第43話 チャンベリの町と使者

チャドでしっかり体を休めて、いよいよ今日は侯爵領から出て東へ向かう。


朝食の際にミハエルから聞いた予定では、まずは東に半日ほど直進して小さな町でタリール族からの使者と合流予定になっていた。町の名前はチャンベリ。

どうやらタリール族などの砂漠民の古い言葉で境目を表すのが「チャ」らしい。なのでこの辺りには町などにチャがつく名前が多い。


チャンベリから少し行くとナウエチャの森があり此処を越えるとタリール族の支配地域のステップ地帯になる。

ナウエチャの森は慣れた者が同行しないと方向感覚が狂って道を見失ってしまう迷いの森と呼ばれていた。

森自体は大きな物ではないようなのでチャンベリの到着時間によっては今日中にそのまま森を越えるか、それともチャンベリで一泊して早朝に出るか考え所だった。


『使者どのの意見も聞きたい所だな。もし行ける様なら進むし、この人数では難しいならば泊まるし少しでも早く着きたいところではあるが無理して団を分断するのは悪手だしな。ミハエル副団長はどう考える?』


『はっ。私としても男爵の案で良いかと思います、慣れぬ場所でこちらの考えのみで進むのは急な事態に対応しかねます。使者どのの意見を参考にされるのが良いと考えます。』


「では、まずはチャンベリの町目指して進もう。レオナルド、着いてから次の事は考えるとして念の為そのまま森越えできる様に準備だけはしておくように伝えてくれ。』


『畏まりました。各小隊長は集合しろ今日の予定を伝える。各団員に周知徹底を図るように!』


ハジメの腕時計で朝の8時にチャドを出発したおよそ6時間でチャンベリに到着予定なので時間としては微妙などころではあった。


(使者がどの様な人物なのか、森の規模がどのくらいで100名の大所帯が移動して日没までに森を出てタリール族の町まで着ければ良いのだがな。幸いに今は日が長いので18時くらいまでなら森さえ出れば真っ暗とまではいかないはず。)



チャドを出て2時間、少し小休憩をした。

たしかに植生や頬にあたる風の雰囲気が少し変化してきた気がする。


更に2時間進めて昼休憩となった。

前日にチャドの町長に頼んで各食堂に協力してもらい温かいスープやパンを大量に作ってもらい、ハジメのストレージで保管しておいた。

おかげで昼ご飯は大盛況だった。

腹ごしらえも済み、更に1時間くらい道を進んだ時に遠くにうっすら壁に囲まれた尖り山が見えて町のような物を見つけた。

何名かに先行させて確認を取らせて、どうやらチャンベリの町のようだった。


(思ってたより早く着いたな。これなら場合によっては森越えできそうか?あとは森を出たあとどのくらいで町に着くかになってくるか。)


チャンベリの町の入り口で侯爵からの書状を見せて町に入る。このあたりは事前に連絡が入ってるのでスムーズに入れた。


チャンベリの町はそれほど高くない外壁に囲まれた石や日干しレンガ造りの建物が並ぶ町並みで町の中央には先ほど見えた大きな岩山がありその岩山をくり抜いて家を作っていた。まさに中東やトルコに見られる岩窟のようだ。


タリール族使者とは町の宿(ジョシュワ商会の傘下)で合流の約束にしている。


さっそく宿入りして面会しようと

ハジメはミハエルとレオナルドと3人で部屋で待っていたが、団員と一緒に入ってきたのはまだ10代前半の女の子と老婆の2人だった。


『お初にお目にかかります。タリール族族長の娘のティナです。そしてこちらが先代族長の妻で私の祖母のイーシャです。』


『ご丁寧にありがとうございます。私がミルズ騎士団団長のレオナルドです。そしてこちらにおわすのが我が領主のガリア王国男爵のナカムラ様と侯爵領南陽騎士団副団長のミハエル様です。』


『南陽騎士団副団長のミハエルです。宜しく。』


『お若いのに丁寧な挨拶をありがとう。まずはこちらにおかけ下さい。男爵を拝命しているナカムラです。最近では皆さんにはリバーシ卿と呼ばれる事も多いので好きに呼んで頂いてかまいません。お嬢様とお祖母様が使者と言う事は男手は総出で対応中と言う事ですな。これは早めに応援にいかねばならぬな。』


イーシャと紹介された老婆が口を開く


『おぉ、噂に聞くリバーシ卿ご本人様が来て下さるとは有難や。これも白星様のお導きか。』


『失礼、イーシャ殿、その白星様とは?』


『白星様とは空に一際輝く北の星で我らタリールの守り神でもあります。ワシの様な耄碌した婆などはいつまでも信仰の対象になっております故』


(なるほど、白星は北極星の事か。たしかにこの世界の星は自分の知ってる星座と似てる気がするな。)


『なるほど、そうでしたか。私の故郷にも白星の事を北極星と呼び古くから信仰の対象になっております。特に海で仕事する人間には星は地図と同じ道しるべで、まさに守り神なのです。タリールの皆様も同じ様に星を見て自分の居場所や方角を確認しているのでは?』


『ほう、リバーシ卿はその若さで博識と見えますな。我らも砂漠では地上にら目印がなく星の動きで方位と位置を確認します。星の動きは占いにも使いますしな。』


ミハエルとレオナルドも感心した様に頷く。

(さすが我が領主は博識である!)


ミハエルは更に

(娘と老婆が使者であってもぞんざいな態度もせずに、わざわざ敬語で話をしている。それに砂漠の民の誇りと言える白星にもきちんとした敬意を持って話せる話術と知識は見事だ。本当20そこそこ若造なのだろうか?侯爵様が配下に欲しがる理由が改めて分かる。)


『話を中断してしてしまい申し訳ないが、ティナ殿そしてイーシャ殿、森を抜けるとなるとどのくらい時間がかかりそうか?』

ミハエルがスケジュールの確認で2人に問いかける。


『あ、はい。ミハエル様の言う通りですよね。そうですね…少ない人数であれば1つ、皆さんの言葉だと2時間も有れば抜けられると思いますますが大人数なので1時間は余裕をみた方がいいと思います。』


『なるほどティナ殿、森を抜けた後はどのくらいで皆さんの住む町につきますか?』


『森の出口からはもう半分から1つかかるかと思います。』


『ありがとう。私とはまだ時間的には余裕があると思いますのでいけるとは思いますがいかがなさいますか?』


(うーん。今が13時で進むとしたら、14時の出発で森を抜けて17時頃か、なんとか日没ギリギリには町につけるがもしそのまま戦闘に入ってしまうと…。しかし急がねば救援の意味が無くなってしまうか。ここは皆に頑張ってもらうか?)


『そうだな、森を抜けて町に着くのがおそらく日没ギリギリか。万が一そのまま戦闘になった時には皆にもうひと頑張りしてもらう事になるが大丈夫だろうか?』


『我ら南陽騎士団は夜間の戦闘訓練や長距離移動後の戦闘訓練もしているので大丈夫ですが。』

『我らがミルズ騎士団の方がその点は若干の不安はありますがこれも良い機会ですので是非やらせて下さい。』


『分かった!では、これより出立の準備をしてもらう。また時間までに出来る範囲で構わないから各食堂に協力してもらい温かいスープを用意してもらってくれ。あと食料や水も頼む。ティナさんイーシャ殿よろしいかな?』


『私達も少しでも早く町に戻れれば嬉しいです。お気遣いありがとうございます。』


こうしてやや強行軍になるが、このままナウエチャの森を抜ける事にした。


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