第13話 ガサ入れにいきましょう。

ワグナー家の客室を借りて一泊した。

朝ご飯も頂いていざガサ入れに向かおうとケリーさんとホールで合流した時に、主のルーカスさんに呼び止められた。

『その見慣れぬ紋章のマントでは捜査しにくい事もあるだろう。以前息子が使っていた軽鎧一式を貸すからそれを着て行きなさい。勿論ワグナー家の家紋入りだ。街の中もそれをつけている限りは襲われる事も無かろう。』


『大変有り難いのですが、家の者でも無い人間が身につけても宜しいのですか?』


『構わんさ、もう使う者おらんしな。』

少し寂しそうにルーカスさんが言う。


不思議に思ってるとケリーさんが目で合図をしてきた。

『分かりました。ではハジメ殿、兄上の部屋に行こうか。ついてきてくれ。』


ホールから2階へ上がり泊まった部屋とは反対の棟に移動する。兄上と言っていたからお兄さんの部屋なんだろうけど、入った部屋は広くキレイに掃除はされてるが、どこか生活感のない部屋だった。

就職や進学で旅立ってしまった実家の部屋のようだった。


『お兄さんはもしかして、別の所で生活しているの?』ハジメは軽い気持ちで聞いてみた。男爵の息子ならば、結婚したりでどこかに別の生活拠点があるのかも知れない。


『兄上は数年前に流行病でな…。母上もほぼ同じ時期に』

『それはすまなかった。無神経な事を聞いてしまった、ごめんなさい。』



『いや、ハジメ殿に数年前の事なんて分かるわけ無いしな。それに過去の話だ。さて少し細身だが兄上と身長はほぼ同じくらいか。』


鎧の付け方が分からなかったので、ケリーさんに手伝ってもらった。

『ちょっと余裕があるけど、サイズ感は良さそうだ。見た目と違って意外と重たく無いんだな』

(思ってたより軽いな。てっきり動けないくらいの重量なのかと心配したよ。)


『軽鎧だからな。大規模な戦争になればフルプレート(全身鎧)になるがな。うん、なかなか似合ってるではないか。」

ワグナー男爵の紋章は立ち上がる獅子と盾の意匠のようだやはり中世の貴族感があるデザインだ。


改めて思うが、あの某怪人組織のマークはなんなのであろう?


装備を整えて、馬車で子爵の代官屋敷に向かう。今日の馬車はワグナー家の物だ。もちろん御者はワグナー家の人間が務める。


訳10分後、代官屋敷にたどり着いて門番に通してもらう。昨日と違い今日は晴れているが少し風が強いようだ。丘にある代官屋敷だとより強く感じる。


「およそ昼頃に一度迎えに来て欲しい、昼食は我が家で食べる』

『畏まりたお嬢様、では昼頃にこちらで待機しております。』御者は復唱して屋敷に戻って行った。


『さぁて、いよいよだな。』

『ですね。まずはバドラーと一緒に執務室から調べて行きましょうか?』


ホールでバドラーが来るのを待っていると、甲高い大声の女性の声が2階からしてきた。


「きたか…。どうにも奥方様は苦手でかなわん。』

どうやらケリーは相性が悪いらしい。



『見ない顔だけど、そちらの方が主人の暗殺の証拠を探しにきた責任者なのかしら?』


『お初にお目に掛かります。ハジメ・ナカムラと申します。故あって現在ワグナー家で仕事をさせて頂いております。以後お見知り置きを。そしてこの度は子爵様には大変残念な事が起きました。まずは子爵様のご冥福をお祈りします。もちろんこのような時期に屋敷の中を荒らされるのはご本意では無いでしょうが、何卒一つ宜しくお願い致します。』


『ふーん。まぁ分かっていればいいのよ。ケリーさんでしっけ?身を弁えている良い人が家来になって良かったわね。』


『ハジメ殿は、家来などでは…。』

グッとケリーの右拳に力が入る。


『ケリー様、時間が限られてます。さっそく執務室の方へ参りましょう。バドラー殿も案内を宜しく頼みます。では奥方様、これにて失礼致します。』



案内の途中でバドラーからハジメに声がかかる。『先ほどのご対応、お見事でしたな。この様な場に慣れておられる様で。』


『いえいえ、交渉事には少し経験が有りますが子爵様に失礼がない様に慎重にお話しさせていただいただけですよ。』


『左様でしたか。これは余計な事を申しましたな。お忘れ下さい。ではこちらが執務室でございます。中は二部屋に別れておりまして奥は仮眠と着替えができる様になっております。そしてケリー様はご存知と思いますが、私、スミスと申します。お二人を信じていますが念のため部屋の中に一緒に入らせてもらいます。部屋の隅のおりますので何なりとお申し付け下さい。』



『では、調べていこうか。』

『ですね、書類関係は見つけたらケリーさんに確認してもらいます。』


およそ一時間後


『うーむ。さすがにすぐ見える所には証拠を隠すことはないか。』

しばらく書類関係を中心に見てもらっていたケリーがハジメに声をかける。


『でしょうね。隠すなら普段は見えない所、例えば隠し部屋とか?』


『なるほどな。そうなると執務室よりも奥の仮眠室が怪しいか?』


『と、思いますね。次は仮眠室を見てみましょうか』 念のためバドラーに確認しようと振り返った時に一瞬目が泳いだのをハジメが見逃さなかった。


『スミスさん。すみませんがお水と、ベッドを汚すと困るのでスミスさんがつけている様な手袋をお貸し願いませんか?』


『あぁ、コレは気付かず失礼しました。ただいま飲み物の用意をさせます。そして手袋も用意しましょう。すぐ戻りますが、念のため一度退出して頂いて部屋に鍵を掛けても宜しいでしょうか?』


『勿論ですよ、その方が我々もこの隙に何かを持ち出したと後から言われなくても済む。お互いに嫌な気持ちになる事もないでしょう。』


『感謝します、では一度退出願います。』


扉の外でケリーとハジメが待つ。

『何もそこまでしなくても我々が盗む事など無いのだがな。』

ケリーは少し納得していないようだ。


『まぁまぁ、落ち着いて。それに目星はつきましたよ。それを話するのにスミスさんに席を外してもらったんですから。』


『ん?どう言う事だ?』


『いいですか。私が先ほど仮眠室の話をした後にスミスさんの方を振り返った時に一瞬ですが彼の目が泳いでいました。恐らく彼も執務室ではなく、仮眠室に何かあるのは分かってるんですよ。』


『なるほど、よく見ていたな。まるでそちらの方が本職の捜査官みたいだな。あ、戻ってきたようだな。』


「お待たせ致しました、手袋とお飲み物の用意が出来ましたので中の執務室のソファで御休憩下さい。』


水で良かったのに、わざわざ紅茶を用意してくれたので一服した。そして改めて仮眠室のガサ入れをする。



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