第17話 領都へ②
結論から行くとタイヤは出来た。異世界なので、もはやタイヤと呼んで良いかはわからないが。最後は魔力に物を言わせてゴリ押ししたのだ。
『燃える黒い石って、炭石の事だったんですね。』
偶然見つけた洞窟に奇跡的に石炭があった。
この世界では逆の炭に石でタンセキと呼ぶらしい。石炭自体は知られてる素材のようで野営の時に火の補助として使うらしいが、使う人が限られているので流通してる物では無かった。
『そうです。たぶん同じモノかと思うので。それじゃコレを…』
コレを粉末状にして…。あれ?その後が分からなかった。
(たしか耐熱のレンガで空間を作って2000度くらいまで熱して、原油を吹きつけながら不完全燃焼させるんだったか?燃料は、オイルランタン用のホワイトガソリンならあるか。)
そしてもう一つの素材なぜスライム?だが、アドリアノープルに来る途中にスライムと遭遇した際にケリーが炎の魔法を使って倒した時に少しドロドロしていたのを思い出したのだ。
アレを再現してドロドロの状態でどうにか整形して黒い粉をいれて冷やしたら形になるんじゃないのか?と思ったのだ。
結果、粉々の加熱した石炭カスをドロドロになったスライムに残骸に入れて搔き混ぜ合わせて、竹に似たしなりがある植物で型を作り魔力で圧縮して冷やして形にしてタイヤモドキが出来た。
それなりに弾力性は残っており、みる人が見たらタイヤ…というか黒い円形のカバーと言わなくもないだろう。
まずは試作を一つだけ車輪の幅親指の長さぐらいだけで作ってトライアンドエラーを繰り返し、なんとか日が落ちるまでには使えそうなモノが出来上がった。
簡単な夕食をしながらルーカスは感心を通り越してやや呆れ気味にハジメに話す。
『君は本当に凄いな、知識だけじゃなく技術までもここまでとは。しかも魔力で物を圧縮するとは王都の魔導師院でも考えつかないだろうな。』
『たまたま上手くいって、形になっただけですよ。でも、とりあえずこれで明日からもまた動けますね。』
夜は幸いにも襲撃はなく、朝を迎える事が出来た。昨日の遅れを取り戻す意味でも早朝の出立となったが、思いの外新しいタイヤが好調で途中で休憩を入れたが馬の疲労が少ないようだ。
(理屈で言えば確かに車輪の運動エネルギーのロスは少ないのか?)
昼からには更に距離が伸びて山道に入ったのだが昨日の遅れを巻き返す事が出来た。
7日の夕方に山間の町 シグトゥナに辿り着いた。
シグトゥナはまるで北欧の田舎町にあるようなカラフルな屋根の宿場町らしく街道筋にホテルがひしめき合っていた。そしてここシグトゥナにはとある名物があった。
『あ〜ぁ、極楽♪極楽かな♪こりゃ生き返るな。』ハジメは今温泉に入っている。
近くの火山からの恩恵でシグトゥナは温泉があり各地から湯治に訪れる人が多くそれが山間の田舎町なのにホテルが沢山ある理由にもなっていた。
『なんだ君も温泉が好きか?』
タイヤの件以来すっかり打ち解けられた、ライブリーさんとレゴットさんの3人で入っていた。ルーカスの警備の都合みんな一気に入る事はできなかったので3人毎に交代制だった。
『えぇ、私も故郷も寒いところで温泉がある街だったので休みの日はほぼ毎日入ってましたよ。』
『そりゃ贅沢だなぁ。羨ましいぜ。なぁレゴット!』バシバシとライブリーがレゴットの肩を叩く。
『ちょっと!ライブリーさんのバカ力で叩かないで下さいよ。イテテ、もぅこれだから…。』
なかなか良い凸凹コンビである。
翌日しっかりリフレッシュ出来て、行程もいよいよ6割を消化した所だ。そして今日がこの旅の1番の難所である、ベスピオ火山のコパー峠越えだった。
コパー峠は物流や軍事の要所の為、道幅も広く定期的な街道の維持活動(小石や雑草の除去だったりゴミの清掃)もあり道はとてもキレイだ。しかしやはり峠だけあって勾配も急になるし一部だけだが標高が2000メートル級のなるために人や馬の体力を奪ってしまうのである。
(ふぅ、たしかに標高高そうだな。まえに登って福島の磐梯山並みだな。身体は若くなってるからから鎧を着てるけどなんとか息切れはしないな。それにしてもルーカスさんも近侍衆の皆さんも流石だな。)
もう少しで頂上付近の休憩ポイントだったのだが雲行きが怪しくなってきたので街道脇に少し開けた場所を見つけハジメのタープで雨宿りと小休憩になった。
タープはさすがにテントと違い空間が拡張されたりは無かったが、3×3のタープ1つしか持ってなかったはずがストレージの中には5×5メートルのタープが3つになっていたし、ポリエステルの薄い生地だったのが帆布っぽい厚手になっていた。
風がそこまで強く吹いていなかったので2つ張り、人と馬と馬車本体も雨に濡れずに済んだ。
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