第42話 境界の街・チャド

我ら砂漠の民タリール族には、こんな古い歌がある。

東の空より災いが来る時、西の白山の麓より大鷹が舞い降り、我々を救うだろう。

その大鷹は白山の如き白き鷹なり。


今まさに東(砂漠側)からモンスターの襲来があり、長老は頭を悩ませてる。救援をお願いした侯爵は南陽騎士団と噂のリバーシ卿が助けに来ることを手紙で知らせてくれた。

リバーシ卿の治めているのが、ちょうど古い歌にある西の果てのエギーユ山の麓である。

コレはもしや、昔からの歌の通りになるのではないか?と淡い期待をしていた。




領都アウレリア 侯爵邸中庭


『よく来てくれたリバーシ卿。どうだ?街では君の事をリバーシ卿と呼ぶみたいなのだ。私も一回だけ読んでみたくてな。』


『確かにアウレリアに来た際に入り口でリバーシ卿と歓声を頂きました笑すっかり受け入れられている様で、私としてはそれはそれで嬉しい限りですので、あまり堅苦しい場面で無ければもうそう呼んで頂いてもと思います。』


『もう、アナタ。ナカムラ様が困ってらっしゃるでしょ。騎士団の皆さんも遠路はるばるご苦労様でした。』

『お心遣いありがとうございます。奥方様にそう仰って頂ければ疲れなど吹き飛びます。』


『うむ。では改めて、この度の応援に感謝する。タリール族には騎馬用の馬の交易があるので無碍にはできん。それに彼ら(砂漠の民)の中の勢力バランスが崩れるのも見逃せん。我が騎士団と共に問題の解決をお願いする。』


『はっ。畏まりました。しかしながら我が騎士団も設立したての寄せ集めに過ぎません。閣下の南陽騎士団の足を引っ張らないようにさせます。』


『分かっておる。メインは南陽騎士団に任せ、後方支援や危険の少ないエリアの捜索・退治なんかをやってもらうつもりだ。それとな、君に少し…相談があるんだが。』


『なるほど…。確かにその様な事でしたら私が赴く事が士気の向上にはなりますな。分かりました。しかし私の部下はほとんどミルズに置いて来てしまいました。』


『そこは安心しなさい。私の精鋭の中で思考が柔軟な者と腕の立つ者5名を貸そう。好きに使ってくれてよい。万が一大局的な判断が必要な場合は騎士団の指揮官も君に任せよう。なんとか彼らを助けてやって欲しい。あとミルズとルウムには私から使者を出しておく。』


『そこまでして頂ければ、憂いはありません。このナカムラ、無事にタリール族の問題を解決して参ります。』


(侯爵の依頼とはいえ、また大きな問題に顔を突っ込むハメになったな。それに合わせて約100名の指揮官になるとは。急に決まった事だがケリーさんに何かお土産を買って埋め合わせを用意して帰らないとな)


謁見の翌日の早朝

仮の編成とはなるが南陽・ミルズ騎士団の合同部隊の編成式が行われ、代表がお飾りだがハジメになり、続いて実質的なトップになる南陽騎士団の副団長、三番目がミルズ側のレオナルドになった。


緊急時の最終的な決定権を代表であるハジメが持つ事になった。

(言い方を変えれば、成功時の遠征の名誉も何かあった時責任を持つのもハジメと言うことになる。)


編成式の後さっそくの出発となった。

今日は国境の街チャドまで行く事になった。

昼前の出発なのでギリギリ日没までに到着出来そうだった。


チャドの街は国境の街なのだが、それよりも気候や住んでる人種がチャドを境にガラッと変わるので人々から「境界の街」と呼ばれていた。



アウレリアからステップ地帯までは地形的には緩やかな下り坂になっている。

さすが領都に続く交易の道だけあって、道幅も広く整備されて馬も走りやすそうだ。

現在は馬にはスピードを出させていない。乗馬でいう常歩(なみあし)である。

これは時速約5〜6キロで歩幅の違いはあるが人が少し大股で歩いてるくらいだ。


よく映画などで観る馬が駆け足になっているのは速歩(はやあし)や駆歩(かけあし)だろう。

速歩で時速約13キロくらいで駆歩は20キロを超えてくるが航続距離がその分短くなり駆歩の状態は30分くらいが良い所だろう。

もちろんその後はペースがガクンと落ちる。


救援という立場上ある程度急ぐ必要はあるのだが、馬を潰す訳にも行かない。

一日の行軍のスケジュールや距離は南陽騎士団の副団長に一任してある。

(勝手が分からないのに口を出しても、決して何も良い結果にはなら無い。餅は餅屋にという事。)


一方でその南陽騎士団、副団長のミハエルは安堵していた。

(功を焦る若い貴族ならば、スケジュールにも口を出して来るかと思ったが、一切を任せてもらえるとは…。さすがはリバーシ卿と言う所。閣下が安心しろと言った通りか。この分ならば余計な心労は少なそうだな。)


『閣下、間も無くチャドに着きます。宿の手配はこちらで済ませますので、チャドにつき次第、町長との面会をお願いいたします。』


『ミハエルさん、閣下は気恥ずかしいので男爵か、そうだ!リバーシ卿で構いませんよ。』


『いや、しかし団の代表でありますし…。分かりました。では男爵と敬称でお呼びします。私の事はどうかミハエルとお呼び下さい。指揮にも影響しますので。』


『分かりました。ではミハエル副団長と呼びます、しかし人払いしている時はミハエルさんと呼びますよ。私よりもミハエル副団長の方が年上ですし。私も敬意を持って貴方と仕事がしたいので。』


『勿体無いお言葉です。そこまで仰るならその様にお願いします。おい、誰か先行して宿の確認を頼む。ジョシュワ様の商会が予約をしているはずだ』


チャドの町長との面会は明日以降の行軍もあるので簡単な物で済んだ。町長からは是非帰りにゆっくりリバーシの事や街の外壁について話が聞きたいとの事だった。

一般的にはリバーシ卿と言われるほどリバーシばかり取り上げられるが、ミルズの都市計画(実際は町計画だが)の方が貴族や実際に町を治める人々には評価は高い。

高度な下水道や道路、しっかりした防壁など町長クラスの人間には聞きたい事だらけなのである。


商会のおかげで大きな宿に泊まれ、団員達も相部屋にはなったがきちんとベッドで休む事ができた。この先、野営も出てくるだろうがやはりきちんと屋根のある所で睡眠が取れる事が体力の回復や体調管理維持に繋がる。

小さな事だが、ちゃんと飯が食える・ちゃんと眠れる場所があるのは大切だ。


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