第31話 その男、フランシスコ②

回顧


それは暑い夏の朝だった。


関東や関西よりも幾分は涼しいのかも知れないが、盆地であるこの街は蒸し暑い。

秋田県南部 大曲


全国的に花火が有名なこの街だが、それ以外の産業は、残念だかどれもパッとしない。

市内には大型のショッピングモールがあるが、空きテナントも多い。若者は皆、隣の盛岡や仙台、そして東京へと離れてしまい人口減少率も全国的にも高い。


男は市内の製造工場に勤める30手前の独身だった。昔から人見知りで奥手な彼には女性との付き合いも無かった。彼にも地元を離れる機会はあったのだがあえてこの地に残った。

そして彼にはある才能があった。


それは絵を描く事。彼は芸術肌の人間だった。勤めながら素人として絵を応募して賞を貰った事もあった。地元に残り在野の画家となる。それが彼のささやかな夢だった。

そんな彼を病魔が襲う。悪性の腫瘍、大腸癌であった。

入院中、彼は職場の友人から教えてもらった異世界転生のマンガを読むようになった。半年の後、癌が進行してしまい彼は帰らぬ人となったが死ぬ間際に異世界に行きたいと願ったのが叶ってコチラの世界、ムンドゥスに来ることになった。


彼はフランシスコという人間に転生したが、前世の記憶が微かに残っていた。


そしてフランシスコはついに出会う。

その前世の記憶を共有できる人を。



ついポロッと出て言葉だった。


それを聞いて領主様は「やっぱり』と笑った。色々と話してくれた、自分が何者かであるかをあの不思議な記憶が何なのかを。

自分を理解してくれる初めての人、それがハジメであった。


話す内に、眠っていた記憶が絵のように写真のように、動画の様に思い起こされる。

あの大曲の鮮やかな花火の色、稲穂が広がる水田の風景。そして雪深い乳頭温泉の銀世界に露天風呂を。



ハジメ視点


ハジメはフランシスコと話が弾み、予定していた面会時間を大幅に過ぎてしまっていた。

シアに諭されようやく自分が夢中で話をしたいた事が分かり顔を赤くした。

(こんなにも元の世界、日本の話をして時間を忘れるなんて。よっぽどこの手の話に飢えていたんだな。フランシスコは秋田出身なんだな。たしか日本酒も有名だし醸造や俺のイメージを皆んなに伝える橋渡しの役になって貰えると助かるな。とにかく良い人材がミルズに来てくれてよかった。)


フランシスコにはハジメの側で働いてもらう事にして後日改めて懇談の場を作る約束をした。


フランシスコが加わった事でハジメが助かると思っていたのと同じように、実はシアもフランシスコの加入に安堵した。


(ハジメ様の発想力、そのイメージを伝えてもらうのに自分だけではどうしても不十分だった。このフランシスコがいれば、同郷のハジメ様の考えを噛み砕いて説明できるのかもしれん。これは思わぬ拾い物だった。)


これでハジメとシアの間に通訳的なフランシスコを噛ませる事でスムーズに進んでいくことになる。


さっそくハジメは馬車のタイヤの改良版の試作をフランシスコにお願いした。

フランシスコの絵が上手だった才能がコチラでは設計の分野でおおいに役に立った。


ハジメは車のタイヤをイメージして無理矢理魔力で車輪にベルト状のタイヤもどきを巻きつけていたのだが、フランシスコは自転車のタイヤをイメージして車輪に被せる様なデザインにした。

こうゆう細かいイメージまでハジメには思いつか無かったので直ぐに採用して試作品を作らせた。

そして更に車輪の規格を見直して先にタイヤを作ってそのタイヤを枠としてこれに合うサイズの車輪を作る逆転の発想も行った。

これによりフランシスコが規格を見直し、定めたものはミルズ・フランシスコ規格と呼ばれ、タイヤはフランシスコタイヤと名前をつけてジョシュワ商会で販売。

大ヒットとなり後にミルズ村は一大生産拠点になった。


フランシスコがミルズに来てから3ヶ月が経った。ようやく季節も日本でいう春に近づいてきた。ミルズ村は人口が600人を越え、名称から村を外して、正式にミルズシティーとして通称ミルズの街へと名前を変えた。


人口もこの一年で一気に増えたので、シアにお願いして50人前後の警備隊を編成する事にした。ミルズは後が山のため、残り3方向だけの守りで大丈夫だし、往来は基本は正門の一ヶ所なので3方向は二階建ての見張り小屋を簡易的に設置して交代で見張に付いてもらう事にした。

そしてこの50人が万が一の有事の際に対外的には兵役にも繋がる組織だ。

警備隊長はパウロから紹介してもらったアウレリアの外郭部で警備をしていた経験のあるロートンという男に。


ついでにルーカスに倣い近侍隊も併設した。近侍隊の隊長は勿論腹心のシアにお願いした。


警備隊の装備は普段は軽装なチェーンメイルシャツと細身の剣レイピアや槍だが、共に質は良い物を商会から取り寄せてもらった。

ロートンが言うにはこんな良い装備はアウレリア時代も副隊長職クラスでもお目にかかれないと褒めてくれた。ハジメは出来るだけ街を守る人には良い装備をしてもらいたいと思っていたので褒めてもらえて嬉しかった。


制服のデザインをフランシスコにお願いした所さすがの出来になり、街の子供の憧れになった。




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