第36話 遺跡調査 ②

祭壇は階段状になっており三段上がった所には高さ40センチくらいの囲いがありその中に碑文があった。

どうやら文字は古代語の様で少なくとも1000年は前の物らしい。

と言うのも、エルフのエリー兄弟がかろうじてその言葉が古代語だと分かる程度で、何が書いているかは分からなかった。


ハジメの言語理解のスキルを持ってしても

独特の言い回しは分からず、最後の

「妻〇〇と臣下と共に眠る」しか分からなかった。


『共に眠ると言う事は、つまり此処は王族の墳墓という事でしょうか?』

『恐らくそうでしょうね。もしかすると途中の部屋は宝物庫だったり、参拝の人用の宿だったのかもしれない。』


『古代語だと相当前の遺跡の筈ですが、状態としてはとてもキレイだ。モンスターの棲家になったりしていないのは不思議ですね?』


『確かにな…。いや、待て。誰だ!そこにいるのは?』

レゴットとの会話の途中で祭壇の奥から気配を感じハジメが声を上げる。


『私ノ微弱ナ魔力スラ分カッテシマウトハ。貴方達ニ危害ヲクワエルツモリハ無イ。コチラへドウゾ。我ガ主ヲ倒セル者ガイタラ連レテイクヨウニト。ソレガ私ノ役目』

小さな骸骨がスゥっと現れた。どうやら敵意は無いみたいだ。

ロートンが慌ててハジメの前に立つ。

『ロートン、大丈夫だ。敵意があるなら碑文を読んでいる時に奇襲出来ていただろう。コチラへと言うくらいだから別な部屋でもあるのだろう。』


祭壇の裏には細い通路があり、行き止まりには扉が有った。骸骨が扉を開ける。


『コチラノ宝ハ貴方達ニ授ケマス。タダデキレバコノ我ガ主と后ガ眠ル此処ノ事ハ誰ニモ話サナイデ欲シイノデス。タダ静カニオ二人ヲ眠ラセテ欲シイノデス。ドウカ。』


『骸骨になっても尚主人に対しての忠義、実に天晴れである。どうだハジメ殿、この忠義に免じて此処の事はルーカス様にのみ報告されては?』ライブリーがうんうんと納得して首を縦に動かす。

『確かに、その忠義の心には感心します、分かりました。此処の事は我々の主にのみ話します。そしてもし私に子供が出来たら、子供にのみ話をして出来るだけこの前にしておく事をお約束します。しかし宝は我々で頂いて本当に良いのか?』


『主カラ、ソノ様ニ申シ付ケラレテマス。ソレニ貴方様ナラ約束ヲキチント守ッテクレソウダ。主ガ倒レタ今、私ニ残サレタ時間モ余リ無イヨウダ。嗚呼ァ出来レバコノママ永劫コノ場所ヲ守リタカッタ…。』


(なんと言う忠義心なんだろうな。死んで骸骨になってリッチの魔力で動けていたとは言えここまで主を想えるとは。よほど信頼されていた王なんだな。俺も死ぬ時にこの様に慕われて逝けるなら嬉しいな。俺のこの魔力は特殊だ。もしかしたら…。いやさすがにそこまでは。)


『骸骨さん、生前の貴方の名前は何と仰ったんですか?碑文の文字は我々の時代では失われた文字の様だ。』


『私ノ名デスカ?私ノ名ハ、近衛兵長カストロ。シカシソレイガイハモウ思イ出セナイ。永イ時間ガ経ッテシマッタトイウコトカ。』


『カストロさんですね。私はこのミルズを治める領主のハジメと申します。貴方に提案があります。私は特殊な魔力を持っていてたぶん貴方に魔力を譲渡することが出来ると思います。主人を想う貴方にとって良い提案だと思います。私と仮の主従関係になってもらえませんか?』


レゴットが慌てて、ハジメに問う。

『ハジメさん!そんな事出来るのですか?確かにテイムのスキルが有れば理屈は通りますが、アンデットをテイムと言うか支配出来るのはリッチくらい聞いた事が無いですよ?』


『ソンナ事ガ?魔力ガアレバコノ身体ヲ動カス事ガデキル…。分カリマシタ。オ願イシマス。』骸骨はハジメの前に片膝をついた。

ハジメは肩(の骨)に手を当てカストロに魔力を送る。やはり互いに友好的な状態で有れば行けそうな感じがある。

感覚としては回路に上手く電力が通っていく感じだ。カストロの魔力の源に届いた気がした。カストロはボンヤリと輝き出した。


骸骨が暖かな光りに包まれているのは中々にシュールではあるが、ハジメとカストロの間に感覚的なパスが繋がった。

身体から魔力が一気に減った気がしたがそれでも目眩や立ちくらみになる事は無かった。急に全力で50メートル走ったくらいの疲れだ。

『すごい魔力ですネ。身体モ軽くて言葉も滑らかに出ル』


(骸骨が身体が軽くなったと言われてもアレだし、喉が無いけど何処声が出てるのか。まぁそんな事考えても野暮か。まだ語尾やら変な所はあるけど。それが異世界だもんな。)


『これで少なくとも、私が死ぬまでは貴方に魔力を供給できる。入り口は分からない様に偽装しておきますが、万が一侵入者がいたら教えてくれればすぐにコッチに来れる様にします。』


『ありがとうございます、ハジメ様。貴方にとっては何も得が無い筈なのに此処までしていただいて。コレで心置きなく王と后をお守り出来ます。』

『いえ、貴方のパス(回路)が繋がったおかげで古代語が少し読める様になりました、貴方の知識が私の中に入って来ました。それだけでも充実に利益が有りましたよ。なので余り気にせずに此処を守って下さい。』


ハジメ達は奥の宝物庫からお宝を数点頂き、代わりにカストロにローブと王冠を渡した。

骸骨には瞳がある訳では無いが目線は王冠をしっかりと見ていてカストロは片膝をつきそれを大事そうに抱えていた。


遺跡に入って約半日、出てきた時には夕方になっていた。約束通り、魔法で岩を動かして蓋をして入り口を見えないようにしておいた。これで一先ずは大丈夫だろう。







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