第22話 夜明け前に
ハジメは少し悩んでいた。
(たしかに良い話だけど、この盗賊達は元頭の事を言いふらしたりはしないのだろうか?)
『あの、ルーカス様。疑問に思っている事が有るのですがよろしいですか?』
『どうしたハジメ殿?』
『あ、いや。感動的な話ではあります。シアさんも恐らく心を入れ替えてくれると思っています。しかしこの盗賊達はアシアさんがシアさんになった事を衛兵に話してしまうんじゃ無いかと思って。』
『それについてはだな。一つ良い方法がある。アビー来てくれ。』
『はっ。かしこまりました。』
(いったい何をするんだ?)
アビーはレゴットよりも小柄な、おおよそ騎士には向いて無さそうな体格である。
実際この旅でも主に主計を担当していた。
『少し時間が掛かりますのでマリエッタ殿はカレン様を連れて奥のソファで休んでいて下さい。』ルーカスは2人を奥のソファで休ませた。
アビーは何か呪文のようなものを唱え両手に光が集まる。その手を盗賊達の頭に1人ずつ当てていく。
『ルーカス様あれは?』
ハジメが問いかける
『あれは決してやましいモノでは無いぞ。商売などで使う互いの意思を明確にして契約を確認する魔法だ。それを応用して今回のアシアの事を話せなくさせるのだ。対価は自分の命になるがな。』
(たしかに契約に魔法で効力が発揮するなら有効な方法だ。命を助ける代わりに話すなよ、と言う事か。互いの意思が必要とはいえ脅迫したりすれば同意させる事は出来てしまう、使い方を誤れば危ういな。)
捕まえた盗賊10人と誘拐されてきた女性たち6人にもアシアの事を内緒にしてもらう契約をした。こちらは1人辺り金貨2枚で、この金は今後の生活の一時支援として提供する事になった。
こうして洞窟を出る準備が出来た所でシアが奥の小部屋から金属で角を強化している木箱を脇に抱えて持ってきた。中には金貨が1000枚近くと数枚の白金貨も入っている。
『コレはここ数年で悪い噂があった貴族・商家から奪ったお金です。こちらはルーカス様にお渡しします。どうか良い様ご些事を。そしてここの裏手の小屋に幌付きの馬車が一台あります荷馬車ですが、女性ならなんとか乗れると思います。』
『うむ。話を聞く限り、本人達に戻した所で表に出ない方が良い金ということか。分かった。こちらは我が男爵領の道路の補修や収穫が少なかった者への減税対策に使わせてもらう。アビー頼めるな?』
『かしこまりました。領内に戻りしだい勘定方の兄と相談して冬前に民が困らぬ様に手配します。しかし額が大きいのでこのまま持って行くのはいささか不安が。』
『あぁ、でしたら私が預かります。ワグナー領に戻りしだいアビーさんにお渡しします。』
アビーから箱を預かりストレージに入れる。
こうして洞窟を出た時にハジメの腕時計は朝の4時を指していて東の空はやや明るくなりかけていた。
眠気はあったがそれぞれ女性達は幌馬車へ、盗賊達は縄で数珠つなぎにして歩かせウプサラを目指して進み、ようやく昼頃に街に到着した。
入り口で門番と衛兵に事情を話し、女性達の保護と盗賊の引き渡しをお願いした。
そして盗賊の頭領アシアは戦闘中にハジメの魔法で燃えて死亡した事と証拠の使っていた斧と溜め込んでいたお金の一部を衛兵に渡した。
この世界では原則、盗賊達が奪ったモノは倒した人が受け取れるシステムで、依頼などが無ければ本人に返す必要は無いのだ。
衛兵が念のため依頼が無いか確認する必要があったので今日はこのままウプサラに滞在する事になった。
カレンとマリエッタもアウレリアまで同行することになったので、さすがに幌馬車では不味いので新しく馬車の手配が必要になるかと思ったが、そこはさすがのジョシュワ家。
ウプサラにもジョシュワ商会の支店があり、カレンが乗れるキャビンタイプの馬車が確保出来た。そして保護した女性達の靴や衣類もジョシュワ家の好意で用意してもらえた。
こうしてジョシュワ家で用意してくれた街で1番の宿に泊まり食事をとりこの日は皆早めに就寝した。
翌日の昼前
相手が男爵家と言うこともあり、大急ぎで確認してくれたらしくやはりお金に関しては依頼がでていなかった。更に盗賊団の壊滅の依頼があったので報奨金として金貨30枚と盗賊達の装備や換金しやすい宝石類で買取で金貨50枚になり計80枚手に入った。
木箱の中には約1000枚と数枚の白金貨が有るので今回の一件で大量の金貨を獲得できた。
これだけあれば、男爵領が約1000人規模の街なので十分に街の補修・整備や免税や減税に使えるだろう。
そして保護した女性中でまだ若い2人が、北の農村部の厳しい事情で身売りされた子供だったようだ。さすがに元の村にも戻れず行く当てが無いとの事だったので、このままワグナー家で保護する事になった。
とりあえずは領内に戻るまでルーカス達の身の回りの世話をする使用人として雇用した。きちんとした雇用なので給料(とりあえずはお小遣い程度だが)も出るし宿にも泊まれる。
これで人数が5人増えて馬車3台総勢12人でアウレリアに向かう事になった。
追記
貨幣価値を書くのを忘れていました。
銅貨 100 円相当
銀貨 1000 円 銅貨10枚で交換
金貨 10000円 銀貨10枚で交換
白金貨 100万 円
金貨100枚で交換大きな商会や
貴族の支払いなどで使われる
日常的な食料品は銅貨や銀貨での支払い。
宿は一般的な部屋と食事付きで銀貨数枚。
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