第16話 領都へ①

アドリアノープルの正門を抜けて、6日目。南部から領都アウレリアがある中部は広大な穀倉地帯で中央には大きな河ドナウがありこれが大麦の生産を支えている。

その平地を抜けていよいよ山道に入ろうとする辺り。旅路も残り半分かいう時にアクシデントは起こった。


モンスターに襲撃されて馬車の車輪が壊れてしまったのだ。

襲ってきたモンスターは主に森や山間部に生息している、体長が約80センチのフォレストウルフの群れだ。その数15。サイズは絶滅したニホンオオカミより一回り以上大きい。


コチラは男爵のルーカスを含めて7人。スピード重視の行軍だったので最小人数になった。

敵の数に緊張したが、護衛の騎士達は余裕がある。ルーカスが馬車から飛び出ると鞘から剣を抜く。ケリーと同じような両手剣いわゆるロングソードだ。

左手には呪文で炎を作りその炎がロングソードに移る。

そして振りかぶると炎が剣圧とと混ざりフォレストウルフに向かって真一文字に飛んでいった。


一瞬で黒焦げになり動けなくなるフォレストウルフ。


(すごい、圧倒的に強い。剣に魔法を纏わせて、それを飛ばしてしまうって。

さすが異世界だ。これなら正直ルーカスさん1人いれば勝ってしまうな。)


連れてきた騎士もさすがの腕前でなんの苦労もなく大部分を倒し残りは散り散りに退散していった。


『みなさん、さすがですね。あっという間に倒してしまって。それにしても車輪がダメになってしまいましたね…。』ハジメが感心しながらも残念そうにルーカスさんに伝える。


『仕方ない。今夜はここで野宿になるな。幸いにまだ夜になるには時間がある。車輪も近くの森から代わりになる木を切り出して次の村まで応急処置出来れば良い』



『あの、野宿にはならない便利なアイテムがあるので。ぜひ使って下さい車輪もそこで仮の物を作りましょう。』


『ん?君がそう言ってくれるなら、その便利なアイテムを使わせてもらおうか。』


20分後、ハジメがテントを設営した時は皆が、確かにルーカス様がゆっくり休めそうかと気休めくらいには感じていた。

パッとみた感じ、せいぜい2人が限度のテント。主に野宿をさせなくて済むなら気が楽になる。


『皆さん、お待たせしました。それではまずはルーカス様中にどうぞ。』

ハジメに促され中に入るとルーカスは大きな驚きの声を上げる。

何事かと護衛の騎士達も中を覗くが皆同じ反応になる。


『驚かせてすみません。見た目よりも中がずっと広いので上手くいけば全員寝れるのかなと思います。』


『これは、すごいな!一体どうゆう構造になっているか分からんが確かに便利なアイテムだな。見張り番は2時間で2人交代にすればいい。あとは車輪の代わりの木を探せられれば。』

ハジメはこの時何か出来ることは無いか考えていた。

(馬車の構造なんて分からないから修理はお任せするとして、元の世界の知識を活かして何か改善できる事は無いだろうかな?

例えば、車輪にタイヤを付けてみたりキャビンの下にクッションやサス的な何かがあれば乗り心地も耐久性も向上するんじゃないか?)


『サスペンションは無理にせよ、タイヤなんとかならないかな?』

ハジメの独り言だったのだか、ルーカスが興味をもった。


『なんだ?そのタイヤとやらは?』


「あ、いや。私の世界には馬が動かさなくても動く自動車と言うものがあってそれにも車輪があるのですが、黒いゴムで覆って動き易くしてるんですよ。それがあれば耐久性も上がるし、何より馬の脚の負担も減るかなと。』


『ほぉ?そのゴム?とやらは何かで代用出来ないのか?おい、レゴットよ。ハジメ殿が考えるアイデアの手伝いをしろ。物知りなお名前が適任だ。』


レゴットと呼ばれた騎士が呼ばれる

確かに他の騎士より細身でどちらかと言うと頭が切れるタイプなのかもしれない。


『はっ!近侍衆のレゴットです。ナカムラ様、宜しくお願いします。』

『こちらこそ宜しくお願いします。それではまず…。』


話す事約10分程。


『では、その石炭や石油とやらから取れる黒い素材カーボンブラック?と何か弾力と厚みがある程度確保出来る素材を探してみます。』


『おそらく、石油はないでしょうから、高温に燃える黒い石があれば助かります。弾力の方は…。あ、もしかしたらスライムってモンスターこの周りにいますか?柔らかくて骨がない液体状の魔物です。いたらこのバケツに入れてきて欲しいです。』


『スライムですか?たぶんその辺の茂みにいると思いますが?ライブリー、すまないがスライムを数体狩ってきてくれ。』

同じ近侍衆のライブリーにも声がかかる。大柄な男だが歳は1番下らしい。


『分かりました。この器一杯に入れてくれば良いんですね?』バケツを担いでライブリーが茂みへと入っていった。


『私は作る準備をしてますのでお二人とも宜しくお願いします。』


(上手く行くか分からないけどスライムを似たら弾力性は残して少し固くなってくれれば良い。ダメならさっきのフォレストウルフの皮で革のベルトみたいなモノを車輪に巻きつけてみるか。)


こうして各々が準備に入った。




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