第18話 領都へ③

アドリアノープルから10日

昼頃にようやくアウレリア手前の街ウプサラに辿り着いた、さすがに皆の疲労の色が濃い。

そして7人の後ろには縄に繋がれた荒くれ者達と若い女性たちだった。


というのも前日の夜襲が問題だった。

相手は傭兵団崩れの盗賊、いや山賊だった。

その数約30人。 

まず襲ってきたのは10人前後だった。これは難なく撃破できたのだが、1人が逃走、それを追いかけていくとアジトがあった。


見張は1人だけでチャンスと言えばチャンスなのだが奥に何人いるかが分からなかった。

慎重に見張の男を倒して口を布で噛ませて喋れなくする。そして手と足を縛っておく。


天然の洞窟を拡張してるのか、露天掘りの鉱山の跡地なのか、中は高さ3メートル以上あり幅も馬車が通れそうな5メートルはあるだろう。


『ルーカス様、これは…それなりの規模の山賊共のようです。』近侍衆のトップで今回の旅の副責任者のカークスが唸る


『むぅ。かと言って見て見ぬ振りはできぬぞ。すまんが皆、踏ん張りどころだ。ハジメ殿はしっかり自分の身を守るように、もし余裕があれば手伝ってくれ。』

ルーカスは焦る気持ちを抑えつつハジメへの気遣いも忘れない。


『分かりました、ケガをしたらすぐに呼んで下さい。』


『回復役がいるのは本当に助かる。ナカムラ殿すまないが宜しく頼みます。では前はわたしが最後尾はライブリー頼むぞ!』カークスが声を掛けて洞窟を進んでいく。カークスにはコンパクトLEDの小さなライトを渡している。昨今キャンパーの照明には欠かせない軽量タイプだ。


大きく左に曲がっていく洞窟を進むと所々に小さなロウソクが建て付けてあって少し明るくなっていた。

カークスはライトを一旦消す。

更に進むと二股に分かれていた。

悩んでいると右側から何やら声が聞こえる男の怒鳴り声と女性の泣き声だ。

足音を消しながら後ろを警戒しながら右手の奥に進む。

すると奥から独特な異臭がしてきた。それは何日もお風呂に入っていない同じ服を着ている浮浪者の匂いだった。


バンダナをマスク代わりにして鼻に匂いが入らないようにする。

カークスが後ろにハンドサインを送る。


どうやら敵がいるみたいだ。


その光景は残虐で男の欲望だけを吐き出すモノでハジメにはとても我慢が出来るモノでは無かった。

(酷い。攫ってきて嬲ってるんだ…。いくら異世界でもこんな事が許されて良い訳が無い)


『抑えてください、ナカムラ殿。たしかに許されない事だが、今は慎重に進めていかねば』カークスがハジメをなだめる。


『えぇ。それにしてもやってる事がクズ以下だ。』


女性は目から光が完全に消えて虚ろな表情だ。異臭のする横穴のような小部屋には女性が7〜8人、男が1人だ。 


『レゴット、できるか?』小声でカークスがレゴットに尋ねる。

『お任せを。この距離ならはずしません。』

レゴットは肩から下げているバッグからストロー状の筒を取り出して先に何かを詰めていた。

『ハァ…やります。フッ!』

音も立てずに筒から細い何かが飛び出し一瞬キラリと光った。そして数秒後に男がドサッと倒れていた。


つい先ほどまで虐待されていた男が急に倒れて女性達は少し動揺していたが、もはや声を出す元気もないのか、その場に座り込むだけだった。


『見事だレゴットよ。ナカムラ殿はレゴットとココで女達の保護をお願いします。』

『分かりました。レゴットさん、女性達を治療をしますのでそれまで入り口をお願いします。』


ハジメとレゴットを残して5人が一旦別れ道まで戻り反対側を進んでだった。


『皆さん、まずは安心して下さい。我々は山賊を退治して皆さんを助けます。それではケガをされてる方はいますか?』ハジメが声をかけるが何故か反応が悪い。


『ハジメさん、もしかしたら乱暴されて何も考えられなくなって意識があまり無いのかもしれません。状態異常では無いけども回復魔法のキュアで改善するかもしれません。』

レゴット分析してがハジメに提案する。


『なるほど、一度かけてみますね。』

ハジメは1番近くにいた長身の女性に近づき頭の上に手をかざす。

『豊穣の女神よ、かの者の傷ついた身体を癒したまえ!キュア!』


『あ、あぁ…。ありがとうございます。頭にあったモヤがスッキリしました。そういえば、お嬢様は…。騎士様お願いです!あちらにおられるお嬢様にも回復魔法を』


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