第23話 領都到着とジョシュワ家

12日目


ようやくハジメ達は領都アウレリアに到着した。

レゴットが先触れとして侯爵の住むアウレリア城に向かう。


ガリア王国南部侯爵領 アウストラシア地方にある領都アウレリアは人口30万人を誇る大都市で城の外壁が約5メートルと鉄壁の城塞でもある。王国の南を守る中心地だ。


ガリア王国建国以来、領主はガロリンク家が務めている。ガロリンク家の紋章は白い獅子と盾のモチーフなので庶民からは「南獅子公」の愛称で慕われている。


侯爵ともなると事前に書状を出していてもすぐにアポが取れる訳ではない。ここから数日はお声が掛かるまでアウレリアで待機となる。その間にカレンを実家へ送り届ける事になった。向かうのはルーカスとカークスとハジメだ。他のメンバーは宿で待機となる。


街の構造はやや楕円にはなるが南以外の外周部に庶民の住居や各商店があり、約2メートルの内壁側にはやや裕福な家が並び更に壁があり南側に貴族達の住むエリアがある。

この3層目にカレンの実家、ジョシュワ家がある。

通常、中心部に向かう際には門番の確認が必要となるが、カレンは顔パスであるし、男爵家であるルーカスも紋章を見せて勿論通る事が出来る。


ジョシュワ家の家は周りの貴族達の屋敷の中でも一際大きく広い敷地をもっていた。屋敷も壁も高くセキリュティも万全だ。


正門の前に馬車を停めてると、門番が2人確認の為に近づいてきた。

『ジョシュワ家に何用か?ただ今御当主様は緊急の用があり面会謝絶である。日を改められお引き取りを願う。』門番は丁寧な態度では有るが若干ピリピリした雰囲気だ。

それもそのはず娘が湯治の為に向かったはずが連絡が取れないのだ。


『お待ちなさい。私です、マリエッタです。お嬢様は無事です。こちらのワグナー家当主のルーカス様に助けて頂きました。パウロ様に早くお伝えをしたいのでこのまま通して下さい。』


『マリエッタ殿!念のために確認だけさせて頂きます。あぁ、お嬢様よくぞご無事で戻られましたな。今すぐ門を開けさせます。おい、お嬢様が戻られた!すぐにお館様にお知らせしろ!』


若い門番が槍を地面に落として全速力で屋敷に向かってかけていった。


『大変失礼いたしました。ご無礼をお許しくださいませ。』30代の門番がルーカスに深く頭を下げる。どうやら警備の責任者の様だ。


『かまわぬよ。私も娘がいる身だ。同じ状況であれば気が気でない。頭を上げてくれ。』


『はっ。寛大なお言葉ありがとうございます。改めましてこちらへどうぞ。入り口で場所はお預かりしておきます。まずはエントランスへ』


3メートル近くある大きな玄関の扉が開くとそこは3階まで吹抜けになっていてとても開放感があるホールになっていた。

ちょっとしたコンサート会場の様だ。左右に続く廊下は先が何メートルあるのだろうか。


『コレは壮観だな。コレでは我が家はまるで小屋だな。』自虐気味にルーカスが呟く。


『さすが王国一の商会の屋敷ですな。もやは子爵家どころの規模では無く伯爵家でもここまで屋敷はあまりないのでは…。』カークスも圧倒される。


2人が圧倒されて立ちすくんでいると上から大きな声がした。

メインの螺旋階段から恰幅の良い髭の男性がお腹を揺らしながら急いで降りてカレンの膝元にしがみつき涙を流す。


『おぉ、カレンよ、よく…よく無事に帰ってきた。ワシはもう正直ダメなのかと』


『お父様ご心配をおかけしましたが、戻ってまいりました。それよりも助けて頂いたワグナー様にまずは感謝のお言葉を』


娘が無事戻ってきて取り乱したパウロは恥ずかしそうに立ち上がり深々と頭を下げる。


『大変失礼をした。ジョシュワ家当主のパウロです。この度は娘を助けて頂き誠をありがとうございます。ワグナー卿がいらっしゃらなければ娘は…うぅ。』


慌ててルーカスも応える

『パウロ様。お顔を上げて下さいませ。私の様な田舎男爵に頭を下げては。』

『娘の命の恩人に爵位など関係ない。本当に、本当にありがとう』


『お父様、そして衰弱しきっていた私を治療して頂いたハジメ・ナカムラ様です。ハジメ様は私の身体の不調を見ただけで正確に当てて下さいました。今朝も出立の前に治療して頂き身体が今までが嘘のように軽くて元気になりました。』


『そ、それは誠か!おぉたしかに肌ツヤが前よりもずっと良くなっている。ナカムラ様、娘を助けて頂いたお礼を是非させて下さい!お金ならいくらでもご用意します。おい、すぐに金庫からもってきてくれ。』

パウロはハジメにも深く頭を下げてその両手をしっかり握っていたその握った手に大粒の涙が落ちた。

(よっぽどカレンさんの事が好きで大切なんだろうな、こんなどこの馬の骨とも分からない人間に頭を下げて。)


『子爵様、頭をお上げ下さい。私は何か金銭が欲しくてカレン様を治療したわけでは無いので、特に頂くものはありません。その涙が本当にお嬢様を大切にされているんだなとわかったので。』


『いやいやいや!そうはいかぬ!王国の中でも名医と言われる者に見せても何も分からず、アイツら金だけはしっかり毟り取っていたのに。』


『お身体に良い食べ物、反対に控えてほしい食材や生活習慣を書いてマリエッタさんに渡しているので後は養生して頂ければおそらく普通の生活に戻れると思います。どうしても疲れや痛みがある様なら私を呼んで頂けば治療に伺いますし。その時の旅費だけ貰えれば大丈夫です。』


『貴方はなんと欲のない人なんだ。ワグナー卿は素晴らしい家臣をお持ちで羨ましいですな。是非我がジョシュワ家に欲しい逸材だ。』パウロは目を輝かせてハジメを見る。


『パウロ様、ハジメ殿は私の家臣では無いのです。実は我が娘もハジメ殿に命を救われて、現在ワグナー家の食客としていてもらっております。また彼は博識で領内に戻りしだい正式に家臣の打診を、なんなら義理の息子になってもらっても良いと思ってます。』


『それほどでしたか…尚更欲しいが。先約がいるという事ですな。分かりました。』


『お父様、ワグナー様は本当は侯爵様に謁見されるのが目的でコチラに向かわれていたのです。侯爵様に御目通りするまで我が家でゆっくりして頂くのはどうでしょうか?』


『おおそうだったのか。カレンよそれは良い案だ。ワグナー卿よアウレリア滞在中は是非我が家で寛ぎ下さい。最近閣下もお忙しい様で私も数日待っている所なんです。そうだ!その際に一緒に登城しましょうか。少し伝があるので私から閣下にお願いしておきますから。』


こうして侯爵に会えるまで、一行はジョシュワ家で世話になる事に半ば強引に決まった。

ハジメも近侍衆も緊張したが、最も緊張したのは保護した使用人見習いの2人リリとランである。


厳しい寒村の娘がやむ得ず身売りに出されて男爵様に助けられただけても凄いのに、更に王国一の商人で更に上の貴族の家に行く事になるとは。

道中の宿でお腹いっぱい食べられて、自分たちの部屋が有るだけでも夢の様だったのに、与えられた部屋は深々のベッドがある10畳くらいの客室だった。

この広さで1人さすが辛かったのか、マリエッタさんにお願いしてリリとランは2人で1つの部屋にしてもらい滞在中はメイドの修行をさせてもらえる事になった。

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