第14話 ガサ入れ②

奥の仮眠室は4畳ほどの部屋にベッドと簡単なクローゼットのみでクローゼットの中身も替えの服やコート寝巻きが入っているくらいで特に不自然なところは無さそうだ。

ベッドの下もマットレスの下も念のためシーツを外してみたが怪しい所は見つからない。

窓も小さな物で換気用程度のものだ。念のため開けると一気に風が入ってきたので慌てて締めた。


『スミスさん、そういえばこの仮眠室の隣の部屋は何に使ってますか?』ハジメが声をかける。


『はい、隣の部屋は防犯の為に何も使っておりません。今は掃除用具が置いてあるだけかと。一度ご覧になりますか?』

『えぇ、念のためお願いできますか?』


一度部屋を出て、鍵をして隣の部屋も見せてもらう。中は6畳ほどあるのに確かに何も家具なども無く、本当に掃除用具があるだけだった。


『なるほど…こちらは確かに何も無さそうですね、ありがとうございました。ところでケリーさん、そろそろお昼になるんじゃ?』納得した様な素振りを見せたがハジメは腕時計見て話を一旦逸らした。時間は12時半を過ぎていた。


『おぉ、そうだったな。つい集中してしまっていた。スミス殿、一度ワグナー家に戻りまたこちらに伺う方にする。』


『畏まりました。ではお待ちしております。』


迎えに来ていた馬車に乗りワグナー男爵に戻る。その車内


『うーむ、中々無いな。昼からはどうする?』

『いや、おおよそ分かりました。』


『何?本当か?』

『ええ、ヒントはあの何もない隣の部屋ですよ。』


『どう言う事だ?』ケリーにはあまりヒントになってなかったようだ。


『いいですか、たぶん仮眠室と隣の部屋の間には空間があります。』

『なぜそう言える?』


『普通部屋を仕切る為の壁の所に柱はありますよね?そうすると外の廊下の壁の柱と部屋の壁の柱は同じ場所にありますよね?』


『それはそうだろう。しかしどちらの部屋も壁が曲がっている様には見えなかったぞ?』


『曲がってはいませんよ。隣の空き部屋の間取りが少し変だったんですよ。廊下側の柱と中の壁の位置が違ってたんです。と言う事は、後から壁の位置を変更したんですよ。きっと部屋を広くしたいとか、警備上の為に壁を厚くしろとか理由をつけてね。おそらくはクローゼットの中の背中の板をどうにかするとその空間に出入りできるんじゃ無いかと思います。』


『先ほどクローゼットは見たが変なところは無かったぞ?』

『私がさっき小窓を開けたのを覚えてますか?』

『あぁ、今日は風強くてすぐ閉めたが?』


『あの時、少しですがクローゼット側に風が流れた気がしたんです。なので仮眠室の間取りと隣の空き部屋の間取りから考えるとあそこぐらいしか無いですよ。昼からは一気にガサ入れしますよ。』


『そのガサ入れの意味が良く分からんが、とにかくすごい観察眼だ。午後からは仮眠室のクローゼットをもう一度調べよう』


約1時間半後昼食を挟んで再開する。

ハジメの時計では、およそ14時半。

夕方には引き上げるので残りだいたい3時間だ。


『では、スミスさん午後からも宜しくお願いします。それじゃ、クローゼットの中の服を一旦ベットに移動させていきます』


目星を付けていた仮眠室のクローゼットの背板に手をかけた時にスミスさんが動いた。


『そこまで分かっていたのですね、今日はさすがに分からないと思っていましたが。お見事です。鍵はおそらく…万が一念のためにと渡されていたコチラです。』


ハジメが背板が横にスライドさせると小さな鍵穴が出てきた。


『その鍵を貸してください。』鍵穴にピッタリとハマり、鍵が開いた。


中は3畳位の小部屋だが、棚があり、箱が4つ並んでおり中は宝石が入っていたり、金貨が大量に入っていた。


『コレは侯爵に納める税とは関係ないものだな。隠している所を見るとおそらくは裏金か。これは父上、ワグナー男爵に報告させてもらうぞ、よろしいな?』


『恐らくそうでしょうな、あれほどお辞めなさいと申したのに。先代から引き続きお仕えしてましたが、これでハイマン家も終わりでしょう。ここ何年かいつかこうなる日が来ると不安に思ってました。いっそ見つかって気が晴れました。』


『子爵家をどうするかは侯爵に判断を頂かねばならないが、おそらく取り潰しだろうな。』

その後ケリーが実家に使いを送り、男爵自ら代官屋敷に来て陣頭指揮を取った。無論隠していた物は押収され証拠として登城の際に持参する事になり、ハイマンの奥方は代官屋敷に軟禁となった。


ハジメは探していたものが見つかりはしたが後味の悪い1日になった。

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