第12話 気分は捜査一課のデカ

『では、父上に一度報告して日を改めてこちらに伺います。奥方にもくれぐれも宜しくお伝えください。それでは』


代官屋敷を出てワグナー家に向かう。


帰りはバドラーが気を利かせて馬車を出してくれた。


代官屋敷から少し離れた所に周りよりやや塀の高い一軒の洋館が見えてきた。こちらがワグナー家がこの街でつかっている屋敷になる。


『おかえりなさいませケリー様、そしてナカムラ様もようこそワグナー家へ』


門番に挨拶されて中に入る。

話はボッシュから家の人に伝わっているようだ。


エントランスを横切りホールのある部屋に入ると体格の良い単発の大男とボッシュが暖炉の挟んで椅子に楽しそうに話していた。


『父上、ただいま戻りました。そしてお話があります。』


『おぅ、おかえり。話はおおよそボッシュから聞いていた。子爵の件だな。そして隣がナカムラ殿か?』


『はい。初めまして。ハジメ・ナカムラと申します。縁あってお嬢様と行動を共にしていました。何卒お見知りおきを。』



ハジメの挨拶の後に立ち上がるとやはり大きい。2メートル以上はありそうだ。ハジメもこちらにきてから背が大きくなった様で180以上ありそうなのだが、向かい合っていうと頭1つ大きい。その大男がこれまた大きな右を差し出してきた。


『娘が大変に世話になった。まずはお礼をさせてくれ。父親のルーカスだ。』2人はがっちりと握手をする。

(ゴツゴツした手で剣ダコが出来ている。こりゃ確かに文官っていうよりもゴリゴリの武家の人間だな。)


『挨拶もすみましたし、それでは父上お話が』


『あぁ、子爵の襲撃とその理由だな。』

ルーカスは椅子に座り

ハジメとケリーは向かい合うように横の三人掛けのソファに腰掛けた。


『まずは襲撃があったのは例の村の帰り道の少し茂みになっていて周りからは見えにくい所でした。恐らく待ち伏せされていたようです。私も部下の二人を失い右肩に矢が刺さりました。そこで窮地の所をハジメ殿に助けて頂きました。』


『んー。殺害予告は正直何度かは有った。未遂もあったし、ガセもあった。

あまり良い噂は聞かないしな。それでも今回は本当に襲撃され暗殺されたと。』


『良し悪しはありすが、本来であればお守しなければいけない方を殺されてしまっています。侯爵が下す罰はどんなものでも素直に受け入れようと思っています。』


『うむ。立場上の警備の責任者は私だ。私から閣下に判断を仰ごう。明日にでも先触れを出して登城の用意をする』


(悪いヤツなのに守れなかったら罰せられるとは理不尽だな。しかしそれがこの世界の縦割りの常識なら意を唱えるを唱えるのはマズいのか)

『男爵、1つ宜しいでしょうか?』


『ん?構わんぞ?それに男爵と呼ばなくていいぞ。そもそも見ての通りガラでは無いハハハ』

『ではルーカス様、子爵の不正に関しては如何されますか?子爵家のバドラーは知っていた様子。きちんと話を聞いて状況をまとめて報告できれば侯爵にも今回の事が正しくお伝え出来るのでは?』


『ほぉ、守れなかったのはやむを得ない事だったと。』


『はい。もし正規の任務として守れなかったのであれば護衛としてのミスにはなります。しかし、本来必要の無い仕事で発生したモノで無ければそもそも論にはなりませんかね?』


『確かに、正論だ。俺としても子爵が良くない事をしているのは薄々分かってはいた。それで娘が罰せられるのは正直なところ面白くはない。しかし証拠がなければただ娘を庇っていて身内に甘いと一蹴されるだろう。』


『私に少し時間を頂けませんか?先ほど話した感じでは、子爵の家令は信用出来そうです。こうゆう場合不正の証拠は必ず本人が確認出来る位置にあるはず。じゃないと不安になりますしね。』


腕組みをしてルーカスが目を閉じる。


(ふーむ。コイツはもしかしたら面白い人材かもな。若いが考え方が的確だし犯罪心理も分かっている。相手の心情も理解して、話しを上手く通そうとする。正直俺とて気に食わないハイマンの為に娘を犠牲にしたくは無い。賭けてみるか…)


『分かった。子爵家を調べられるように私の権限でなんとかしよう。人を用意するから好きに使って調べてくれ。ただし期限は登城の用意の間の2日だ』

『ありがとうございます』

『父上!その手伝いは私がしたいと思います。私も当事者なので。』


『本当は任務後だから少し休ませたかったが、分かった。お前がナカムラ殿を手伝ってやれ。時間も限られている、お前が考えて判断できるモノであれば俺に確認しなくても事後報告でやっていい。』


こうして明日からケリーさんと2日間でなんとか証拠を探し出す事になった。

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