第26話 ミルズ村宣言

昼過ぎに村に着き、村長と現状の確認をしたハジメだったがあまりの状況の悪さにまずやらなければならない事からさっそく着手した。


村長の呼びかけで集まってくれたのは約180人残りは体調の悪く動けない老人などである。

急に集められた事で村長から少し話は聞いているはずだが皆不安な顔をしている。


簡易的なお立ち台の上にハジメが立つ

(久しぶりに大勢の前に立つな、緊張するがこの村の人達の生活を守っていくのが今の役目だ。)


『皆さん、楽な姿勢で聞いて欲しい。とりあえず皆んな座ろうか。』

一同は言われた事を理解するのにやや掛かった。

この世界は圧倒的な封建制度で村人にとって代官は言わば地方の殿様になり支配者側の人間だ。その人が男爵でも歴とした貴族なのである。その貴族の話しを聞くのに座って良いと言われてもピンとこないのである。


『台を用意してもらったが、俺もそっちに行って座って話したい。』台を降りて皆の前に腰を下ろす。当然村人はザワザワする。


『よいっしょ。さぁて話しを聞いて欲しい。まずは自己紹介からだ。ハジメ・ナカムラだ。一応男爵と名乗ってるが一代限りである。そして先にコレだけは言わせて欲しい。まずは村の皆よ、前任の代官が圧政を敷いていた様だ。苦労をかけてすまなかった。』


村人がさらにザワつく。上からでは無く自分たちと同じ所に座って気さくに話しかけてきて、尚且つ貴族が頭を下げて謝ってくれた。しかも謝っている内容は自分の事では無く前任者の事だ。村の皆が今までの代官とは違うと言うのが強烈に伝わった。


(貴族としては不適格だが、村人の気持ちを一気に自分に引き寄せた。あの話し方と村にきてすぐ伝えたスピード感がスゴい。何をしないといけないか直感で分かっている。今まで領地経営をしていない人間ができる事では無いのだが。やはり不思議な魅力がこの人にはあるな。本当に面白い人だ、この人を支えて行けばもしかしたら本当にクイル家を再興し父上の汚名も雪がれるかもしれん。)


『俺は皆に宣言したい。この村をもっと大きく豊かにしたい。その為に考えている事も幾つかある。だがその前にまず今年の税だが取られすぎてる皆の気持ちに寄り添いたい。今年と来年は無税とする。侯爵様から年に幾らか給金があるから今年と来年はそれを充てようと思う。もうすぐ収穫の秋になる。近々、王国一のジョシュワ商会が支店を作る事になっている。今年と来年の麦は皆そちらに売って自分の財産にして欲しい。また今年の収穫が上手くいかなった者は遠慮なく言って欲しい。出来る範囲であるが工面して面倒を見たい。言葉だけでは信用はしてもらないと思う。コレからの俺の働き方をしっかり皆で見て欲しい。その上で信用してもらえたら力を貸して欲しい。何卒宜しく頼む。』


しーんとした村の広場から拍手が起きそれが大きくなる。


『じゃ、まずは皆んなで飯にしよう。実は皆に挨拶する時に使おうと思って用意してた食材がある。酒も少しあるから今日は明日の仕事に響かない程度に羽目を外して欲しい。シアさん、レゴットさん、ライブリーさんも手伝って下さい。』


こうして久しぶりのキャンプセットからBBQコンロを出してアウレリアで調達しておいた肉を全部焼いて村人に振舞った。来れなかった人には近所の人間が持っていくことになった。

数少ない村の若者がハジメに声をかける。

『代官様。代官様はなぜそこまで見ず知らずの私達にしてくれるのですか?』


『難しい話しじゃないさ、それが本来の代官の仕事なんだ。偉そうにするのが仕事じゃ無い、民が困っているのをより良くしてその皆からの感謝を税としてもらって生活するのが貴族という者だ。少なくとも俺はそう考えて行動したい。だから納得してくれたら付いてきて欲しい。必ず今よりも住みやすいミルズ村にしてみせるから。』


こうして後にミルズ村宣言と呼ばれるハジメの語りかけは大成功となる。


翌日

朝からさっそくハジメは村の中の状況を確認して回った。

ライブリーから報告があった山側の柵や、傷んでる家屋、そして体調が悪い老人や病院達の訪問もした。


柵はさっそく囲い直しをして春に本格的に強化することにした。

家の壁はハジメの土魔法で一時的な補強をしてこちらも春に建て直す事にした。

治療に関しては本領発揮と言わんばかりに病人はほぼ改善され老人達も腰などの痛みを緩和させる事が出来た。

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