第20話 その男の過去
ルーカス達はハジメとレゴットを女性達の保護に割り振り、残り5人で奥に突入した。
対するは頭に剣傷がある大男を中心にならず者15名
『ワグナー男爵家当主のルーカス・ワグナーである。大人しく捕まれば命までは取らない。しかし抵抗するならばその首のみを警備隊に突き出すぞ。どうする?』ルーカスは大声で名乗りをあげ奥に対峙する大男を威嚇する。
『はぁ?ワグナー家なんて知らねぇし、たった5人で15人に勝てると思ってんのか?あん?』取り巻きのならず者達が笑い声をあげる。
『ふん、やれば分かるさ。それが返事と捉えて良いのだな?ルーカス様はここでお待ちを。まずは我らが近侍衆にお任せを』
『うむ。しかし奥の男は一騎打ちで決める。分かってると思うが邪魔はするなよ。カークス』
『はっ。心得ております。では皆の衆いくぞ!』カークスが大声をあげ槍を構えて突撃する。その動きはとても早く一陣の風の様だ。
カークスの後ろを3人が追いかけて、ライブリーがルーカスの前で大きな斧を地面に刺して仁王立ちをする。重量級のフルプレートがさながら大きな岩の壁である。
カークスの初撃で2人を串刺しにして槍を薙ぎ払う。鋭い穂先とサイドに小さな斧が付いているハルバードでその重さ何と5キロ。一般的なハルバードが3キロ前後なのを考えると倍近い重さ。それを片手で振り回して突っ込んでいく。近侍衆のリーダーはやはり強者である。
『無益な殺生は好まぬ。死にたい奴だけ前に出ろ!』
『チッ。どけ、テメェら。おい!貴族の腰巾着共、このバンダル様が相手してやるよ。』
弱い三下が後ろに下がり、出てきたのは大きな棍棒を担いだ男でその身長は2m近くある。
『ほう、少しは骨がありそうなヤツが出てきたか。』カークスは槍を構えて姿勢を低くする。彼我の距離はまだ約5メートル。バンダルの棍棒は巨大と言えど射程は7〜80㎝、カークスのハルバードは2.5mだ。
距離があれば不利なのはバンダルだ。ただし中にさえ入ってしまえば槍より棍棒の方が取り回しは楽だ。大男が直線的に一気に距離を詰めて、その重そうな棍棒を振りかぶった。
『甘いわ!』
カークスの声と同時にハルバードがブォンと大きな風切り音がした。数秒後、血飛沫が舞い、バンダルの両手首から先のあるはずの手と棍棒が無かった。
『ウギャー!お、俺の両手が!!』痛みのあまり膝から崩れ落ちる。
『おい、そこで見てる三下供。早く止血してやれ。早めに手当すれば命は助かるぞ。』
カークスは冷静にいや、冷たい目で言い放つ。
奥の一際大きいソファで踏ん反り返っていた、バンダルよりも縦にも横にも大きい男が面倒くさそうに立ち上がる。身に付けている鎧は山賊の頭領というよりはカークス達の騎士の鎧に近い気がする。
『か、頭助けてくれ。何でもする!もう分け前を増やしてくれとか文句は一切言わねぇから頼む。何でもする!だから助けてく…』
『じゃあ今死ね!役立たずめ』
男は持っていた斧をバンダルの頭に振り下ろした。バンダルはそのまま動かす絶命した。
『待たせたな。俺がこの盗賊の頭だ。お前らのせいでさっき仕事に出したヤツらもココに残ってたヤツらもほぼ壊滅だ。商売あがったりだ。まぁ、あんなバカな奴らはすぐ集まるがケジメだけはつけてもらうぞ。』
(あの言い方、それにあの鎧…傭兵かそれとも元騎士の可能性があるか?)カークスは鎧や言動から考える。
『ワグナーとか言ったな。南の果ての田舎貴族が偉そうに。どうせ侯爵へのご機嫌取りに領都へ上がってきた所を俺らに出会したんだろ?』
ルーカスも後ろからカークスの近くまで歩いてくる。
『ふん、偉そうなのはどちらだ?俺の事を田舎貴族だと分かっているなら、お前恐らくどこかの没落した家の者だろう?キズと薄汚れて見えにくいが鎧の胸の紋章に見憶えがあるぞ。』
『…しゃらくせえ。俺はただの盗賊の頭だ。昔は関係ねぇ。テメェらを半殺しにでもして身代金でも頂くとするぜ』
『一騎打ちだ。お前が関係ないと言っても名があるなら名乗れ。俺はルーカス、ルーカス・ワグナー。お前の言う通り南部の田舎男爵だ。』鞘からその両手剣を抜き、剣先に炎を纏わせてる。
『炎の魔剣か。こんな盗賊相手にもちゃんと名乗りをして一騎打ちか…。ちっ、分かった。元宮廷子爵クイル家のアシアだ。』
ハンドアクスを頭から引き抜き右肩に乗せて構える。
『クイル家?5年前あの河川工事の件で取り潰しにあった家の者だったか。』
『違う!あれは父上が不正をしたわけでは無い!伯爵家が責任を取りたくなくてトカゲの尻尾きりにあったのだ』
『何か事情がある様だな?』
『ふん、テメェに何が分かる?田舎貴族が。』
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