ここまでくれば残り半分らしいのだが、霧が一層濃くなってきたのとハジメは湖の中にどうも嫌な気配を感じた。
『副団長、どうも嫌な気配があの湖から感じるのだが?』
『えぇ、おそらく何かおりますな。それもかなり大きいようです。各自、湖の中に何かの気配がある!油断しない様に。またこの霧で視界も遮られている。同士討ちをしない様に5人1組になり、周囲の索敵をしろ。』
『ティナ殿とイーシャ殿はこちらに。私の側を離れない様にして下さい。』
霧の中から姿を現したのは高さ5m以上の大きな蛇・サーペントだった。その頭の大きさだけで1m近くはある。人なんて簡単に丸呑みしてしまいそうで二股に割れた舌は毒々しい紫をしている。
『こりゃ、大物だな。霧で道に迷ってなんとか泉まで辿り着いたらこのサーペントがいる。たしかに迷いの森だな。』
『ここは我ら南陽騎士団にお任せを、小隊ごとに大楯を揃えて壁を作れ!牙に毒がある可能性や金属を溶かす酸がある場合もある。隙間を作るなよ!弓兵は指示が有るまで装填して待機!』
矢継ぎ早にミハエルの指示で素早く陣形が出来る即応出来る団員の練度も見事だ。
『さすが南陽騎士団の副団長、見事な指示だ。レオナルド、我が騎士団もしっかり勉強させてもらってくれ。』
『はっ。各自南陽騎士団の後ろにつきしっかり動きを勉強させてもらえ!実践での動きなどそうそうお目にかかれる物ではない。ミルズに帰って第二、第三隊に教えられる様に小隊長はしっかり見とけよ!』
『湖からミハエル達のいる所まで約3mか、まずはどうするかお手並み拝見だな。』
『弓兵!まずはヤツの視界を潰す!目に向けて一斉に放て!』
大楯から指示のもと高速の矢がサーペントの目に向かって放たれたが、目まで届いているのだが
どうやら矢が刺さる前に落ちているようだ。
『矢が効かない?どうなっている?もう一度斉射のよーい!放て!!』
2回目は先ほどよりも矢のスピードが出ている様だがそれでも刺さっている様子がない。
『体表に何か仕掛けがあるのか?少しテカテカと光っているのが水だと思ったが、粘液みたいなの物で保護しているのか?』ハジメが独り言のように呟く。
『可能性はありますな。魔法に切り替えます。
法術隊は弓兵と代わり魔法の用意!放て!』
5人の術者が炎の魔法でサーペントに攻撃をする。一瞬炎に包まれたサーペントだったがやはり効果が薄いようだ。
『あの膜をどうにかしないと不味いな。副団長!私も魔法で援護させてもらう。魔法の精度を高めたいので10秒ほど時間を稼いで欲しい。』
『はっ!畏まりました。法術隊、一旦下がり弓兵はもう一度斉射のよーい!放て!!』
(炎が効かないとなると、ここはベタだが雷系の魔法がいいのか?指向性を持たせれば火事の心配は無用か。)ハジメの指先に魔力が集中していく。
『ありがとう。皆、一旦少し下がってくれ!いくぞ、デカブツよ。喰らえ、サンダーボルト!!』
サーペントの頭上からバリバリバリと音を立てて二条の雷が降り注ぐ、当たった瞬間にズドーンと低い音とギャーーと断末魔の叫びがあり水飛沫と衝撃波で身体が後ろに下がる。
もちろんティナとイーシャはハジメの真後ろに避難している。
水飛沫と雷の衝撃で霧が晴れた。視界の先には丸焦げになったサーペントがプスプスと音を立てて横たわっていた。まだ息はありそうだ。
『チャンスだ!槍隊は突撃して息の根を止めろ!』
出番が無かった槍隊はウオー!と大きな声で突撃していった。中でも大きな槍を持つ騎士が1番槍となり飛びかかって脳天から一気に串刺しにした。
『第二小隊、小隊長のこのベンガルが討ち取ったり!』ベンガルが高らかに槍を掲げた、それと同時に南陽・ミルズどちらの騎士団からも歓声が沸いた。
『見事だ!ベンガル!帰ったら褒美を期待していろ。侯爵様にしっかり報告してやる。』
『はっ。有難き!』
『ベンガル殿、見事な1番槍だ!その勇壮さ、このナカムラも関心したぞ!』
『はっ!有難きお言葉。しかしお見事なのは男爵の魔法に御座います。』
(確かに、我が法術隊の中でも選りすぐりを持ってきたつもりだったのだが。たったお一人であの短時間の集中であの威力。剣の腕も中々と聞いているが魔法の威力がケタちがいだな。)
『お見事でございます、ほとんどが男爵の魔法のおかげですな』
『急に横槍を入れてしまい申し訳ない。時間と損害を考えて手を出してしまった。次からは同意を得てからにします。それにしてもあの勇猛さ、良い騎士をお待ちだ。指揮も練度も高いさすが南陽騎士団ですな。』
(この人は自分の手柄を全く気にしていない。そればかりかこちらに謝罪とは。この謙虚さはどこからくるのだろうか?)
『いえ、的確なご判断でした。各自損害の有無を確認次第ココを発つぞ!男爵のおかげで霧も晴れたこの時間を無駄にするな!』
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