第33話 忍びよる足音

順調だ。

ミルズの発展状況はまさに順調だった。


交易により得た利益を元手にしているのでかなりの余裕がある。そこで元々住んでいた村民200人には終身の免税とし、後から入ってきてくれた民にも周辺の五分の一という超低額の税金とした。

旧村民の一部は、終身の免税には難色を示したが、ハジメが村民に

『今まで頑張ってミルズを守ってきてくれた分で十分納税をしてもらってるからね。これからは俺が皆に恩返しさせて欲しいんだよ。これは俺のワガママだから悪いが付き合ってもらうよ。』と伝え、旧村長を始め高齢者達は皆涙して申し出を受け入れた。


余裕が出た旧村民はジョシュワ商会で買い物をしてそれがまた僅かではあるが景気の循環を促していた。


ウイスキーの醸造もようやく温度管理の感覚が掴めてきたのか品質が一定になってきていた。この分だと年末には量産の目処がつくかもしれない。

(試作品の中で上手くいった物を侯爵に献上しなきゃな。)

屋敷の仕事部屋で日々の書類の決裁を済ませながら、ぼんやりとハジメは窓の外を見ながら考えていた。


そんな時、慌ただしい足音が聞こえドアをノックする音が響く。

ノックの主は警備隊長のロートンだった。


『ハジメ様!た、大変です!ミルズ山の方からモンスターが襲来しています。その数約200!主な種類はゴブリンとオークですが、中には指揮をとれるゴブリンリーダーや魔法を使えるオークメイジもいる模様です!』


『なんだって!まずはミルズ山の麓で迎え撃つぞ!念のため街の皆には地下の避難場所への誘導を頼む。そして後の対応もあるからルウムのルーカス様への報告も1人頼む。

シアさんはココの指揮を頼みます。』


『分かりました!ハジメ様自ら出ますか?』


『私が出た方が魔法で数を減らせるでしょう。前線と屋敷との連絡がつくようにしてもらえると助かります。』


『それでは馬の扱いが上手な者に連絡要員の役目をさせます。ご武運を!』


急いで戦支度をしてミルズ山へ向かって馬を走らせる。

前線は何とかまだ持ちこたえてくれた。


『みんな良く持ちこたえてくれた。俺が来たからにはもう大丈夫だ!前線に魔法を打ち込むから一時下がってくれ!』

ハジメの声で士気が上がる


『おぉ、領主様自ら来てくれたぞ!これで大丈夫だ!!皆、指示の通り一時下がれ、魔法の巻き添えになるなよ!』前線を指揮していた古参の警備隊の小隊長が指示を出す。


(前に練習しておいた広範囲に魔法で作った矢を降らすアローレインを試してみるか。)


両手を前に出し魔力を集中させる。

(イメージは三国志の映画とかで出てくる大規模な戦闘シーンに出てくる弓兵の一斉発射だ。)

『幾千の魔法の矢よ、我の邪魔をする敵を撃ち抜け!アローレイン!!』


天に向かって放った魔力は矢の形になり放物線を描いて重力で加速して魔物の群れに降り注ぐ。個別に照準を合わせていないのでおおよそではあるが半数には魔法が当たったとは思う。

さすがに敵の行進が止まり、こちらにもチャンスが訪れる。


『今だ!1人で行かず3人で一体ずつ倒して行け!』小隊長が再び前線を押し上げようと指揮する。


『今度は後方のオークメイジに狙いを絞る。巻き添えにならないように戦ってくれ!』


『了解しました!いいか、お前ら!領主様の

魔法に当たるなよ!』小隊長の指揮にも熱が込もる。



30分後 

ほぼ魔物を討伐し、残りは2メートルはゆうに超える大きなオークとその側近のみとなった。手に持った斧はとても人間には振り回せる代物ではない。


『あれは…オークジェネラルなのか?』小隊長が呟く

『ジェネラルという事はアイツがこの軍団のトップということか?』

『ハッ。おそらくそうかと…。私も以前一度しか見た事が無いので』


『ムシケラのニンゲンドモのクセにコシャクナ。』


『人の言葉を話せるのか?』


『間違いありません!ジェネラルクラスは知能もそれなりに高く言葉を使えます。力は人間の何倍もあります。領主様危ないのでお下がり下さい。』


『いや、尚更ココは俺がやる。下がっててくれ。』


ストレージから槍を取り出して低く構える。

(前にルーカス様に見せてもらった武器に魔法で炎を纏わせるヤツならオークの隙を作れるかも。)

槍の穂先に炎を纏わせる。一突き二突きするとやはり炎が気になってる感じだ。


『ググ、コシャクナ!』一気に決めにきて大振りになった所を身体強化の魔法でこちらも一気に距離を詰めて心臓を一閃した。


槍を引き抜くと穂先の炎が全身を包み、ジェネラルは大の字に倒れた。


後ろからは味方の歓声が聞こえる。

ハジメは高らかに槍を掲げ歓声に応えた。


半日後、魔物の追撃も無さそうだったのでハジメは一旦屋敷に戻ってきていた。

念のため今夜は山側の警備を厳重にして警備隊の半数を振り分けたが、幸いにも追撃はなかった。

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