第38話 兜

光が収まると、ハジメは全身に白銀色の鎧を纏っていた。兜は首もカバーしており胸部から肩、肘、小手と同じ白銀色で細かな装飾がある。下半身も同様に白銀で統一されている。


ルーカスもケリーも当のハジメもさすがに驚きを隠せなかった。


ハジメは兜をかぶると頭の中に何やらピコンと電子音の様なモノとメッセージが聞こえた。

そしてメッセージに従い魔力を通したら光出したのだ。


『なんだコレ?』

フルプレートなのに重さがほとんど感じられなかった。


『俺の魔剣の様な物か?いや、鎧だから魔鎧か?』


『えーと、兜をつけたら頭の中に声が聞こえて、その通りに魔力を使ったらこんな事に。』魔力を切るとまた光り、ただの兜に戻った。


試しにルーカスやケリーもやってみたが、ケリーは反応せずに、ルーカスは反応はしたが大粒の汗で息を切らし片膝をついて肩で息をしている。


『コレは、相当に魔力を食って鎧に形状を変える魔装具だな。俺にはとても使いこなせん。ケリーはそもそもの魔力の保有量が足りなかったみたいだな。』


『なるほど、確かにつけた時に魔力を消費した感じは有りました。そこまで一気に減った感じは無かったのですが?』


『お前の底なしの魔力と比べられても困るわ。それに多少の相性も有るかもしれん。それは侯爵に報告だけしておいてハジメが使うといい。実質お前専用の鎧みたいな物だろう。』汗は止まったがルーカスはまだ肩で息をしていた。


『はぁ、分かりました。私以外が使うのは別の意味で危険そうなので。そのまま使わせてもらいます。それにしても、このうなじの部分にあるマークですが…』


『ええ、それはこの本に出てくる…このとある騎馬民族の部族章に似てる気がします。馬と弓と槍の意匠ともう半分が大型の鳥の様な。

半分ずつと言うのが何か意味があるのか。』


『もしかしたら、お互いの意匠を半分ずつ用いているとなると友好の証なのか、それとも婚姻等で互いの繋がりを表しているのかな?』


『その感じが近いですね、半分ずつなので対等な関係性なのかと思います。征服や隷属なら支配側の意匠だけでしょうし。』


『となると古王国時代にミルズ近辺を治めていた王と東の砂漠の民に交流があった事を示しているのかもしれませんね。東に行く機会が有れば砂漠の民の族長なんかに聞いてみたいですね。』


執務室での報告も終わり、今夜はルーカス邸に泊まる事になった。食事も楽しく済ませて、食後にルーカスとケリーと3人で例の酒・ウイスキーの試作品の感想を聞かせてもらう事にした。


まだ1年ちょっとなので樽の色がまだ移るには短いので色はほんのり琥珀がかったと言う感じだ。


『前に飲ませてもらったやつよりずいぶんと飲みやすくなったが、まだ口に何か残る気がするな。』ルーカスはこの様な品評だった。


対してケリーは、以前は全くこの高アルコールがダメであったが…。

『たしかに…。前よりは飲めるけどもやっぱり女性には強いと思う。』


『そこでですね、こんなモノを用意して見ました。』

ハジメはストレージから何やら金属製の道具と前世のレモンによく似た黄色の果実を取り出した。金属製の道具は居酒屋などで果物のチューハイでセットで持ってくるジューサーだ。


『港町に陸揚げされる異国の果物で長い名前があるんですが、覚えられないのでレモンと勝手に名付けました。前世でコレとほぼ同じ果物がその名前でしたので。コレをコレで絞って…。』


レモンをジューサーで絞ってウイスキーの水割りに入れてケリーに渡す。


『さっきよりも全然…飲みやすい。』


『女性には水割りや、ハイボールの方が飲みやすいんですよ。味や本来の香りを楽しみたい人にはストレートやオンザロックスがオススメです。まぁ炭酸水が手に入らないのでハイボールはまだ先になりますけどね。』


『ハイボールとやらが何かは分からんが、作れるようになったら教えてくれ。閣下も楽しみにしてるだろう。』


『そうですね。炭酸水は商会に頼んで探してもらってる最中です。アレさえ見つかればウイスキーの消費が一気に増えるでしょうし。そうなったらミルズもルウムにもたくさんの醸造所を作らないと追いつかなくなりますね。』


こうして謎の兜の話とウイスキーの展望の二本立ての話しになったが、夜も更けてきたので今夜はおひらきとなった。


翌日ハジメはミルズへと戻るのだが、ケリーの見送りの笑顔には若干の寂しさがあった事にさすがにハジメも気づいたのか、出立の際にケリーの耳元で周りに聞こえないよう小声で

『今度はミルズに是非遊びに来てください、その時はお迎えに参上します。』

と一言添えて旅立った。


ケリーの笑顔が一段と明るくなったのは言うまでもないが、父親として娘を本当に取られそうなルーカスの心中は穏やかではなかった。

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