第30話 その男、フランシスコ
ミルズ宣言から1年
ミルズ村の人口は500人に迫る勢いだった。
これにより住宅地が不足になったが、ハジメが考案した集合住宅(アパート)のおかげで少ない土地でたくさん住めるようになった。
アパートは1フロア10戸×5階建の大きな屋敷の様になり、実際ハジメが寝起きをしている代官屋敷より立派になってしまった。
追加で公共の温泉も2つ増やしてエリア毎に使ってもらっている。
ウイスキー醸造所も試作のポットスチルが良好で、そのまま試験醸造をスタートさせた。
温度管理が難しく商品になるにはまだ暫くかかりそうだ。
そんな活気付くミルズ村を侯爵はいたく気に入り、ワグナー子爵の了承を取って正式にハジメに下賜する事になった。
これでハジメも領地持ちの貴族、領主となった。
自身の領地となった事で、税に関しても裁量が増えセメントや馬車に使うタイヤ原材料の輸出で好調な交易の税を使って人頭税を廃止した。
これは画期的な事で、本来貴族は様々な税を使って生活をしている様なものである。その中でも1番古く普及していた税が人頭税であった。文字通り、1人頭いくらと言う税で領主側も計算がしやすく集めやすい税である。
人頭税を取らない変わった領主がいる。しかもその村は庶民でさえ温泉に自由に入れ、領主も若く村人がイキイキ生活している。 ジョシュワ商会がこのように宣伝すればするほどミルズ村に人が集まってきた。500人を越えたら村から街へ変更しなければなんて話も出ていた。
そんな活気付くミルズ村に1人の男がやって来た。名をフランシスコと言い苗字はない。
ただこの男、自分には覚えがない不思議な記憶の持ち主であった。
フランシスコは10歳の頃、高熱にうなされ生死の境を彷徨っていた。その朦朧とする意識の中でアウレリアよりも大きな街でとても背の高い建物で机に座り不思議な光板を見て一日中働いていたらしい。馬より早い鉄の乗り物、空飛ぶ鉄の怪鳥…。高熱のせいで何か自頭の中が異常になってしまったのかとも思った。両親の必死の看病により数日後何とか一命を取り留めていた。
それから身体が嘘のように軽くなり、全く使えなかった魔法も使えるようになり、文字通り生まれ変わった様な感覚だった。
ハジメも村の酒場で面白い話をする男がいると聞いて会って話す事にした。
数日後の代官屋敷にて
『はじめまして、フランシスコさん。自己紹介は大丈夫だとは思いますが、ハジメ・ナカムラです。よろしく。』ハジメはいつもの挨拶にプラスして6cm×10cmの紙を手渡した。
フランシスコ視点
面会の前日
面白い新しい領主様の村の話がアウレリアの酒場で話題になってて、ちょうど仕事もクビになっちゃったし。
なんかジョシュワ商会が馬車代を出してくれるみたいだからダメ元で行ってみるか。
そうしたら数日で領主様に直接会える事になって、何でだろうと思った。酒場で話した例の記憶のことかな?
ちょっと面白い話をする男に興味でも持ったのかな?まぁ明日会ってみれば分かるか。服装も特に気にせず会いにきてほしいとか本当に変わってる貴族なんだな。
当日、朝に宿に馬車がきて迎えに来てくれたようだ。ただの平民に馬車なんて、悪い気はしないがなんか…恥ずかしいな。宿の女将さんにも驚かれちゃったよ。
馬車に乗って5分、あっという間に少し丘になっている所にある代官屋敷についた。狭い村だしすぐに着いた。
入り口で名前を言って案内されて中に入る。貴族の屋敷だからこんな田舎と言えど豪華なんだろうと思ったら…。飾り気は全くなく質素な感じだった。不思議そうにしていると案内をしてくれた女性に説明された。
『ハジメ様は貴族らしい贅沢を好まないお人です。利益は全て村のために使っていて村人から逆に税を納めにくるくらいに慕われてる珍しい私利私欲のない人なんですよ。私も盗賊に身売りされそうな所を助けて頂いてメイドの勉強までさせていただいて今こちらで住み込みで働いています。』
『へぇ、本当に貴族らしくない貴族なんですね。あ、不敬罪にはならないですよね…?』
『大丈夫ですよ。そんな事を気にする方では無いので、着きましたよ。コンコン、失礼します、フランシスコさんをお連れしました。』
ガチャと扉を開けて、執務室に入った。広さはそれなりなんだろうか?机やソファは高級感があるが、やはり室内は飾り気がない。棚にいたっては、なにやら茶色の液体が入った瓶だけだった。
『はじめまして、フランシスコさん。自己紹介は大丈夫だとは思いますが、ハジメ・ナカムラです。よろしく。』
領主様が挨拶に加えてプラスして何やら紙を手渡してきてくれた。
その時、ふと何かを思い出しつい無意識に話してしまった。
『頂戴します。私も…あれ?大変申し訳ございません。名刺を切らしてまして』
名刺?切らす?なんだ?
ハジメ視点
(やっぱり、この人も同じ境遇なんだな。見た目はこの世界の人間だし、前世の記憶が残っている生まれ変わりってことか?)
『試したような事をしてしまい、すみません。ただ貴方ならこのやり取りを覚えているのでは無いかと思ってね。貴方のその不思議な記憶はおそらく前の人生、それもこの世界とは別の場所で作った物ですよ。日本と言う国に覚えはありませんか?私は横浜に住んで都内に電車通勤してましたが。貴方が話していた馬より早い鉄の乗り物ですよ。』
『ニホン?ヨコハマ?初めて聞くけど、懐かしい気がする。しかしご領主様、どうして分かったんですか?』
『簡単ですよ、私も貴方と同じ世界に住んでいたからです。最も私の場合はこっちに来てまだ1年ですが、貴方は随分長くこっちにいるから記憶が残ってる程度なんだと思います。』
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